ジョン・ノイマイヤー「京都賞」受賞記念 ハンブルク・バレエ団 2016年日本公演 7年振りに実現! 待望の日本公演の魅力に迫る 現代を代表する振付家、ジョン・ノイマイヤー率いる名門カンパニーが、話題作を携えてついに来日!  世界中の人々の心を捉え、絶大な人気を誇るその魅力とは──!? ジョン・ノイマイヤー 米国ウィスコンシン州生まれ。シュツットガルト・バレエ団で活躍したのち、フランクフルト・バレエ団の芸術監督を務め、1973年よりハンブルク・バレエ団芸術監督。数多くの振付作品を発表、その独特の心理的手法で人間の心の真実を描き出し、現代バレエ界の巨匠として絶大な支持を得ている。

『リリオム』が来る!

 ハンブルク・バレエ団が久々に来日することになって喜んでいるのは私だけではないだろう。何しろ、前回が2009年なのだから7年ぶりである。むろんその間に、東京バレエ団がノイマイヤーの『ロミオとジュリエット』を上演し、ノイマイヤー自身も来日したので、不在の印象はいくらか和らぎはしたが、しかしそれにしてもいささか間が空きすぎる。ゆうぽうとホールが所有者の一方的な都合で閉鎖されたことにしてもそうだが、日本には文化の全体を総合的に眺める視点が、政府にも民間にも欠落している。NBSの英断に感謝するのはこれもまた私だけではないだろう。

ラストシーンに鳥肌が走る

 ハンブルク・バレエ団が今回上演するのは『リリオム─回転木馬』と『真夏の夜の夢』。前者は2011年、後者は1977年の初演。ノイマイヤーがフランクフルト・バレエ団からハンブルク・バレエ団の芸術監督に転じたのは1973年、以後ほとんど半世紀を経るが、今回は、就任して間もない頃の作品と現在の作品を間をおかずに見ることができるわけだ。ちなみに、ノイマイヤーは『真夏』の前年に『幻想〜「白鳥の湖」のように』を、翌年に『椿姫』を作っている。1977年、ノイマイヤー35歳、脂の乗り切った時期である。
『リリオム』はハンガリーの劇作家モルナールの1909年の戯曲。鴎外の『諸国物語』所収の『破落戸の昇天』はその小説版の翻訳、最近発見されて話題になった川端康成の未発表戯曲『星を盗んだ父』は戯曲の翻案。20世紀の伝説的名作であり、何度も映画化されている。私見では、『回転木馬』の表題で封切られた第二次大戦後のミュージカル映画より、原題そのままの1934年のフリッツ・ラング監督作品のほうが良く、1930年のフランク・ボーゼイギ監督作品のほうがさらに良い。
 伝説的物語になったのは冥界下降譚の現代版だからである。すぐれたバレエはすべて冥界下降譚の要素を持つ。ノイマイヤーはそこに惹かれたのだ。

 遊園地で回転木馬の呼び込みをやっていたリリオムという人気者が、ジュリーという女の子と出会って一緒になるが、やはりリリオムに気があった回転木馬の持主のマダムに即刻、解雇されてしまう。ジュリーのためにも働こうとするが職がない。気が立ったリリオムはジュリーを思わず殴ってしまう。そのくせ赤ちゃんができたと告げられて、舞い上がってしまうほど単純。金が必要だと思い込んだリリオムはヤクザ者にそそのかされて強盗を企むが、根が素朴なために警官に取り囲まれて自殺してしまう。ここまでならば20世紀の伝説的名作にはならない。天国(つまり未決囚のための煉獄)へ行ったリリオムが16年後に一日帰宅を許されて帰ってくるのである。そこが名作の所以。原作では娘、バレエでは息子に会うのだが、そしてこの変更が秀逸なのだが、天国から星を盗んできて渡そうとしたにもかかわらず、ジュリーにしっかり育てられた息子は星を受け取りはしても、それ以上の親しさを受け容れようとはしない。怒ったリリオムは(煉獄で浄化されたにもかかわらず)思わず殴ってしまう。後悔するが間に合わない。だが、息子はその後に母に尋ねるのである。「殴られても少しも痛くないということがあるの?」「ええ、確かにあるわ、いくら殴られても、少しも痛くないの」。観客はここではじめてバレエ冒頭の父と子の場面がこの場面にほかならなかったことを知る。そして全体が回想だったことの意味に気付く。
 バレエではこの直後のラストシーンが凄い。公園のベンチの上、ジュリーが、目には見えないリリオムと精神的に触れ合うのだ。リリオムには(そして観客にも)ぜんぶ見えているわけだが、ジュリーにだけはリリオムが見えない。けれど、その愛だけは全身で感じるのである。ジュリーがそう感じていることが観客にはっきり伝わってくる。鳥肌が走る。これだけでもハンブルクに行く価値があると言いたいほどだが、今回はむこうから全カンパニーが来てくれるのである。しかも、初演同様、ジュリーをアリーナ・コジョカルが、リリオムをカーステン・ユングが踊るという。この表情だけでコジョカルは歴史に残る。

