モーリス・ベジャール振付 「第九交響曲」

東京バレエ団-モーリス・ベジャール・バレエ団共同制作 東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第7弾

7月5日（土）10:00a.m.　一斉前売開始 　東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第7弾となるのは、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)との共同制作によるバレエ・スペクタクル「第九交響曲」です。東京バレエ団では、この壮大なスケールの公演リハーサルをすでに3月からスタート。BBLの芸術監督ジル・ロマンが来日しての公開リハーサルの様子をはじめ、新藤弘子さんに公演への期待をご紹介いただきます。

“ベジャールの申し子”
東京バレエ団＆BBLの新たな相乗効果に期待！

　モーリス・ベジャール振付『第九交響曲』の日本初演は、1999年のNHKホールだった。大小さまざまの円や直線が描かれた舞台。奥にはオーケストラと合唱隊。黒い上着の男が現れ、パーカッションの響きとともにニーチェの「悲劇の誕生」の言葉を朗唱する。〈歓喜よ！　わが兄弟よ、心を持ち上げよ！　高く！　より高く！〉〈さあ踊ろう！　芸術が自由で、知識が喜ばしいものとなるように〉　ダンサーたちが走り出て、ベートーヴェンの音楽が堰を切る。
　このとき演じたのはパリ・オペラ座バレエ団。第１楽章では、大地をあらわす褐色のタイツの男女が、ふつふつとたぎる生命の力を、低くうねる動きや力強い跳躍で表現する。第２楽章は燃えるような赤い衣裳のダンサーが、活気あふれる踊りを展開する。第３楽章は静謐な水のイメージ。白い衣裳に包まれた身体がゆったりと描くラインが美しい。そして第４楽章は鮮やかなサフラン色の風。躍動感に満ちた男性ソロ、やがて合唱団が「歓喜の歌」を歌い上げる中、全ての楽章のダンサーたちが合流し、さまざまな肌の色やリズムをも巻き込み、渦巻くように踊る。観る者はいつしか、自分もその輪の中に加わっているような思いを抱く。
　あれから15年、壮年期のベジャールが描き出した壮麗な曼荼羅ともいうべきこの作品が、再び日本に帰ってくる。しかも今回は、モーリス・ベジャール・バレエ団（BBL）、東京バレエ団、さらにズービン・メータ指揮のイスラエル・フィルとメゾ・ソプラノ歌手として世界的に活躍する藤村実穂子をはじめとする実力派歌手たちの共演だ。期待が高まらないはずがない。
　４月11日、東京バレエ団のスタジオで行われた通し稽古は、快い緊張と熱気に包まれていた。第１楽章の音楽が流れる中、ダンサーたちがこぶしを突き上げ、幾度も跳躍し、身をかがめて床を踏みしめる。力のこもる男性４人の踊り、上野水香と柄本弾の伸びやかな、空間を大きく使うデュエット。そこにはすでに、本番で発揮されるであろう、華やかなオーラの予感が漂う。
　若手、中堅のダンサーがいきいきと踊る第２楽章。第３楽章は、中心を踊る吉岡美佳の真剣な表情と、風格を感じさせる動きに目を見張る。その完成度の高さは、リハーサル開始からまだ１カ月余りしか経っていないことを忘れさせるほどだ。幾組かのペアが加わり、踊りはさらに厚みを増してゆく。
　そして第４楽章、柄本のソロから、ダンサー全員による「歓喜の歌」へ。なだれ込むように登場した群舞は、列になり、半円を描き、また互いに逆行する二重の円となって走り続ける。
　かつてベジャールのもと、ダンサーとしてこの作品を踊ったピョートル・ナルデリが、ダンサーの間を飄々と歩きまわりながら、ユーモアたっぷりに指導を行う。「明日が本番でも大丈夫そうだよ、10月にまた来る必要はないんじゃないかね？」と笑わせて緊張を解き、個々のダンサーに対しては、気になる動きを納得のいくまでくり返させるなど、とことん丁寧に付き合う。アドバイスは技術的な面だけでなく、「相手の女性を美しい花、サクラの花だと思って踊るように」など、心のあり方にまで及ぶ。ダンサーたちも、それぞれの疑問を確かめるように、言葉に耳を傾け、身体を動かしているのが印象的だった。
　十分な手応えを感じた通し稽古だったが、むろんこれは東京バレエ団の踊る部分を観ただけで、全体像ではない。11月の本番でここにBBLのダンサーが加われば、パフォーマンスの厚みが一気に増すのはもちろん、新たな相乗効果や化学反応も期待できるだろう。BBL芸術監督のジル・ロマンが、３月の記者懇親会で「長年の夢の実現」と語った公演がいま、待望の秋に向けて、熟成の準備に入った。

（新藤弘子　舞踊評論家）

東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第7弾
モーリス・ベジャール振付 「第九交響曲」