解説 STORY・聴きどころ 指揮者・キャスト

序曲

 アンダンテの序奏に始まる快活な曲。終わりにはオペラ全曲のフィナーレでドン・アルフォンソが歌う「女はみなこうしたもの」の旋律が折り込まれている。

第1幕

 二人の青年士官フェッランドとグリエルモと、哲学者ドン・アルフォンソが女性の貞操について論議する三重唱〈僕のドラベッラだけは、そうじゃない〉でドラマは始まる。論議の内容は、許嫁のフィオルディリージとドラベッラ姉妹の貞操を堅く信じて疑わない二人の青年に対し、ドン・アルフォンソは〈女の貞操というものは〉アラビアの不死鳥のように誰も見たことがない、というもの。やりとりの挙げ句、女の貞操をめぐる賭けをすることに。自分たちの勝利を確信するフェッランドとグリエルモは、ドン・アルフォンソに従うことを誓う。(三重唱〈美しいセレナーデを〉)。

 恋人を待つフィオルディリージとドラベッラが二重唱〈ほら、ご覧なさい〉と、それぞれの恋人への愛を歌いあう。そこへ〈悪い知らせがある〉と、狼狽した様子のドン・アルフォンソが現れ、二人の仕官は、直ちに戦場に赴かねばならないと告げる。そこにフェッランドとグリエルモが、別れの挨拶にやって来る。二組のカップルとドン・アルフォンソの五重唱〈おお、この重き足取り〉では、悲しみに暮れる姉妹と、それを見て安心する仕官、いささかの不安もないといわんばかりの余裕をみせるドン・アルフォンソ、5人それぞれの思いが表わされる。二人の仕官は別れを告げる短い二重唱〈美しい瞳が〉で姉妹を慰める。やがてドン・アルフォンソが仕立てた別れの場面。仕官の友人たちによる合唱〈軍隊生活は素晴らしい〉のなかで出陣する軍人を演じる二人の士官は、姉妹が手紙を請う五重唱〈毎日お便りをください〉に送られて船に乗り込む。残された姉妹とドン・アルフォンソは短い三重唱〈風よ安らかに吹け〉と、航海の無事を祈る。

 侍女デスピーナがココアを混ぜながら「小間使いなんていやな稼業」とぼやいてつまみ食い。そこに悲嘆に暮れるフィオルディリージとドラベッラが現れる。ドラベッラが〈激しい運命の嵐〉で恋人への心の痛み訴えるのを聞いたデスピーナは、笑いながら他に男なんてたくさんいるじゃないですか、いまだに恋の病で死んだ人はいません、と〈男も軍人も〉と歌い、新しい男を見つければいい、などと言うので、返って姉妹を憤慨させる。

 二人の仕官を変装させて姉妹に近づける計画を立てたドン・アルフォンソは、計画の一部をデスピーナに告げ、協力するよう謝礼金を掴ませる。デスピーナの協力によって、変装した二人の男は部屋に招き入れられるが、フィオルディリージとドラベッラは見知らぬ男たちを追い出そうとする。そこにやって来たドン・アルフォンソが旧友として紹介。怒るフィオルディリージの前にフェッランドが、ドラベッラの前にグリエルモが跪いて愛を告白。姉妹の反応を見て青年たちは内心喜ぶが、ドン・アルフォンソとデスピーナはそれを皮肉る(六重唱〈麗しのデスピネッタ〉)。二人が迫るのに対し、フィオルディリージは〈岩のように動かずに〉と、堅い貞操を誓う。グリエルモはなおも姉妹に〈どうか冷たくしないで〉と求愛するが、本来、拒絶されることを喜んでいるアリアなので、どこかコミカル。怒った姉妹は部屋を出て行く。フェッランドとグリエルモは、恋人の貞操が証明されたものと確信、ドン・アルフォンソに賭け金の半分を支払うよう要求するが、ドン・アルフォンソは二人に、賭けの時間はまだ残っている、と取り合わない(三重唱〈さあ笑え〉)。ともあれ、気をよくしたフェッランドが恋の思いに浸る甘美で叙情的な〈優しい愛の香り〉は、モーツァルトの書いたテノールのアリアの中でも有数の一曲。

