イントロダクション

1998年、東京バレエ団「春の祭典」カーテンコール

巨星、墜つ。20世紀後半にバレエに革命的な変革をもたらした振付家、モーリス・ベジャールが、2007年11月22日、ローザンヌで亡くなりました。享年80歳。東京バレエ団は、この現代最高と謳われる振付家から16もの傑作を託され、長年、全国縦断ツアーや海外ツアーで広く上演して世界的名声を勝ち得ました。ベジャールからは「第2の我が家」と呼ばれ、その厚い信頼はベジャールの“特別芸術顧問”就任という形でも結実したのです。

2008年は奇しくも、ベジャールとの固い絆が、東京バレエ団が本格的にベジャール作品に取り組み始めた1983年の〈ベジャールの夕〉以来、25周年という節目を迎える年です。今この時にこそ、東京バレエ団はベジャールの黄金プログラムともいうべき傑作集をもって、この20世紀の巨星の偉業を讃えたいと思います。

晴れ渡る空ときらめく陽光。風をはらみながら穏やかにたゆたう碧い海。官能的な美しさを湛えた若者たちのダンス─めくるめく地中海のイメージを舞台に出現させる『ギリシャの踊り』。ベジャールがストラヴィンスキーの音楽に内在する革命的な要素に想を得て創作し、パルチザンのグループから生まれた真紅のリーダー、“火の鳥”が、その革新性を余すところなく引き出して踊る『火の鳥』。そして、若き日のベジャールがバレエ界の伝統的な美意識やテーマに対して反旗を翻し、人間の欲望、獣性、生命の闘いを描くことでストラヴィンスキーの音楽を鮮烈に視覚化して衝撃的な成功を収めた出世作『春の祭典』。20世紀の古典とも呼べるこれら傑作の色あせぬ魅力を、この機会にぜひとも堪能し、ともに私たちのベジャール鎮魂祭にご参加ください。ありがとう、ベジャールさん!