「ゼンツァーノの花祭り」
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル 音楽:エドヴァルド・ヘルステッド

1858年12月にデンマーク・ロイヤル・バレエ団で初演されたこのバレエは、花祭りを舞台に繰り広げられる若い恋人同士の物語で、全幕作品としては1930年まで上演されていたが、現在はパ・ド・ドゥの抜粋だけが上演され、ブルノンヴィルのスタイルを現在に伝えている。

「海賊」
振付:マリウス・プティパ 音楽:リッカルド・ドリゴ

「海賊」は「ジゼル」とともに現在上演されているバレエでは最も古いものに属する。名高いバイロンの叙事詩により、1837年ロンドンで初演されたフランソワ・デコンブの2幕もののあと、ジョゼフ・マジリエがアドルフ・アダンの音楽による3幕5場にして、1856年パリで上演した。これがすぐにサンクトペテルブルクに移入され、ボリショイ劇場でも上演された。このときコンラッドを踊ったプティパは、1868年に自ら新しく演出して面目を一新した。その後、イタリアからリッカルド・ドリゴが招かれ、帝室劇場の指揮者、作曲者としてプティパの演出活動に協力することになり、この「海賊」のパ・ド・ドゥも、ディヴェルティスマンとして新しく作曲・振付された。ドリゴのワルツとアダージオの入った新プティパ版は1899年に上演された。

現在踊られているパ・ド・ドゥは、元来は海賊の首領コンラッドと、奴隷商人の手から救い出されたギリシアの娘メドーラ、コンラッドの手下アリとのパ・ド・トロワ。魅力的でエキゾティックな雰囲気を伝えている。

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ 音楽:レオン・ミンクス

世界文学屈指の名作、セルバンテスの「ドン・キホーテ」は、ウィーンにおけるヒルファーディングの振付・演出(1740年)以来、バレエとしてもしばしば作曲上演され、西側諸国の舞台を賑わしたが、現在広く知られているレオン・ミンクス作曲の「ドン・キホーテ」がロシアで初めて上演されたのは、1869年、モスクワのボリショイ劇場で、台本と振付はマリウス・プティパであった。しかし、この作品が世界的に流布するようになったのは、1900年のアレクサンドル・ゴールスキーの改作演出からである。それが振付家や作曲家の協力のもとにしばしば手直しされ、現在のボリショイ劇場版となり、各国もこれに従っている。

このパ・ド・ドゥは、床屋の若者バジルと宿屋の娘キトリの華々しい結婚式のフィーナーレを飾るもの。跳躍や回転技など、華やかなテクニックが盛り込まれ、男性舞踊手の見せ場も多い。

「ライモンダ」
振付:マリウス・プティパ 音楽:アレクサンドル・グラズノフ

中世フランスの伯爵夫人の姪ライモンダと、その婚約者である騎士ジャン・ド・ブリエンヌの二人をめぐる物語。ジャンが出征している間に、サラセンの騎士アブラデラーマンがライモンダに恋心を打ち明け求婚するが、ライモンダに拒絶される。そこへジャンが戻り、二人は決闘によって決着をつける。勝者はジャン。ライモンダとじゃんはめでたく結婚式を挙げ、幕を閉じる。

アレクサンドル・グラズノフのバレエ音楽デビュー作品であり、マリウス・プティパの最後の傑作ともなった作品。初演は1898年。サンクトペテルブルクのマリンスキー劇場において、ロシア帝室バレエ団によって上演された。

「グラン・パ・クラシック」
振付:ヴィクトル・グゾフスキー 音楽:フランソワ・オーベール

オーベール(1782~1871)の音楽を用いたこのバレエは、19世紀のグランド・バレエの一節のようでもあるが、1949年に独立したパ・ド・ドゥとして振付けられたもの。跳躍、回転に加えて、女性のバランス技などの見せ場がふんだんにあり、バレエならではの華麗な雰囲気を堪能させてくれる。当時、グゾフスキーがバレエ・マスターを務めていたシャンゼリゼ・バレエ団で、イヴェット・ショヴィレとウラジーミル・スクラトフが初演した。