『椿姫』を観たルグランからラブコール

 音楽がまた素晴らしい。パリ・オペラ座バレエ団初演の『椿姫』を見て、ミシェル・ルグランがノイマイヤーにいきなり電話をかけてきたというのである。『シェルブールの雨傘』の映画音楽で有名なルグランである。ノイマイヤーとは面識がなかった。にもかかわらず、感動した、ぜひ一緒に仕事したい、何かできることはないかと率直に言ってきたという。それでノイマイヤーは長年温めてきた『リリオム』の音楽を頼もうと思った。出来上がった音楽は、私見では、『シェルブールの雨傘』より良い。主旋律に明瞭だが、感情が複雑なぶんだけ音楽も複雑になっている。複雑さは20世紀音楽のエッセンスといろいろなかたちで呼応しているところから来ている。
『真夏の夜の夢』の焦点が「目に見える、目に見えない」にあることは言うまでもない。『リリオム』はその主題をさらに展開しているのである。『真夏』──とくにメンデルスゾーンとリゲティの音楽について──はもちろん、ガラ公演《ジョン・ノイマイヤーの世界》についても触れたいのだが、紙幅がない。機会を改めるほかない。


傑作ミュージカルの原作をバレエ化 “乱暴者”の愛が感動を呼ぶ! 『リリオム─回転木馬』 原作:ウィリアム・シェイクスピア 振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン、    リゲティ・ジェルジュ、及び伝承音楽 装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

2011年12月、アリーナ・コジョカル主演で初演され注目を浴びた作品が、ついに全幕上演で日本初上陸! ハンガリーの作家モルナールの戯曲を、心理描写の名手ノイマイヤーがドラマティックにバレエ化、惹かれ合いながらも言葉にできない、ならず者のリリオムと純粋な女性ジュリーの不器用な愛、あの世とこの世にまたがる感動の物語の魅力とは──!? その多彩な見どころをピックアップ!

ミュージカルが大ヒット
世界中で歌われる名ナンバーも誕生

ミュージカル映画「回転木馬」(1956)
写真協力:公益財団法人川喜多記念映画文化財団

「リリオム」の物語を一躍有名にしたのは、ミュージカル界の黄金コンビ、リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世によるミュージカル『回転木馬』(1945)。アグネス・デ・ミルが振付を手がけたことでも知られ、1956年に映画化もされました(ヘンリー・キング監督)。日本でもたびたび上演、人気を得ているミュージカルで、ノイマイヤーも少年の頃に故国アメリカで観て、感動したそう。ビリー(=リリオム)に先立たれたジュリーが皆に励まされる場面で歌われる「人生一人ではない(You'll Never Walk Alone)」は、サッカーのサポーターズ・ソングとして世界中で歌われている名ナンバー!

ハンガリー出身の文豪
モルナール・フェレンツの代表作

モルナール・フェレンツ (1878~1952)
1940年にアメリカに亡命、英語風の表記、フランツ・モルナーの名でも知られる。

 原作者、モルナール・フェレンツは、ブダペストのユダヤ人家庭の生まれ。スイスで学んだ後、新聞記者として活躍し、小説や戯曲を発表。代表作『リリオム』は1909年にブダペストで上演された後、ドイツ、オーストリア、さらにニューヨークで上演、世界的な評価を得た傑作です。日本でも1927年の築地小劇場以来たびたび上演され、邦訳の戯曲も親しまれてきました(岩波文庫、中公文庫など※現在品切れ中)。児童文学の傑作『パール街の少年たち』(1906)の作者としても知られ、現在もハンガリーの国民的作家として広く愛されている作家です。

映画音楽の大家ミシェル・ルグランの音楽
×ビッグバンドの迫力の生演奏!!

