ミラノ・スカラ座 2013年日本公演

 イタリア・オペラ・ファンなら、ヴェルディのオペラにおいて、バリトンの役が特別な意味をもつことをご存知の方も多いでしょう。ヴェルディはバスとテノールの中間に位置するバリトンの広い音域と表現力を好み、数々の重要なバリトンの役を書きました。“ヴェルディ・バリトン”という言葉が使われるのは、ヴェルディが難度の高い音楽的テクニックと表現力の両方を求めたことから生まれたものです。『リゴレット』ももちろん、タイトル・ロールに“ヴェルディ・バリトン”を欠くことはできません。1851年ヴェネツィアでの初演以来、『リゴレット』の名演には、時代を代表する名バリトンの名が記されているのです。
 今回のミラノ・スカラ座日本公演では、すでにこの役で世界的な名声を獲得しているレオ・ヌッチが登場しますが、いままさに、新たに“リゴレット歌い”として名を連ねつつあるゲオルグ・ガグニーゼにも、期待が高まっています。
 グルジア出身のガグニーゼは、2000年代前半に数々の国際コンクールで才能が認められ、2000年代半ばから欧米での本格的な活動を開始、ほどなくスカラ座やメトロポリタン歌劇場(MET)へのデビューを果たしました。2009年、METデビューを飾ったリゴレット役には、「“彼は単にリゴレットを歌うために生まれたのではない。彼はリゴレットなのだ!”と、2005年に“ヴェルディの声”国際コンクールにおけるホセ・カレーラスの言葉がまさに証明された」、「彼が娘を思って懇願するとき、客席からはすすり泣きが聞こえた」、「ガグニーゼのリゴレットは、娘に与えられた暴力への激しい怒りを感じながらも、哀れな娘の従順さゆえの嘆願に、絶望的な哀しみへと移る心理状態を切々と伝える見事な表現力! 愛娘ジルダとの二重唱では、細かいレガートの歌と申し分のない演技力に目がくらむほどだった」(以上www.ConcertoNet.com)など、数々の絶賛の声が寄せられました。この成功により、2010年のシーズン・オープニングを飾る『リゴレット』にも再び登場することとなり、ここでは遂に「この世代における現代最高の“ヴェルディ・バリトン”の一人」(www.examiner.com)と評されることとなりました。以来、METでの活躍は著しく、『トスカ』のスカルピアでの“完璧な悪役ぶり”や、『アイーダ』の堂々たるアモナスロなどで観客を魅了しています。
 ガグニーゼが優れた“リゴレット歌い”として世界的に注目されているもう一つの事実として、2011年ウィーン芸術週間での新演出上演が挙げられるでしょう。リュック・ボンディ演出によるこの『リゴレット』は、スカラ座やMETとは異なるモダンな演出で、大がかりな舞台美術や一目で道化とわかる衣裳は無いものの、ガグニーゼ演じるリゴレットは、周囲の人々との確執や心の奥底にある歪んだ感情、一方では無条件な娘への愛情などを生き生きと表現してみせました。ここでのリゴレットの年齢は、いくぶん若く設定されているかに感じられましたが、現代の聴衆の感覚に近い“父親の苦悩”が表されたといえるでしょう。「イタリア的な声の響きを持つ堂々たるリゴレット」(theoperacritic.com)、「パワフルな噴火を思わせる激しい俳優が登場した」(Kurier)とここでのガグニーゼも高評を獲得しています。
 リゴレット役には、軽薄さと真剣さ、卑屈さと傲慢さ、情愛と冷酷、虚勢と真情、苦悩と憤怒、不安と絶望という複雑な心の動きを表現することが要求されます。時代が流れても、演出が変わっても、リゴレットに求められるものは変わることはありません。オペラの舞台がさまざまに多様化する現代、歌手には、あらゆる演出や状況に応じながら、作品のもつ本来の魅力を表すことが要求されます。これはある意味では、かつての名演が生まれたころよりハードルが高いかもしれません。ガグニーゼが現代最高のヴェルディ・バリトンの一人であり、“リゴレット歌い”として絶賛される大きな理由には、型にはまらない柔軟さをもった表現力で現代の聴衆に真に訴えかけるということがあるでしょう。
 ガグニーゼにとってリゴレットは、MET、ウィーンをはじめとする世界の大舞台で認められた自身最高の当たり役。昨年11月にはドゥダメル指揮『リゴレット』でミラノの舞台でも、スカラ座を代表する看板演目のタイトル・ロールとして十分な存在感を発揮しました。2000年の日本公演以来高まっている日本のファンの“もっともスカラ座らしい”『リゴレット』への期待に、存分に応えてくれること間違いなし!           

ミラノ・スカラ座2013年日本公演
ヴェルディ作曲「リゴレット」

会場:NHKホール

2013年
9月9日(月) 6:30p.m. / 9月11日(水) 3:00p.m. / 9月13日(金) 6:30p.m. / 9月15日(日) 1:00p.m.

指揮:グスターボ・ドゥダメル
演出:ジルベール・デフロ

【予定される主な配役】
マントヴァ公爵:ジョセフ・カレヤ (9/9, 13) /ジョルジョ・ベッルージ (9/11, 15)
リゴレット:レオ・ヌッチ (9/9, 11, 15) /ゲオルグ・ガグニーゼ (9/13)
ジルダ:エレーナ・モシュク (9/9, 13) /マリア・アレハンドレス (9/11, 15)
スパラフチーレ:アレクサンドル・ツィムバリュク
マッダレーナ:ケテワン・ケモクリーゼ

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