東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第6弾 「ドン・キホーテ」(全2幕)

 カンパニーが誇る看板レパートリーの一つが、このほど、きわめて斬新な顔ぶれによって再演される。
 そもそも、ウラジーミル・ワシーリエフによるこの演出は、全2幕とコンパクトにまとまった構成、そのスピーディーで無駄のない展開には定評がある。それでいて全編、にぎやかな舞が横溢し、息つく間もない濃密さ。しかも、ロシア古典の伝統的格式をも湛えた名品、と断言できる。装置・衣裳の華麗さは、今さらいうまでもないだろう。
 さて、そうした作品の魅力を体現するダンサーたちはといえば、まずは3日間のうち、初日と最終日に予定されているエフゲーニャ・オブラスツォーワとデヴィッド・ホールバーグ。一体、誰がこの顔合わせを予測できたであろう。それほどまでに異色も異色、バレエ・ファンとしては待ちきれない思いに駆られる顔合わせである。
 ボリショイ・バレエから客演のオブラスツォ-ワは、2012年の第13回世界バレエフェスティバルでの活躍が、いまだ記憶に新しい。このうえなく爽やか、かつ儚げ、まさしく理想の『ラ・シルフィード』を表現。初出場ながら、居並ぶスターたちに伍して特異な存在感を示し、もっとも印象に残る一人となった。妖精やプリンセス役にぴったりの個性が、庶民的でエネルギッシュなキトリ役にどう生かされるのだろう。磐石のテクニックと可憐な持ち味が、ラテンの熱い血にどう転化されるのかが楽しみだ。かたやホールバーグは、アメリカン・バレエ・シアター/ボリショイ・バレエからのゲスト。昨年秋の『ジゼル』全幕では、東京バレエ団と初共演。その折の、貴人そのものの佇まいと目を見張る脚線やつま先、純粋で一途なアルブレヒト像に心を奪われた観客も多かったことだろう。このたびのバジル役では、持ち前の気品が、笑いを呼ぶユーモア感覚と胸のすく気風に鮮やかに変容を遂げる瞬間が見られる。当代一の王子役が持つ多面性は、ステージに寄せる期待に拍車がかかるというものだ。二人が巻き起こす港街の熱風が、つくづく待ちどおしい。
 次いで公演2日目には、東京バレエ団のプリンシパルが登場する。これがまた、大いなる注目に値するカップルなのだ。上野水香と柄本弾。それぞれの活躍ぶりはつとに知られているところだが、この人気演目でコンビを組むとなると、俄然、様相が違ってくる。
 上野はいわずと知れた日本有数のプリマ。昨年はホールバーグとの『ジゼル』、高岸直樹との端正な『エチュード』で観衆を魅了している。キトリ役では、シャープなトウさばき、見事な全身のしなり、茶目っ気たっぷりの艶やかさが他の追随を許さない。南欧の陽射しそのものの役作りである。いっぽうの柄本は、何といっても『ザ・カブキ』での勇壮な由良之助、加えて本年2月には、ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』でのロミオ役で、ナイーヴな青年の心情を余すところなく披瀝し、見る者の涙を誘ったばかりである。この二人によるバルセロナの恋物語は、予想を越えた化学反応を生むのではないだろうか。ともに見栄えのする長身、伸びやかな四肢、正確なテクニック。さらには、ここ数年とくに際立ってきた演劇性が挙げられよう。両者にはこのとおり共通点が多い半面、じつは大きな違いもある。上野はこのヒロインを最大の当たり役の一つとするいっぽう、柄本は今回が初のバジル役である。そう聞くと、やや意外な感に打たれる人も多いだろう。が、そうなるとますます、この作品でのパートナーシップを見届けずにはおれない気持ちにさせられる。このたびの舞台が、バレエ・ファン必見と思われる所以である。
 いずれも興味の尽きないペアによって繰り広げられる、絢爛豪華な3日間。どちらも見逃せない舞台になることだけは、疑う余地がない。


東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第6弾
「ドン・キホーテ」(全2幕)

会場:ゆうぽうとホール

【公演日】
2014年
9月19日(金)7:00p.m.
9月20日(土)2:00p.m.
9月21日(日)2:00p.m.

【予定される主な配役】
キトリ:エフゲーニャ・オブラスツォーワ(9/19、9/21)、上野水香(9/20)
バジル:デヴィッド・ホールバーグ(9/19、9/21)、柄本弾(9/20)

指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料(税込み)】
[9/19,9/21公演]
S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥10,000 C=¥7,000 D=¥5,000 学生券=¥2,500
[9/20公演]
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥4,000 D=¥3,000 学生券=¥1,500
[9/20公演のみ]
親子ペア券(S,A席あり) *7月1日(火)10:00より発売

*学生券はNBS WEBチケットのみで8月19日(火)より発売
★[全公演]ペア割引券(S,A席)あり

【そのほかの公演】
9月27日(土)シンフォニア岩国 TEL:0827-29-1600
キトリ:沖香菜子 バジル:梅澤紘貴

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