 ノイマイヤーとの仕事を自ら望んだというミシェル・ルグランは、言わずと知れたフランス映画音楽界の大家。ジャック・ドゥミ監督とのコンビによる「シェルブールの雨傘」(1964)、「ロシュフォールの恋人たち」(1967)や「愛と哀しみのボレロ」(クロード・ルルーシュ監督、1981)などの音楽を手がけ、アカデミー賞やグラミー賞を幾度も受賞するという輝かしい経歴を誇っています。このバレエでは、1930年代のアメリカ、大恐慌時代の雰囲気をまとったビッグバンドのジャズで、『リリオム』の独特の世界を創り上げます。しかも、舞台上ではドイツの名門、北ドイツ放送協会ビッグバンドが生演奏! 1945年にハンブルクに創設された歴史あるビッグバンド、その迫力ある演奏を楽しみに!  ※演奏の一部は特別録音による音源を使用。

舞台は森の中。 3つの世界の住人が織りなす 幻想的でハッピーなバレエ! 『真夏の夜の夢』 原作:モルナール・フェレンツ 音楽:ミシェル・ルグラン 振付・衣裳・照明:ジョン・ノイマイヤー 装置:フェルディナンド・ヴェゲルバウアー

1977年にハンブルクで初演された、ノイマイヤー30代の頃の意欲作! 人間、妖精、そして職人たち、と3つの世界の住人たちが、それぞれ異なる音楽、異なる振付スタイルで表現される、バレエならではのユニークな手法で、シェイクスピアの戯曲の世界をより忠実に再現。オペラやバレエの装置・衣裳の巨匠、ユルゲン・ローゼによる美しい舞台に繰り広げられる『真夏の夜の夢』の3つの世界とは──!?

メンデルスゾーンの名曲が
描き出す人間世界

フェリックス・メンデルスゾーン

Photo: Holger Badekow

『真夏の夜の夢』といえば、メンデルスゾーン(1809〜1847)がこの戯曲のために作曲した劇付随音楽が有名。ノイマイヤーはその音楽を、ハーミアとライサンダー、ハーミアを追って森にやってきたデミトリアス、彼に思いを寄せるヘレナたちの、人間世界の場面に用いています。恋人たちのロマンティックなシーンや艶やかな結婚式の場などが、メンデルスゾーンの音楽にのせて鮮やかに描き出され、舞台の祝祭的な雰囲気はどんどん高まっていきます。

コミカルな演技から目が離せない!
手回しオルガンの音楽と職人たち

Photo: Holger Badekow

 公爵の結婚式のお祝いのために、劇を上演しようと計画している職人たちは、秘密の練習をするために森にやってきます。思わず笑ってしまう彼らのおかしなやりとりは、ノスタルジックな響きが印象的な手回しオルガンの音楽でコミカルに再現。クライマックスの結婚式で披露される劇中劇も、このバレエの愉快な見どころの一つです。

現代音楽の大家
リゲティがいざなう妖精世界

Photo: Holger Badekow

 妖精の王オベロンと女王タイターニアは仲違いの真っ只中! タイターニアは、インドの美しい少年を気に入り、頑として譲ろうとしない。オベロンはいたずら好きの妖精パックを使って少年を手に入れようと企てるが──。彼らが語らう森の中の妖精世界に私たちを導くのは、ハンガリーの作曲家リゲティ・ジェルジュ(1923〜2006)の音楽。オルガン作品の傑作「ヴォルーミナ」「エチュード」等の調べで踊られる彼らの世界は、息をのむほど幻想的。

映画化、バレエ化で時代を越えて愛される
シェイクスピアの喜劇

1600年発行の初版本の扉

 1595年から96年ごろに書かれたといわれるシェイクスピア初期の喜劇。森の妖精たちが活発に動き出す“ミッドサマー・ナイト”=夏至の前夜の祭りの騒々しさを思わせる、解放的、祝祭的な雰囲気と、生き生きと描かれた登場人物の魅力をもって、時代を越えて多くの人の心を捉えた人気作です。幾度も映画化されたほか、バレエ作品も多く、マリウス・プティパ(1876)、ミハイル・フォーキン(1906)などの先達に続き、フレデリック・アシュトン(1946)、ジョージ・バランシン(1962)ほか、数多の振付家たちの創作意欲を刺激してきた、魅力ある物語なのです。


