モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団

純粋と官能、
錯覚と運命が交錯する
美しき愛の悲劇

 昨年暮れ、クリスマスの華やぎのなかでモンテカルロ・バレエ団は、ジャン=クリストフ・マイヨーの芸術監督就任20周年を盛大に祝った。かつてモンテカルロ歌劇場で『薔薇の精』が初演され、バレエ・リュスがその後期に歴史上唯一拠点としたこの地で改めてモンテカルロ・バレエ団が誕生したのが1985年。「革新」という精神でバレエ・リュスとつながりながら創作するバレエ団として現代バレエの最前線に立つが、今日の栄光は1993年に芸術監督に就任したジャン=クリストフ・マイヨーの活躍に負うところが大きい。 マイヨーはモンテカルロの歴史を尊重しながらも、斬新な創作作品を通じて現代芸術としてのバレエの脱皮に挑戦しており、現代バレエに先進的な実験性が失われていると指摘されるなかで独創性溢れるその舞台は世界的にも評価が高い。監督就任20周年を記念して初演された『くるみ割り人形カンパニー』では、少女クララの夢の実現に自らの道程を重ね、モンテカルロという文化的土壌に育まれて振付家として大成したことを観客とともに祝う形をとった。
 マイヨーの創作のなかでも定評のあるのが古典の読み直しで、このたび本邦初演される『LAC~白鳥の湖~』(2011)は言うまでもなく『白鳥の湖』をマイヨーならではの視点から読み直したものである。代表作となっている『ラ・ベル(眠れる森の美女)』(2001)と初演されたばかりの新作『くるみ割り人形カンパニー』(2013)とともにチャイコフスキーの三大バレエのマイヨー版を構成する。機知に富む仕掛けと視覚的に美しいマイヨー作品の例にもれず『LAC』も洗練された総合芸術としての輝きを放つ。長年の芸術上の盟友たちと周到に準備してきた自信作で、『白鳥の湖』の歴史に新たなページが加わったと評されている。
 独自の解釈が光るマイヨーの舞台だが、今回はドラマトゥルクにあえて原作を観たことがないというゴンクール賞受賞の作家ジャン・ルオーを起用した。チャイコフスキーの音楽を用いて古典バレエを基にしているものの、深層心理を探るような多義的な解釈が新鮮な驚きを与える。解釈とともに視覚的美しさをも生むしたたかな仕掛けとしては、悪魔ロットバルトの代わりに夜の女王を登場させていること。その娘の黒鳥は純白な白鳥に対比され、白と黒、明と暗、生と死、善と悪などせめぎ合う力の対立を多様に表現して愉しませる。伏線として映像で夜の女王が無垢の少女を誘拐する場面を登場させるほか、全体は王子ジークフリートの精神的な成長譚となっている。王子には両親がおり、父王は王子が男らしく成人することを願い、純粋で初心な息子を気にかけている。清楚な娘に心惹かれる王子に夜の女王は娘の黒鳥を押し付けようとするがうまく行かず、一方、王子は白鳥の後を追って彼女の運命の謎を知る。一旦は愛の力で人間に戻ることができた白鳥も、王子の錯覚が全てを逆転させ二人は闇に支配される。
 純潔と官能などワーグナー的テーマも垣間見え、悲劇的な結末をやさしく包むチャイコフスキーの音楽が二人の魂の結びつきを暗示する。解釈は観客のものとするマイヨーの美しい舞台の多義的な奥行きを愉しみたい。
 マイヨーの振付はネオクラシックと評されることが多いものの、表現主義的な所作をドラマティックに採り込み多様な語彙を生み出しており、王子の内面を表すようなソロ、圧倒的な男性の群舞など見応えのあるダンスの見せ場が随所に配されている。劇的構成から白鳥と黒鳥は二人のダンサーが別々に踊り、役柄にそった異なる魅力を発揮している。役柄的には作品の核となっている夜の女王が注目される。ベルニス・コピエテルスにあてて振付けられたこの役は、妖艶さのなかに凄みを帯びたエレガンスが印象的で、二人の屈強な男性ダンサーを従え全てを操っているかに見える。本作でもマイヨーが全幅の信頼を寄せるエルネスト・ピニョン=エルネストの舞台美術とフィリップ・ギヨテルの衣裳が華やかに舞台を彩り、衣裳と溶け合う白鳥の優雅な動きは特筆に値する。日本公演でも表現力のあるダンサー達が古典の名作から未知の表情を引き出してくれるに違いない。


ジャン=クリストフ・マイヨー振付
モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団
「LAC〜白鳥の湖〜」

会場:東京文化会館

【公演日】
2015年
2月27日(金)7:00p.m.
2月28日(土)2:00p.m. / 6:30p.m
3月1日 (日)2:00p.m.

【入場料(税込み)】
S=¥16,000 A=¥14,000 B=¥12,000 C=¥8,000 D=¥6,000 E=¥5,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥2,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで、2015年1月30日(金)より発売。
★ペア割引[S,A,B券]あり

※配役はモンテカルロ・バレエ団の方針の方針により、公演当日に発表いたします。
※音楽はすべて特別録音による音源を使用します。

2/27(金)、2/28(土)夜の公演にマイヨーによるプレトークを予定。

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