ローマ歌劇場 2014年日本公演 近況レポート

 2013年11月1日に東京からイタリアに帰国したマエストロ・ムーティは11月8日からローマ歌劇場のシーズン・オープニング演目『エルナーニ』のリハーサルに入った。そして、稽古の合間を縫って11月18日にローマ歌劇場において『エルナーニ』についてのレクチャーを開催。この何年か、マエストロが一人でも多くの人にオペラを楽しんでもらおうとの意図によって行われるようになったレクチャーは、当初大学の講義から始まったが、今では恒例となり、前回(2013年7月)の『ナブッコ』からはローマ歌劇場の舞台で、満場の聴衆を前に行われるようになった。先日、東京でもマエストロは特別に講演会を行ったが、熱が入って予定の90分をはるかに超えて150分もお話しされたことが記憶に新しい。

 今回はまず、ヴェルディの生誕200年であることから、ヴェルディの人柄を紹介するように、『エルナーニ』の台本作家フランチェスコ・マリア・ピアーヴェに宛てた手紙を読んで聞かせることから始まった。続いてマエストロのピアノ伴奏でエルナーニ(テノール)、エルヴィーラ(ソプラノ)、ドン・カルロ(バリトン)、シルヴァ(バス)がそれぞれのアリアを演奏した後、マエストロが楽譜を弾き語りしながら大体のあらすじを紹介した。オペラの紹介をしながらもマエストロはヴェルディのオペラの理想的な演奏の仕方を、例を挙げながら説明したが、マエストロの話術は大変巧みで会場の聴衆はまるでコミカルなワンマン・ショウを見ているように大笑いし、話に惹きつけられた。締めくくりに、アルベルト・ソルディという喜劇俳優主演の映画の一部を見せて大爆笑のうちにレクチャーを終えた。オペラの『椿姫』で医者の役をするバス歌手が、慣例となっている最終幕のカットに納得せずに、本番で指揮者や興行師の言いつけに従わずに歌ってしまうという場面を映したことで、マエストロの信念を表わしたことになる。

 翌日から始まったオーケストラ付舞台稽古では、オーケストラは一段と音に輝きが加わり、かなりレベルが上がってきたことがすぐに聴きとれた。舞台はウーゴ・デ・アナの演出・装置・衣裳で、大変に美しい。マエストロはかなり熱を入れて午前と夜の一日二回の稽古を精力的にこなしていた。しかし、劇場にはある種の緊張感が漂っていた。毎日、新聞でも騒がれていたのだが、ローマ歌劇場は経済破綻をきたしていて、このままでは閉鎖されてしまうという恐ろしいニュースだった。まずは、総裁が更迭されて、管財役人が総裁の座に就き、職員のカットなど運営面の見直しが行われるというのである。それというのも、2013年の10月にローマは市長選があって市長が変わり、市の予算の見直しが行われているからで、ローマ歌劇場ばかりでなく、市の交通機関やその他の公共機関も同じ問題が起こっているのだ。

 マエストロはこの三年間で生まれ変わったように素晴らしくなったオーケストラや合唱をこのまま見捨てることは出来ないと文化大臣と会談し、劇場を救う道を見つけるべく最大の協力をする意思を示した。
 このような大問題を抱えながらも、オーケストラも合唱も全力を尽くして最良の公演にしようと努力を惜しまなかった。舞台も毎日、不足していたものが補足され、ヴィデオ・プロジェクターで装置の上に映し出される画像の美しさには目を見張らされた。時代考証された衣裳も素晴らしく、本当に壮大な美しい舞台が作り上げられていった。
 経済的に大変なときだからこそ、立派な舞台を見せることも大きな戦略の一つであると思う。経済的に厳しいからといって貧しい舞台にすると、観客の興味も薄れてしまう。美しくて素晴らしい公演ならば、観客の興味をそそり、チケットも売れるし、国もこの劇場を守ろうという気がより強く起こってくるのではないか。 ゲネプロの日になって、文化大臣からの声明があり、管財役人任命は免れることになり、市からの文化予算も国が援助するという解決を見て、11月27日、無事にシーズン・オープニング公演が行われた。

『エルナーニ』はローマ歌劇場では25年ぶりの上演である。マエストロ・ムーティもスカラ座の音楽監督に就任する前の1982年12月7日のスカラ座のシーズン・オープニングで指揮して以来30年も手がけていない作品だ。マエストロは「ヴェルディがヴィクトル・ユーゴーという偉大な文学者の作品を題材にし、これが、シェイクスピアやシラーなどを原作とする作品に繋がっていったことを考えると、文学作品をイタリア人気質で音楽にしてくれたことに感動を覚える」と語っている。
 さて、初日はナポリターノ大統領をお迎えして、国歌演奏から始まった。オーケストラも合唱も緊張感溢れる雰囲気の中で熱心に稽古を続け、大成功という結果をもたらせた。

 カーテン・コールでマエストロは満場の観客の鳴り止まない拍手の中、舞台から、「この素晴らしい歌劇場を葬ることは出来ません。皆さんの援助をお願いします」と訴え、客席からの返事を促した。マエストロ・ムーティは「良い音楽を聴衆の皆さんのために届けるよう努力するだけ」とおっしゃっている。「必ず実現させる」と意欲をみせる来春のローマ歌劇場日本公演も、もちろん例外ではない。


ローマ歌劇場 2014年日本公演
『ナブッコ』

【公演日】
2014年
5月20日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月30日(金)3:00p.m. NHKホール
6月 1日 (日)3:00p.m. NHKホール

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
ナブッコ:ルカ・サルシ
イズマエーレ:アントニオ・ポーリ
ザッカーリア:ドミトリー・ベロセルスキー
アビガイッレ:タチアナ・セルジャン
フェネーナ:ソニア・ガナッシ


ローマ歌劇場 2014年日本公演
『シモン・ボッカネグラ』

【公演日】
2014年
5月25日(日)3:00p.m. 東京文化会館
5月27日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月31日(土)3:00p.m. 東京文化会館

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
シモン:ジョルジョ・ペテアン
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
フィエスコ:リッカルド・ザネッラート
パオロ・アルビアー二:マルコ・カリア

NBSについて | プライバシー・ポリシー | お問い合わせ