東京バレエ団 斎藤友佳理芸術監督就任

 創立50周年記念シリーズも3月の「ジゼル」公演を残すばかりとなった2月、東京バレエ団のさらなる飛躍と発展を期するため、来る8月1日より、斎藤友佳理が芸術監督に就任することが発表されました。2月13日の記者会見の模様をお伝えします。
 会見ではまず始めに、高橋典夫事務局長より、当初から50周年の大きな節目で一番やらなければならないことは、51年目からさらに東京バレエ団が発展していくために新しい指導体制をつくることだったと明かされました。斎藤友佳理は、1987年の入団以来、長年にわたって東京バレエ団のプリマ・バレリーナとして活躍し、2012年に紫綬褒章を受けるなどダンサーとしての高い評価を得ているだけでなく、ロシア国立モスクワ舞踊大学院を首席で卒業し、国立モスクワ音楽劇場バレエでの指導経験をもつなど、創立50周年という節目を機に新たな時代へと向かう東京バレエ団の新時代を築くために最も適任であることを紹介。現芸術監督の飯田宗孝も、今後のバレエ団発展のために最もふさわしい人材であるとし、大きなプロジェクトが最終章を迎えるタイミングでバトンタッチできることを嬉しく思うと語りました。アーティスティック・アドバイザーのウラジーミル・マラーホフからの強い勧めもあったようです。
 そしていよいよ斎藤友佳理が口を開く番。「歴史ある東京バレエ団の芸術監督という責任ある大きな職が務まるのか、不安な気持ちはありますが、周囲の勧めもあり、愛する東京バレエ団をさらに大きく飛躍させる一助になればと、お引き受けしました」と、深く大きな覚悟を感じさせる静かな挨拶から始まりました。

まずは指導体制の統一から。長いスパンで将来を考えたい

 「私が芸術監督に就任して、まず取り組みたいことは、指導体制の統一です。東京バレエ団はさまざまなレパートリーを持つことから、これまで、その作品にとって一番良い指導が行われてきました。その豊かな可能性は残しながら、根底に一貫したシステムを作ることによって、ダンサーたちのレベルを引き上げていきたいと思っています。ただ、これは急速にできることではありません。苗が成木に成長するまでに何年もかかるのと同じくらい、とても時間のかかることだと思っています。これと同様の長いスパンで東京バレエ団の将来を考えていきたいと思っています」
 斎藤がこう考える理由の一つはロシアでの指導経験から。
 「たとえばダンチェンコ(国立モスクワ音楽劇場バレエ)の場合、いろいろなところからダンサーが集まっていますが、根底のメソードが同じなのでさまざまなことが通じやすいといえます。また、作品に適した指導者を招いた場合も、その後で必ずメソードとして"戻るところ"、基盤となるものがあるのです。まだ日本には確立していない、こうしたシステム的な環境をつくることができればと考えています」

指導者としての喜びは格別なもの

 「2013年の東京バレエ団『ラ・シルフィード』を指導したとき、私は自分が望んでいたものはこれだという確信をもったと言っても過言ではありません。3年かかって自分が体得したものを3カ月で伝えることができる、3カ月かかったことを3日で伝えることができる、そして人を通して自分が伝えたものが舞台上で花開くときの喜びは、格別なものがあるのです」と指導者としての熱意を、今後の公演予定とともに語りました。

ブルメイステル版「白鳥の湖」

 「芸術監督として最も大きな最初の仕事になるのが来年2月のブルメイステル版『白鳥の湖』です。東京バレエ団にふさわしい作品と考え、上演を決定したものです。つい先日、ようやく著作権所有者と上演契約を交わすことができました。ブルメイステルという人は“ダンサーたちは舞台上でただ踊るだけではなく、登場人物の人生を生きなければならない”という有名な言葉を残しているのですが、この言葉の通り彼の『白鳥の湖』は演劇性の高いものとなっています。たとえばプロローグでは人間の娘がどのように白鳥の姿に変えられたのか、またエピローグでは、その白鳥がどのように少女に戻ったかということを、初めて演出に加えたのです。このほかにも第3幕の各国のディヴェルティスマンでは全員がロットバルトの手下となって王子を困惑させたりします。また、音楽構成についても、ブルメイステルは自らチャイコフスキーの楽譜を探究し、出来る限り原譜に戻すことによって、バレエのドラマトゥルギーが正しく表現できるという考えのもとに作りました。ただし第2幕については、私が『白鳥の湖』で一番美しい振付と考えるイワーノフ版での上演を考えています」

新制作と初演作品

 「8月の就任直後には〈第3回めぐろバレエ祭り〉の一環として、こどものためのバレエ『ドン・キホーテ』の新制作があります。ワシーリエフ版『ドン・キホーテ』を、休憩を含めて1時間半くらいにまとめたハイライト版とお考えいただいたほうがイメージしやすいかもしれません。ワシーリエフさんと打ち合わせを進めながら、子どもたちに楽しんでもらえる趣向を考えているところです。10月の『ドン・キホーテ』の神奈川公演の後、12月のシルヴィ・ギエム ファイナルツアーで、東京バレエ団が上演する演目はフォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』とイリ・キリアンの『ドリームタイム』に決定しました。『イン・ザ・ミドル…』は、ギエムから東京バレエ団のダンサーにフォーサイス作品に取り組ませるべきだとアドバイスをもらっていたこともあり、バレエ団初演という機会となります」

芸術監督としての展望

 「2016年以降の演目については詳細を発表することはできませんが、東京バレエ団の財産である『ザ・カブキ』『月に寄せる七つの俳句』などのオリジナル作品は定期的に上演し続けていきたいと考えています。また、ラコット版『ラ・シルフィード』やベジャールの『ボレロ』『春の祭典』のように、限られたバレエ団でしか上演されていない作品も継続して上演していきたいと考えています。これらについては、作品に最もふさわしい指導者に指導していただくことも含めて検討しています。チャイコフスキーの三大バレエでは、『白鳥の湖』を最初にやることになりますが、『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』も、いますぐではないですが、必ず新しいかたちでやりたいと考えていますし、20世紀のマスターピースや現代の才能ある振付家に作品を創ってもらいたいという夢もあります」

 8月1日からの就任を前に、すでにさまざまな準備に追われている斎藤友佳理。就任直後の8月3日には東京文化会館の舞台上で入団オーディションをやりたいとのこと。彼女の指導者としての熱意と喜びが東京バレエ団の新時代を輝かせる大きな力となることでしょう。なお、これまで10年間芸術監督を務めてきた飯田宗孝は、総監督の佐々木忠次を補佐し、団長としてバレエ団・バレエ学校の両方を大所高所から監督し、バレエ学校の校長とバレエ団のバレエ・ミストレスを兼務していた佐野志織は、新体制ではバレエ・ミストレスに専念して、斎藤友佳理とともにバレエ団の発展に全力を尽くすことになりました。
 51年目からの東京バレエ団に、どうぞご期待ください。


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