ローマ歌劇場2014年日本公演

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2013年12月10日

ローマ歌劇場だより〜リッカルド・ムーティ指揮『エルナーニ』でシーズン開幕

 日本公演『ナブッコ』『シモン・ボッカネグラ』のチケットがいよいよ発売開始されたローマ歌劇場。現地ではシーズン・オープニングのプレミエに沸いています。その活気ある様子を、オペラ演出家の田口道子さんがレポート!


 2013年11月1日に東京からイタリアに帰国されたマエストロ・ムーティは11月8日からローマ歌劇場のシーズン・オープニング演目『エルナーニ』のリハーサルに入られた。そして、稽古の合間を縫って11月18日にローマ歌劇場において『エルナーニ』についてのレクチャーをなさった。この何年か、マエストロが一人でも多くの人にオペラを楽しんでもらおうとの意図によって行われるようになったレクチャーは、当初大学の講義から始まったが、今では恒例となり、前回(2013年7月)の『ナブッコ』からはローマ歌劇場の舞台で、満場の聴衆を前に行われるようになった。


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 翌日から始まったオーケストラ付舞台稽古からは、オーケストラは一段と音に輝きが加わり、かなりレベルが上がってきたことがすぐに聴き取れた。舞台はウーゴ・デ・アーナの演出・装置・衣裳で、大変に美しい。マエストロはかなり熱を入れて午前と夜の一日二回の稽古を精力的にこなしていた。

 しかし、劇場にはある種の緊張感が漂っていた。毎日、新聞でも騒がれていたのだが、ローマ歌劇場は経済破綻をきたしていて、このままでは閉鎖されてしまうという恐ろしいニュースだった。まずは、総裁が更迭されて、管財役人が総裁の座に就き、職員のカットなど運営面の見直しが行われるというのである。それというのも、今年の10月にローマは市長選があって市長が変わり、市の予算の見直しが行われているからで、ローマ歌劇場ばかりでなく、市の交通機関やその他の公共機関も同じ問題が起こっているのだ。

 マエストロはこの三年間で生まれ変わったように素晴らしくなったオーケストラや合唱をこのまま見捨てることは出来ないと文化大臣と会談し、劇場を救う道を見つけるべく最大の協力をする意思を示した。

このような大問題を抱えながらも、オーケストラも合唱も全力を尽くして最良の公演にしようと努力を惜しまなかった。

 経済的に大変なときだからこそ、立派な舞台を見せることも大きな戦略の一つであると思う。経済的に厳しいからといって貧しい舞台にすると、観客の興味も薄れてしまう。美しくて素晴らしい公演ならば、観客の興味をそそり、チケットも売れるし、国もこの劇場を守ろうという気がより強く起こってくるのではないか。

 ゲネプロの日になって、文化大臣からの声明があり、管財役人任命は免れることになり、市からの文化予算も国が援助するという解決を見て、無事にシーズン・オープニング公演が行われた。

 さて、初日はナポリターノ大統領をお迎えして、国歌演奏から始まった。オーケストラも合唱も緊張感溢れる雰囲気の中で熱心に稽古を続け、大成功という結果をもたらせた。


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 カーテン・コールでマエストロは満場の観客の鳴り止まない拍手の中、舞台から、「この素晴らしい歌劇場を葬ることは出来ません。皆さんの援助をお願いします」と訴え、客席からの返事を促した。マエストロ・ムーティは「良い音楽を聴衆の皆さんのために届けるよう努力するだけ」とおっしゃっている。「必ず実現させる」と意欲をみせる来春のローマ歌劇場日本公演も、もちろん例外ではない。

                         田口 道子(演出家、在ミラノ)


photo: Lelli e Masotti/Teatro dell'Opera di Roma (レクチャー)
photo: Silvia Lelli/Teatro dell'Opera di Roma(「エルナーニ」)