 運命の急転を嘆くフィオルディリージとドラベッラのもとに、例の変装男たちがやって来て、恋が適わぬなら毒を飲んで死ぬと言い出し、目の前で薬を飲み、倒れる。助けを求める姉妹の前に医者に変装したデスピーナが登場。奇妙な毒抜きの治療をほどこすデスピーナは、二人を救うためには姉妹の口づけが必要だと告げる。戸惑う姉妹だが、躊躇しながらも依然ほど頑なさはない。大混乱のうちに幕となる。

第2幕

 デスピーナは、フィオルディリージとドラベッラに、貞淑と浮気とを使い分けて「恋人がいないなら楽しみなさい」と勧める(〈女が十五になれば〉)。はじめはあきれていた姉妹だが、まずデスピーナが浮気もまんざら悪くないと言い始め、つられるようにフィオルディリージも、気が滅入って死ぬよりは楽しんだほうがいいのでは、と思い始める。そうなるとどっちの彼にする? 二重唱〈私はブルネットを選ぶわ〉で、ドラベッラが先に選び、次にフィオルディリージがもう一人の方を選ぶことに。姉妹はお互いに、相手の恋人を選んでいる。

 フェッランドとグリエルモは、合唱付二重唱〈やさしい風よ〉で、本気ではないはずなのに、優しさと愛情をあふれさせる。ドン・アルフォンソとデスピーナが、組み合わせの逆になったカップルの仲をとりもつ(四重唱〈お手をどうぞ〉)。ほどなくグリエルモはドラベッラを獲得する。彼が金のハートのペンダントを捧げると、彼女はフェッランドの肖像を彼に委ね、すっかり恋人気分(二重唱〈我が憧れの君に、ハートを捧げましょう〉)。一方フェッランドは、なおも遠く離れた恋人を思って求愛を拒んでいるフィオルディリージを相手にやや遅れをとっている。しかし一人になって、自分のなかに芽生えた浮気心に気づき、〈恋人よ許して〉と歌うフィオルディリージの心も今や動揺しているのは明らかだ。

 これまでの経過を知らせあうフェッランドとグリエルモ。グリエルモはドラベッラ獲得の成果を語り、フェッランドを慰めるように〈女たちは〉と、女の不実さを歌う。グリエルモの話を聞き、〈裏切られても、嘲笑されても〉と乱れた心を歌うフェッランド。ドン・アルフォンソが、いずれ丸く収まるとなだめる。

 ドラベッラがデスピーナからその“転身”ぶりをほめられているところにフィオルディリージがやって来て、実は自分もあのブロンド男に参ってしまったと白状する。ドラベッラは〈愛は小さな盗賊〉と屈託なく歌い、その恋を受け入れた方が良いと勧めるが、フィオルディリージは罪を犯さないために恋人の残していった軍服を着て戦場へ向かうことを決意する。軍服姿になったフィオルディリージだが、出発を阻止しようとするフェッランドからなおも求愛され、彼女も遂に陥落する(二重唱〈抱擁の中で〉)。今や絶望したグリエルモとフェッランドは女たちを罰しようとする。だが、ドン・アルフォンソは、〈女とはみなこうしたもの(コシ・ファン・トゥッテ)〉と、あるがままの女たちを受け入れるべきだと諭す。

 二組のカップルの婚礼のテーブルが準備されている。人々が祝福するなか、今度は公証人に化けたデスピーナが登場。あわただしく結婚証書が作成される。そこに太鼓の音が聞こえ、軍隊が帰ってきたことが知らされる。二人の姉妹は大慌てで花婿たちを隠す。士官の姿に戻ったフェッランドとグリエルモが登場し、恋人たちの動揺を見て問いただすので、ドン・アルフォンソが結婚証書を示す。姉妹は二人の男たちを隠したことを認め、彼らにことの次第を知らせようとする。フェッランドとグリエルモは“恋敵”を殺すため部屋を飛び出すが、直ちに変装姿で戻ってくる。顔だけは素顔であることから、姉妹もこの芝居の全貌を理解する。欺かれたと怒る姉妹だが、ドン・アルフォンソの取りなしで一同は信頼をとりもどす。