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現在は活動拠点のミラノ・スカラ座のほか、英国ロイヤル・バレエ団への客演も増えているようですね。 |
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スカラ座には年間10回出演することになっていて、それ以外は他のバレエ団に自由に客演することができます。最近ではミラノよりもロイヤル・バレエ団の舞台のほうが多く、第2の拠点になっています。来シーズンも「ラ・バヤデール」「ジゼル」「ロメオとジュリエット」に出演し、彼らのニューヨーク公演にも参加する予定です。自分にあった作品、興味のある舞台を選べるのがフリーランスのいいところですね。 |
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そして、多くのプリマと共演を果たしています。パートナーの影響も多いでしょうね。 |
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そのとおりです。さまざまなパートナーと組んだことはたいへん幸運だったと思います。もっとも印象に残っているのは、初めて「白鳥の湖」を踊ったときの、アルティナイ・アシルムラートワです。ぼくはまだ22歳で、彼女はずっと上のレベルの偉大なバレリーナだった。ロシアのダンサーは小さいときから厳格な教育を受けていて、細かい手の動きなど独特のスタイルを持っているから、学ぶことが多かった。それから24歳のときにシルヴィ・ギエムと「ドン・キホーテ」を踊ることができ、その後にダーシー・バッセルやアレッサンドラ・フェリとも踊るようになりました。 |
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世界中で活躍するには、苦労もあるのでは。 |
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客演するということは、そのカンパニーの方々よりも高いレベルを要求されるわけなので、身体だけじゃなく精神的にも厳しいのは確かです。たとえ疲れていたり、体に故障を抱えていても、つねに自分の最高のものをお見せしなくてはならないと思っています。 |
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そうした活動のなかで、「白鳥の湖」も多くのバレエ団で踊ってらっしゃいます。 |
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ええ、5つから6つくらいのヴァージョンを踊っています。ブルメイステル版、イングリッシュ・ナショナル・バレエのデレク・ディーン版、英国ロイヤルのダウエル版…。なかでも初めて「白鳥の湖」を踊ったディーン版は強く印象に残っています。アリーナ形式の舞台で、観客に四方を囲まれて踊る特別なスタイルの作品で、シンプルな装置の中に白鳥が70人も登場する湖畔の場面はとても幻想的で美しい。全方位のお客様にアピールするのが難しかったけれど。ダウエル版は設定が19世紀で、王子も軍服にブーツという扮装なので演劇的ですよね。 |
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王子の役作りはどのようにされるのですか。 |
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ぼくはクラシックでも物語に深みのあるものが好きで、お客さまにも物語自体を楽しんでいただきたいと思っているんです。「白鳥の湖」は、テクニックなどの形式が重要ないっぽう、役の性格づけも大切な作品なので、演じ甲斐がありますね。最初はただの美しい王子のように見えて、心の中では何かを、愛を求めている。オデットと出会って幸福感に満たされ、その気持ちが第3幕も持続していて、過ちを犯してしまう。後悔に苦しむ第4幕はとても美しい場面です。 |
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来年の1月公演で共演するオデット/オディール役の吉岡美佳と遠藤千春、それに東京バレエ団については。 |
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吉岡さんとはパーティーでお会いしました。素敵な人ですね。遠藤さんは全幕特別プロの「ドン・キホーテ」のメルセデスを拝見しましたが、とてもよかった。東京バレエ団の舞台は、以前に《バレエ・リュスの輝き》という公演で「バラの精」に出演したとき、「春の祭典」なども観たのですが、エネルギッシュでパワーのある舞台でしたね。一生懸命ベストを尽くそうという意欲を感じました。みんなで一緒に舞台を作り上げるんだという意志があるのでしょう。その結果、テクニックのレベルも高くなっている。ヨーロッパのカンパニーの場合、必ずしも全員のモチベーションが高いとはいえませんから。 |
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公演に向けて、どのような準備を? |
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東京バレエ団のヴァージョンについてはこれから勉強するところ。リハーサルは年明けまもなくから行う予定です。ペアでの客演とはちがって、ぼく一人が加わるわけですから、周りの方々といかに馴染めるかが大切になってくると思います。 |
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「白鳥の湖」の結末はいろいろありますが、東京バレエ団の場合はハッピーエンドです。 |
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ぼくはそのほうが好きですね。死んでしまうのは悲しすぎるよ! 悪魔の勝利で終わってはよくないし、せっかく舞台を観にきたお客さまにも幸せな気分で帰ってもらいたいと思います。王子はロットバルトの羽をもぎ取って彼を倒すの? それはいいね!(笑) 楽しみだな。 |