インタビュー ディアナ・ヴィシニョーワ

マリインスキー劇場を代表するバレリーナ、ディアナ・ヴィシニョーワが、今年8月、東京に戻ってくる。自身の名前を冠した公演「ディアナ・ヴィシニョーワ-華麗なる世界」で選りすぐりの現代作品を踊り、バレリーナとして進化した姿を披露するのだ。

 「日本では古典作品を踊る機会が多かったのですが、私には早い時期から様々な作品を踊りたいという気持ちがあり、フォーサイス、ノイマイヤー、プレルジョカージュといった人達とコラボレーションをしてきました。いま、現代作品は私の一部になっています」

昨夏の世界バレエフェスティバルで踊ったナチョ・ドゥアトの世界初演作『カンタータ』を創作した際は、彼が芸術監督を務めるミハイロフスキー劇場に足繁く通ったそうだ。

 「新しいスタイルの作品に取り組むときには、振付家のカンパニーで団員と一緒にレッスンを受けて振付家のスタイルを吸収し、そのうえでリハーサルに臨むことをモットーにしています。指示された振付を記憶して踊るだけでは、満足できませんから。作品によって、力強さや重さを表現する等、古典バレエとは異なるテクニックが要求されます。筋肉の使い方を変えるため、体のラインが変化することもあります。限られた時間のなかで全てを学ぶのは、古典バレエの訓練を受けてきた私にとって大変なチャレンジです」

ロシア・バレエの殿堂マリインスキー劇場で揺るぎない地位を築いたヴィシニョーワが、古典バレエの枠組みを越えた作品から何を得たのだろうか。

 「現代作品を踊り始めた当初、どこか不自然に感じたことを覚えています。けれども、リハーサルを重ね、ステップの根底にある振付家の考えを理解することによって、見た目の美しさを超えた、大きな世界に到達できました。心のなかに潜んでいた、自分でも知らなかった感情が引き出されたようでした。古典作品のように動きに制約がありませんから、演技をさらに掘り下げることができるのです。表現のこの奥深さが、現代作品の魅力だと思います。 様々な作品を経験した結果、自分の世界が広がり、古典作品の解釈も深まったように感じます」

「ヴィシニョーワの華麗なる世界」のAプロで上演されるジョン・ノイマイヤー振付『ダイアローグ』は、今回が日本初お目見え。一対のパネルと二脚の椅子が置かれた密室のような空間で、彼女とハンブルク・バレエ団員のティアゴ・ボアディンが時に寄り添い、時に反発し合いながら踊り続ける。同作について尋ねると、ヴィシニョーワの明晰な語り口は、さらに雄弁になった。語るというよりも、この公演にかける熱い思いがいっきに溢れ出てきたかのようだ。

 「タイトルには重層的な意味があります。 原題は〈Dialogues〉、複数形です。ティアゴと私の語らい。コレオグラファーとの語らい。観客との語らい。ピアニストがステージで演奏する音楽との語らい。私のなかでは、自分自身との語らいという意味合いがいちばん大きいですね。ふだんの私はあまりオープンな性格ではないのですが、創作に臨む時には自分を解放し、振付家の素材になりきります。ノイマイヤーは、彼の目を通して見た私という存在や、私とティアゴの関係を作品化しました。人生という旅をしている、と言ってもいいでしょう。様々な感情がそこに生じます。私達はマラソンのように、ノンストップで踊り続けます。 肉体的にとても難しい。自分の限界を超えた動きをしなくてはなりません。といっても、楽に踊れるノイマイヤー作品なんて存在しないのですが(笑)」

この作品は、ヴィシニョーワが自身の公演で上演するため、ノイマイヤーに直々に振付を依頼し、一昨年の秋にサンクトペテルブルクで初演された後、モスクワ、ニューヨーク、そしてノイマイヤーの本拠地ハンブルクでも上演された。ノイマイヤーは、いま、彼女が全幅の信頼を置く振付家なのだ。

 「ノイマイヤーは、ドラマティックな作品をつくる、知的な振付家です。振付中の彼は口数が少なく、『ダイアローグ』のリハーサル時には、動きとジェスチャーでやり取りをした程度です。それなのに、とてもスムーズに仕事をすることができました。『ダイアローグ』を見た友人が、私の生き方がそのまま舞台にのっているようだ、と驚いたほどです。それほどまでにノイマイヤーと委ね合い、信じ合うことができました。彼の既存の作品を踊るだけでなく、創作を通して、ノイマイヤーと豊かなダイアローグを交わすことができたことに、とても感謝しています」

  ヴィシニョーワの他の出演作品も興味深い。同じくノイマイヤーの振付による『椿姫』(Bプロ)、クランコ振付『オネーギン』(Aプロ)、アロンソ版『カルメン』を彼女が日本で踊るのは、今回が初めて。いずれも自己の生き方を貫く女性を描いた作品である。ロシアの古参劇場のバレリーナという類型に安住しないヴィシニョーワの、鮮烈な姿がそこから浮かび上がることだろう。


4月6日(土)10:00a.m.より一斉発売開始!
ディアナ・ヴィシニョーワ-華麗なる世界

会場:ゆうぽうとホール

Aプロ
2013年
8月17日(土) 3:00p.m./ 8月18日(日) 3:00p.m.

Bプロ
2013年
8月21日(水) 7:00p.m./ 8月22日(木) 7:00p.m.

【予定される主な配役】
ディアナ・ヴィシニョーワ(マリインスキー・バレエ) 

ティアゴ・ボァディン(ハンブルク・バレエ)
エレーヌ・ブシェ(ハンブルク・バレエ)
アシュレイ・ボーダー(ニューヨーク・シティ・バレエ)
ホアキン・デ・ルース(ニューヨーク・シティ・バレエ)
マルセロ・ゴメス(アメリカン・バレエ・シアター) 
マチアス・エイマン(パリ・オペラ座バレエ団) 
イーゴリ・コルプ(マリインスキー・バレエ)
上野水香(東京バレエ団) Aプロのみ

ピアノ演奏:アレクセイ・ゴリボル(「ダイアローグ」「椿姫」)

共演:東京バレエ団

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