「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:レオニード・ラヴロフスキー 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

おなじみのシェイクスピア初期の悲劇を原作としたバレエ。多くの振付家の創作意欲をかきたて、さまざまな演出・振付による作品が上演されている。プロコフィエフのバレエ音楽によるラブロフスキー振付の「ロミオとジュリエット」は、1940年、レニングラードのキーロフ・バレエで初演、主演はガリーナ・ウラーノワとコンスタンチン・セルゲイエフ。その後、ボリショイ・バレエがこの作品をロンドン公演で上演したことで初めて西側に紹介され、多くの振付家に影響を与えた。

ここで踊られるのは第1幕、バルコニーの場。舞踏会で出会い、ひと目で恋に落ちたロミオをジュリエットが、その日の夜、ジュリエットの部屋のバルコニーで再会し、恋する喜びにあふれたパ・ド・ドゥを展開する。

「椅子」
振付:モーリス・ベジャール(ウージェーヌ・イヨネスコに基づく) 音楽:リヒャルト・ワーグナー

お20世紀フランスの不条理演劇を代表する作家、ウージェーヌ・イヨネスコの戯曲「椅子―悲劇的笑劇―」をもとに創作されたパ・ド・ドゥ作品。たくさんの椅子が配置された舞台に登場するのは、水に囲まれた島にある塔に暮らす95歳の老人と94歳の老婆。老人は「世界を救うメッセージ」を伝えるために、大勢の人々と弁士を招いている。

イヨネスコ自身によると、「二人の登場人物はありとあらゆる超越的な根源から切り離された存在。しかしながら彼らには、一種の失楽園のようなものの想い出が残っている。」「世界とは言ってみれば、神が人間を使って引き起こす、すさまじい笑劇のようなものではないだろうか。もしそうだとすれば、われわれに残された手段はたったひとつしかない。その手段とは、神の携わる劇の中にはまり込み、神が我々に施すこの悲劇的な冗談を、笑って笑って笑い飛ばすことであろう。」

1981年の20世紀バレエ団リオ・デ・ジャネイロ公演でベジャール自身が踊り、1984年にはマリシア・ハイデとジョン・ノイマイヤーのために改訂がなされた。ハイデとノイマイヤーは1994年の第7回世界バレエフェスティバルで本作を踊り、強い印象を残している。

「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ 音楽:ピョートル・チャイコフスキー

文豪プーシキンの同名作をもとに、ジョン・クランコが新たな全幕バレエとして創作、1965年にシュツットガルト・バレエ団で初演された。音楽はチャイコフスキーだが、有名な同名のオペラの音楽は一切使わず、他のオペラや歌曲、管弦楽曲などを編曲して構成している。(編曲;クルト=ハインツ・シュトルツェ)

かつて驕慢な青年だったオネーギンは、田舎の領主の娘タチヤーナの純情をないがしろにし、友を決闘で倒してしまう。数年後、美しく成長し公爵夫人となったタチヤーナと再会し、オネーギンの胸に新たな恋心が燃える。オネーギンは彼女のもとにひざまずき、彼女の愛を求めるが、「今は人妻だから」というタチヤーナの言葉によって絶望の縁へ追いやられる。ここで踊られるのは、このタチヤーナとオネーギンの別れの場面のパ・ド・ドゥ。

「3つのプレリュード」
振付:ベン・スティーヴンソン 音楽:セルゲイ・ラフマニノフ

ヒューストン・バレエの芸術監督として知られたベン・スティーヴンソンが、ラフマニノフのピアノ曲に振付けた秀作。1969年、米国のハークネス・ユース・カンパニー芸術監督時代に創作、その後移籍したシカゴ・バレエ団、ヒューストン・バレエ団で上演し評価を獲得した。その後、パリ・オペラ座バレエ団、アメリカン・バレエ・シアター、ミラノ・スカラ座バレエ団ほか、世界の名だたるカンパニーがレパートリー化している。音楽はラフマニノフの前奏曲集からの3曲(op. 32-10、op. 23-1、op. 32-9)

