ウィーン国立歌劇場2016日本公演 もっと知りたい!3つのオペラ①「ナクソス島のアリアドネ」

2016年5月23日 09:00

秋の来日公演で上演される3作は、いずれも不滅の傑作。あらためてどんなオペラなのでしょうか。初演までの紆余曲折や面白エピソードまでの「オペラ秘話」を、音楽評論家の石戸谷結子さんに楽しく解説していただきました。

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人気作曲家と文豪がタッグを組んだ、
悲劇・喜劇なんでもコイな凄ワザオペラ ─ 「ナクソス島のアリアドネ」

 
  ハプスブルグ王朝時代の優雅なウィーンの宮廷文化を描写したオペラ「ばらの騎士」で大成功を収めたR・シュトラウスは、次作の台本にもホーフマンスタールを選んだ。ホーフマンスタールは文豪として知られた高名な小説家。シュトラウスも人気絶頂で、「どんなことでもオペラにしてみせる」と豪語していた円熟の作曲家。その二人が選んだのは、ちょっとひねった作品だった。

 基になったのは、モリエールの喜劇「町人貴族」だが、それを下敷きにして二人の技巧派芸術家が創り上げたのは、前例のない超ユニークなオペラだった。まず喜劇「町人貴族」(2幕)に音楽を付けて上演し、続いてオペラ「ナクソス島のアリアドネ」を上演するという試みだ。上演にふさわしい劇場が見つからず、ようやく1912年にシュツットガルト宮廷歌劇場小劇場で初演された。結果は上演時間が長すぎたことと、通好みの内容だったため、成功にまでは至らなかった。その後、シュトラウスは「町人貴族」を切り離し、プロローグとオペラの2幕に分かれた「ナクソス島のアリアドネ」として改定。1916年にウィーン宮廷歌劇場で初演された。今回上演されるのは、この改訂版だ。

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 最初のプロローグでは、次に上演されるオペラの楽屋で起きるすったもんだが描かれる。成金で芸術には関心のないお金持ちが、パーティーの余興にオペラを作曲させて上演することを思いつく。しかし傲慢で気まぐれなお金持ちは、出演者たちに次々と無理難題をふっかける。とうとう時間がないという理由で、高尚なギリシャ悲劇と芝居小屋などでお客を笑わせている旅回り一座の即興劇を、同時に上演することになる。さあ大変、いったいどうなるのか。

 内容は手の込んだドタバタ喜劇だが、そこはさすがの手だれ、R・シュトラウス。聖と俗がみごとに融合した前代未聞の摩訶不思議でちょっとおしゃれなオペラが完成したのだ。

(石戸谷結子 音楽評論家)
 
 
Photo:Wiener Staatsoper_Michael Poehn


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