---『ジゼル』は素晴らしい舞台でした。たとえば第2幕でジゼルと再会したときのパ・ド・ドゥなど、極限まで引き伸ばされたテンポの踊りが永遠の時間を表わし、その後の急激なアップテンポによって現実に戻る、といった対比が鮮やかでした。『ジゼル』という作品に対する解釈が、ますます深まっているように感じましたが・・・・。 |
これまでに何度もこの作品を踊っていますが、解釈はそのたびに違っているといったほうがいいでしょう。踊るということは、頭で解釈を考えるだけでなく、身体のコンディション、パートナーや共演者たち、周囲の状況や雰囲気などすべてに影響を受けますから。おっしゃるように今回はとくに緩やかなテンポで踊りましたが、これはぼくにとって良い効果をもたらします。その中で音楽をまったく新しく感じることができるし、自分自身の心や感性を開いていくことができるからなんです。つねに何か新しいものを掴んで表現するということが、とても大切だと思っています。 |
---それにしても、近年の舞台にはとても成熟した魅力を感じます。 |
ダンサーとしてのぼくは、もうけっして若いとはいえない年です。かつて一緒に勉強した同年齢のダンサーたちの多くが引退して、みんな太ってしまった(笑)。たしかに、いろんな場所でいろんな作品を踊った経験や、いろんな人たちとの交流の積み重ねによって、自分の成長を実感するものですよね。『ジゼル』についても、若いときは脚を美しく見せるというようなことばかり考えていて、心から何かを感じて踊ることは少なかったと思います。それが今では、すべての演技が心から発している…といったら言い過ぎだけど、経験が豊かな表現を生んでいるのは確かでしょう。
ぼく自身もまだ、十分に成熟しきっているとは言えないし、まだまだ道の途中にいるのだと思う。やりたいこともたくさんあって、全部ができているわけではないから、できる限り努力をして踊りつづけたい。それで、もうこれ以上、無理だなと思ったときに引退することになると思います。観客のみなさんが、ぼくの舞台を素晴らしいと思ってくださっているうちにね。 |
---それまでは何度でも日本に来てくださらなくては。 |
ファンの方々からもよく、「どうしていつも日本にいないの?」って言われるんだけど、ぼくは羊のドリーちゃんじゃないからクローンは作れないんだよ(笑)。 |
---今回の舞台では、いつもに増して東京バレエ団とのチームワークもよかったと思いますが、何か事前の話し合いがもたれたのでしょうか。 |
ぼくたちはお互いに演技を半分までやって見せれば、何をしようとしているのか伝え合うことができます。もちろん細かい打ち合わせが必要な場合もありますが、バレエで共演するときに、話すということはあまり必要ありません。先ほども言いましたが、肝心なのは事前にこうやろうと決めることではなくて、つねにそのときの自分が持っている一番いい部分を見せるということなのです。ただ、東京バレエ団とは何年も一緒に舞台を務めてきて、みんなとは友人として接しているので、自然にエネルギーやインスピレーションを与えられているとは思います。 |
---マラーホフさんの目から見て、東京バレエ団に変化はありますか。 |
入れ替わりもあるけれど、年とともに良くなっていることは確かだと思います。とくに今回のコール・ド・バレエ! 24名のウィリたちが一体となっていて、一つの生き物にしか見えませんでした。こんなに美しく整ったコール・ド・バレエは、マリインスキーにもボリショイにも、それにパリにも存在しませんよ。東京バレエ団はマネージメントもしっかりしていて、つねに高い水準を保とうとしていらっしゃる。今後も踊れるかぎり、みなさんと一緒に舞台を務めたいですね。 |
---さっそく秋には、3人のバレリーナと共演が決まりました。斎藤友佳理と吉岡美佳とはすでに共演の経験がありますね。 |
ええ、二人について話すのはとても簡単です。東京バレエ団にはベジャール、キリアン、ノイマイヤー、ラコット、ワシーリエフなどいろんな振付家が来て、彼らはいつも友佳理と美佳を選びましたよね。それは彼女たちの持っている技術と才能が素晴らしいことはもちろん、性格や人格も優れているからです。彼女たちはつねに他人に優しくて、同時に自分自身のこともきちんと把握している。二人は東京バレエ団にとって、宵の明星のような輝く存在なのだと思います。 |
---今回は新しい団員の上野水香も含めて、3人の相手役と4種類の組み合わせを踊りますが…。 |
アメリカン・バレエ・シアターでは短期間のシーズンに5人のバレリーナと次々作品を替えて踊ることもあります。日替わりの相手役と1週間踊ることだって大丈夫だよ(笑)。 |
---公演を楽しみにしています。 |
NBSニュース vol.208(2004.6)からの転載 |