スタジオのバーの両端で身体をならす男女のダンサーが、物憂げなピアノの音色にのせて、バーを挟んだままで穏やかなデュエットを繰り広げている。やがてその感情の高まりとともにバーの制約から飛び出し、のびやかなパ・ド・ドゥを展開する。

「パーシスタント・パースウェイジョン」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

現代バレエの巨匠、ハンブルク・バレエ団芸術監督ジョン・ノイマイヤーは、ベートーヴェンの生誕250年を翌々年に控えた2018年、ベートーヴェン自身とその作品にインスピレーションを得て創作したバレエ『ベートーヴェン・プロジェクト』を発表、メモリアル・イヤーとなる2020年12月には、その続編『ベートーヴェン・プロジェクトII』を初演した。『パーシスタント・パースウェイジョン』(粘り強い説得)は、後者より抜粋されたパ・ド・ドゥ。音楽は、30代前半のベートーヴェンが、「ハイリゲンシュタットの遺書」をしたためたとされる1802年頃に作曲された、ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調op.30-2より、第2楽章。ノイマイヤー独特のアプローチによる、極めて音楽的、かつ人間味あふれる美しいデュエットである。

シャル・ウィ・ダンス?より「アイ・ガット・リズム」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:ジョージ・ガーシュウィン

幼い頃からミュージカル映画に親しみ、ダンスの魅力に取りつかれたという米国出身のジョン・ノイマイヤーは、ミュージカルに着想した作品や、ミュージカル音楽に振付けたバレエを創作している。なかでもガラ公演で上演されて広く知られているのが、珠玉のミュージカル・ナンバーを集めて創作したバレエ『シャル・ウィ・ダンス?』(1986)より、そのフィナーレを飾る「アイ・ガット・リズム」だ。1930年に初演、1943年に映画化されたミュージカル「ガール・クレイジー」のために作曲されたジョージ・ガーシュウィンによるスタンダード・ナンバーにのって、燕尾服の男女が軽妙洒脱なダンスを繰り広げる。

「スティル・オブ・キング」
振付:ヨルマ・エロ 音楽:フランツ・ヨーゼフ・ハイドン

フィンランド出身のヨルマ・エロは、フィンランド国立バレエ団、スウェーデンのクルベリ・バレエ、ネザーランド・ダンス・シアターでダンサーとして活躍したのち振付家としてキャリアを重ね、世界各地のカンパニーに作品を提供している。マルセロ・ゴメスのために振付けられた本作は、2011年に米国、ロシアなどで開催された世界的男性スターダンサーによるグループ公演〈キングス・オブ・ザ・ダンス〉にて初演された。ハイドンの勇壮な音楽──交響曲第100番ト長調「軍隊」第1楽章にのせて踊られるソロは、ゴメスの極めて高い身体性と表現力を最大限に活かし、若い王の青春、権力と敗北の旅を、大胆かつナイーヴに描き出している。

「トゥー・ルームズ」
振付:イリヤ・ジヴォイ 音楽:マックス・リヒター

イリヤ・ジヴォイはマリインスキー・バレエでダンサーとして活躍、2013年より振付家としてのキャリアをスタートし、マリインスキー・バレエで数々の作品を振付けるほか、世界各地の劇場で創作を行っている。本作は、2020年7月のパンデミックの最中に構想、制作され、テレビ放映された。ここでジヴォイがテーマに据えたのは、孤独、社会との断絶、そしてこの物語の主人公たちが置かれている人工的な真空状態であり、「彼らは檻の中の野生動物のように部屋の中を動き回り、その隅々まですっかり把握し、出会いを夢見て自由をつかもうとするも、慣れっこになるとそれを受け入れるようになる。そして、夢の中においてのみ、彼らはついに、短くも表現力豊かな、長く待ち望まれたダンスで一つになる」と語っている。

創立60周年記念シリーズ4  上野水香 オン・ステージ
  • 2024/03 会場:東京文化会館、アクトシティ浜松、横須賀芸術劇場
英国ロイヤル・オペラ 2024年日本公演  「リゴレット」
  • 2024/06 会場:神奈川県民ホール、NHKホール