振付家自身の案内で、一夜にしてその作品世界をたどる ガラ公演《ジョン・ノイマイヤーの世界》 パリ・オペラ座でも高評のシンフォニック・バレエ 『マーラー交響曲第3番』 ハンブルク・バレエ団芸術監督就任間もない1975年に上演された、若き振付家の才能ほとばしるシンフォニック・バレエの傑作。 20世紀ドラマティック・バレエの不朽の名作 『椿姫』 ショパンの調べが胸を打つ! 誰もが認める演劇的バレエの最高峰。 芸術家の愛と破滅を描き出す 『ヴェニスに死す』 ヴィスコンティの映画でも知られるトーマス・マンの名作を、振付家を主人公にバレエ化した2003年の作品。 宗教音楽の最高傑作を壮大なスケールでバレエ化 『マタイ受難曲』 J. S. バッハの荘厳な響きが胸を打つ、1980年初演のバレエ。ノイマイヤーがキリスト役を踊ったことでも知られる。 故国アメリカのリズムでスウィング! 『アイ・ガット・リズム』 1986年初演『シャル・ウィ・ダンス?』より。アメリカ音楽の象徴、ガーシュウィンで踊られるバレエ。

不朽のドラマティック・バレエ『椿姫』、映画で知られる『ヴェニスに死す』など 数々の名作を抜粋上演する、ファン垂涎のガラ公演。 ノイマイヤー自身が構成、舞台上で語りも行い、一夜にしてノイマイヤー・ワールドの真髄を体感できます!

 瑞々しい感性、きらめく音感、豊かな表現力。いま、キャリアの絶頂期を迎えたアリーナ・コジョカルは、振付家ノイマイヤーに招かれ、彼の本拠地ハンブルク・バレエ団で踊る機会が増えている。繊細な心理描写を積み重ね、ドラマティックに物語を描き出すノイマイヤーの作風は、確かにコジョカルの美点を輝かせる。今回主演を務める『リリオム─回転木馬』のジュリー役もノイマイヤーがコジョカルを希望し振付けた、いわば、彼女の魅力が詰まった格別の役柄だ。
 日本公演では『人魚姫』の王子役なども踊っているが、カーステン・ユングの魅力が際立つのは、少し陰のある個性的な役柄を演じたときだろう。粗野だが優しい心を持ち、不器用にしか生きられない男リリオムは、まさに彼のためにあるような役。2011年初演時のオリジナルキャスト二人が組む『リリオム』は観るものの胸に深く迫ることだろう。
 最近では、ノイマイヤーのほとんどすべての作品で主役を務めるエレーヌ・ブシェ。穏やかな雰囲気で、決して派手なタイプのダンサーではないのだが、その表情、演技、存在から、慈愛、希望、悲しみ、強さなど、さまざまな感情が静かに発散され、いつの間にか、目が離せなくなってしまう。
『ヴェニスに死す』のタッジオを演じたエドウィン・レヴァツォフは衝撃的だった。少年の無垢さと、危うさで、美の儚さをも感じさせたからだ。あれから十数年。いまやノイマイヤー作品には欠かせないダンサーへと成長した。長身ペア、ブシェとレヴァツォフが踊る『真夏の夜の夢』は人間の世界と妖精の世界を一人二役で演じ分けるもの。二人がノイマイヤーの世界をどのように描くのか、期待は尽きない。

 ほかにも、ハンブルク・バレエ団には紹介したいダンサーが大勢いる。小柄な全身から、視線、指の先、髪の毛一本からも感情があふれだす踊る女優シルヴィア・アッツォーニ。登場人物になりきり、生々しいまでの感情をあらわにするアレクサンドル・リアブコ。昨年夏の世界バレエフェスティバルで繊細な演技と確かなテクニックを披露したアンナ・ラウデール。先日テレビ放映されたノイマイヤー振付『タチヤーナ』で主人公に大きな影響を与えるカップルを演じたレスリー・ヘイルマンアレクサンドル・トルーシュなど、個性豊かな面々が忘れがたい舞台を見せてくれることだろう。


Interview 第31回京都賞受賞 ノイマイヤーが語る偉大な芸術、バレエ「ダンスは、人種も国境も越えたユニバーサルな言葉」

「人生においてもっとも大切なことは、誠実であることです。私の仕事に関連付けて言うならばそれは、本来の自分でいること、自己に忠実であること、そうした上で平和な世界を促進するという人生哲学を表現することです」
 バレエ作品を通して人の心の在りようをさまざまな形で描いてきたハンブルク・バレエ団の芸術監督、ジョン・ノイマイヤーが2015年秋、「京都賞」を受賞した。稲盛財団が掲げる“科学の発展と精神的深化のバランスが取れてはじめて人類の未来は安定したものとなる”という理念に基づき選考されるこの賞の、第31回「思想・芸術部門」での受賞である。過去の受賞者には、ピナ・バウシュ、坂東玉三郎、三宅一生、初代吉田玉男、安藤忠雄、イサム・ノグチ、モーリス・ベジャール、アンジェイ・ワイダ、黒澤明などなど、歴史に影響を与えた芸術家たちが名を連ねる。

