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[バイエルン国立歌劇場]寄稿:"ワグネリアンが泣いてよろこぶボータの『ローエングリン』" 山崎睦

[バイエルン国立歌劇場]寄稿:"ワグネリアンが泣いてよろこぶボータの『ローエングリン』" 山崎睦

ワグネリアンが泣いてよろこぶボータの『ローエングリン』


11-09.01Botha.jpg ワーグナーの諸作品と、同時にヴェルディの『オテロ』を代表とするイタリア・オペラのもっともドラマティックな役柄をレパートリーに持つテノールとして、ヨハン・ボータは極めて例外的な存在だ。しかも、その両者をまったく遜色のない、高いレヴェルで歌っているところにボータの桁外れた力量を痛感させられる。
 ここ数年の実績を眺めてみても、『ワルキューレ』のジークムントをバイロイト、ウィーン、ニュヨークMETで、『タンホイザー』をロンドンとウィーンで、『オテロ』をミュンヘン、ベルリン、ウィーンで、『アイーダ』のラダメスをMETとウィーンで、『ローエングリン』をシカゴ、ロンドン、ベルリンで歌い、今後R・シュトラウス『影のない女』の皇帝役をスカラ座で、『パルジファル』をザルツブルクでも予定しているというふうに、いかにボータが全世界の主要歌劇場で重用されているかが一目瞭然だろう。
 そのような"超人"ボータの、さらに一段と凄いのが『ローエングリン』だ。ここで2005年のウィーン・プレミエで起きた大事件について述べよう。最大の聞かせどころ、ローエングリンの素性と名をあらわす「グラール語り」で前半部のみならず、通常聞くことのない後半部を続けて歌い通す"完全版"をボータは実現した件だ。長丁場を経て、ようやく大詰めで歌われる「グラール語り」だけに、並みのテノールは疲労の極地に達していて余力がない。これまで2~3の全曲盤録音では聞くことができるものの、実際の舞台でこの部分を歌うテノールは、筆者の40年の経験を通しても皆無だから、筋金入りのウィーンのワグネリアンが、文字通り随喜の涙を流してよろこぶことになったのだ。その後に続くシリーズでもボータは律儀に"完全版"を実行したから、ウィーンで彼の株は急上昇し、以後『ローエングリン』に出演するテノールは、ことごとくボータと比較される憂き目に遭うことになった。
 ボータの資質を高く評価していたウィーン国立歌劇場は、すでに『ローエングリン』プレミエの2年前に"オーストリア宮廷歌手"の称号を与え、同時に彼は史上最年少で表彰を受ける名誉を担っている。
 生来の輝かしい美声と強い声帯を持ち、同時に発声法をはじめとする卓越したテクニックを身に付けていることから、長時間の歌唱に耐えうる持久力があること。南アフリカ生まれのオランダ系でドイツ語が得意なこと、とワーグナーを歌うのに非常に適しているのは事実だ。さらに前述のように、現在『オテロ』を歌うことのできる数少ないテノールだけに、ボータはドイツ・オペラとイタリア・オペラの両分野を同時に制覇するドラマティック・テノールとして、オペラ界に君臨する、字義通りの"ヘルデン(英雄)テノール"と称することができるだろう。

(注:バイエルン国立歌劇場で現行のジョーンズ演出による『ローエングリン』では、2009年のプレミエ以来、「グラール語り」の後半部(第二部)は歌われていないため、日本公演でボータが当該部分を実際に歌うかどうかについては、現時点で不明)。 

山崎 睦(音楽ジャーナリスト 在ウィーン)
2011年9月 1日 18:16 公演関連情報

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