 11月10日に行われた京都賞授賞式の直前、まずは自身が考える“舞踊が人間の精神にもたらす影響”とは何かについて、尋ねてみた。
「これについて話すとなると一日たっぷりかかりそうです。が、まず舞踊の特異性について言うならば、それは“人間の身体を道具として使っていること”であると思います。言葉を道具にすれば、時として翻訳が必要になりますが、身体の動きと言うのは人類共通のシグナルとして認識することができます。つまり、ダンサーたちの動きが観客の感覚に直接訴えかけ、そこに感覚的な、直接的なコミュニケーションが生まれます。ダンスは、人種も国境も越えたユニバーサルな言葉なのです」
 少年時代には絵画の才能を発揮し8歳から美術学校に通うも、青年期には演劇にも魅かれ、そんな中で次第に踊りたい衝動にもかられるようになったというノイマイヤー氏。同時に宗教や精神医学などにも関心を持ち、一時は神父、精神科医になろうと思ったこともあったそうだ。そうした経歴がそのまま、氏の精神の血肉となった。
「振付とは人の身体で空間をデザインすることです。そしてバレエのストーリーには精神的な動機付けが重要です」
 ダンス作品を作るうえで必要なエッセンスが、自然に氏の精神に蓄えられていたということである。「この仕事が、私を呼んだのだと思っています。私はそれに従い、以来ずっとこの仕事が与えてくれる喜びを享受しています。私の創る作品の全てには、私が影響されてきたことが入っていると言えるでしょう」
 世界中から最も愛されている代表作の一つ『椿姫』のような物語バレエでは人間に対する深い洞察力が大いに生かされていると言ってよいだろう。そして、ノイマイヤー氏が以前から日本文化と自分の思想の間に通底するものがあると感じていたことで、生み出された作品の存在も忘れてはならない。
「東京バレエ団のために振付けた『月に寄せる7つの俳句』には、私のバレエに対する必須要素の核とも言えるものが含まれています。『人魚姫』は日本の伝統演劇にうんと近づいた作品だと言ってよいでしょう。しかし私は意図的にそれを行おうとしたのではなく、日本の伝統芸能への関心から得たものが無意識的に表れたものなのです。私の一部になったものが新しいものを生み出すというプロセスを経た、自然の結果なのです」
 3月の来日公演は『リリオム』『真夏の夜の夢』そしてガラ公演《ジョン・ノイマイヤーの世界》の3本立てだ。
「『リリオム』も『真夏の夜の夢』にも、現実と妄想に対する革新的なエッセンスが盛り込まれています。ガラでは、作品を通して一人の振付家の人生を辿っていただけるかも知れません」
 そして最後にこう締めくくった。「バレエは人間を見つめ、それを全方位から表現することを可能にした、偉大な芸術です。そしてそこには、振付家の感情が必ず存在しているのです」


ジョン・ノイマイヤー「京都賞」受賞記念
ハンブルク・バレエ団

「リリオム〜回転木馬」

【公演日】

2016年
3月4日(金)6:30p.m.
3月5日(土)2:00p.m.
3月6日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

リリオム: カースティン・ユング
ジュリー: アリーナ・コジョカル

*演奏:特別録音音源+北ドイツ放送協会ビッグバンド

〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉

【公演日】

2016年
3月8日(火)6:30p.m.
3月9日(水)6:30p.m.

会場:東京文化会館

*演奏:特別録音による音源を使用

「真夏の夜の夢」

【公演日】

2016年
3月11日(金)6:30p.m.
3月12日(土)2:00p.m.
3月13日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ヒッポリータ/タイターニア: エレーヌ・ブシェ(3/11、3/13)
  アリーナ・コジョカル(3/12)
シーシアス/オベロン: エドウィン・レヴァツォフ(3/11、3/13)
  カースティン・ユング(3/12)ほか

*演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


【入場料[税込]】

S=¥23,000 A=¥20,000 B=¥17,000 C=¥14,000 D=¥11,000 E=¥8,000
エコノミー券=¥6,000 学生券=¥4,000

特別協賛
公益財団法人稲盛財団
主催
公益財団法人日本舞台芸術振興会/日本経済新聞社/テレビ東京
後援
ドイツ連邦共和国大使館