音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付:レフ・イワーノフ
月光に照らし出された静かな湖面を優雅な姿で泳ぐ白鳥たちが、岸にあがると若く美しい娘たちの姿になる様を目にした王子が、ひと際美しいオデット姫に惹き付けられ、その身の上を知る「白鳥の湖」第2幕より。バレエの代名詞「白鳥の湖」は数あるバレエ作品の中でも最もよく知られ、また最も上演されている作品の一つ。悪魔ロットバルトの呪いにより、白鳥の姿に変えられた王女オデットと、ジークフリート王子の真実の愛が描かれている。
音楽:モーリス・ラヴェル
振付:モーリス・ベジャール
装飾的な要素をいっさい排除し、赤い円卓の上の“メロディー”と周囲をとりかこむ“リズム”とがラヴェルの音楽を大胆に象徴するこの作品は、その簡潔さゆえに、踊り手によって作品自体が形を変える。あるときは美の女神とその媚態に惑わされる男たちの繰り広げる“欲望の物語”、あるときは異教の神の司る“儀式”......。聖と俗の間を自在に往き来し、踊り手の本質をさらけだすこの作品は、初演以来半世紀の間に、多様な姿を見せてきた。
演出もさまざまであり、初演の際は、“メロディー”の女性を取り巻いて“リズム”の男性たちが配された。やがて男性の“メロディー”と女性の“リズム”、そして“メロディー”“リズム”ともに男性が踊る演出が生まれている。
「このあまりにもよく知られた曲が、いつも新鮮に聞こえるのは、その単純さゆえである。スペインというよりむしろ東洋にその源をもつメロディーは、メロディーそのものの上にさらに渦を巻いてゆく。しなやかで女性的、かつ情熱的なものを象徴する。このメロディーは、必然的に単調なものとなっている。男性的なリズムは、つねに一定のものを保ちつつ、その量と勢いを増すことによって、音の空間をむさぼり、ついにはメロディーをも呑み込んでしまうのである。」
— モーリス・ベジャール
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:ルドルフ・ヌレエフ
シャルル・ペローの童話「シンデレラ」は、19世紀前半からしばしばバレエで取り上げられてきた題材。現在もっとも広く親しまれているプロコフィエフの音楽による「シンデレラ」が誕生したのは1945年、ボリショイ劇場でのこと。ロスチラフ・ザハーロフの振付による。プロコフィエフの重厚、かつ流麗な音楽による「シンデレラ」は、その後、セルゲイエフ版(1946)、アシュトン版(1948)をはじめさまざまな版が創作された。ルドルフ・ヌレエフによる「シンデレラ」は、チャップリンやジーグフェルト・ フォーリーズ、キングコングが銀幕で活躍した時代を舞台に、映画界に憧れる少女をヒロインに、王子を映画スターに置き換えて創作、ヌレエフならではの目を見張るテクニックと華やかさにあふれた傑作。
音楽:AM.シャブリエ
振付:ローラン・プティ
ローラン・プティが1981年にマルセイユ・バレエで初演した。エマニュエル・シャブリエは19世紀、フランスの作曲家で、本作では1885年に作曲された「ハバネラ」が使用されている。
1999年、上野水香はプティ自身によって主役に抜擢され、メキシコでのガラ公演にゲスト出演し、一躍注目を集めた。上野にとってのターニングポイントというべき作品の一つである。
音楽:アーヴィング・バーリン
振付:ローラン・プティ
「チーク・トゥ・チーク(頬よせて)」は、1935年公開のミュージカル映画で、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの共演4作目となった「トップ・ハット」のためにアーヴィング・バーリンが作曲したナンバー。アステアが歌い、アステアとロジャースの名コンビによる美しいダンス・シーンで知られている。ローラン・プティは友人でもあるアステアに触発され、「トップ・ハット」へのオマージュとして、この曲のピアノ・ソロのヴァージョンにのせて、ジジ・ジャンメールとルイジ・ボニーノのためにデュオ作品を創作。レビューやショーでの実績を誇るプティならではの、軽妙酒脱で小粋なダンスの魅力が凝縮された小品である。
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
振付:イリ・キリアン
モーツァルトの没後200年にあたる1991年、ザルツブルク音楽祭のために創作された。モーツァルトが作曲したこのうえなく美しく有名な二つのピアノ協奏曲(第23番、第21番)から、ゆったりとした楽章が選ばれた。キリアンは選曲についてこう語っている。「熟考の末に選り抜いた音楽で、何かを挑発したり、意味深長な動機を示そうとしたりしているのではない。神聖なるものが存在しない、残酷さや横柄さをいたるところで目にするこの世界で、私たちが生活を営み、仕事をしているということを、私なりのやり方で示そうとした。舞台で用いられる古代の彫像のようなトルソーには、頭部と四肢がない。それらは故意に切り落とされたものだが、けっして彫像本来の美が損なわれることはなく、創造者の力強い才能が保たれている」舞台には、6人の男性と6人の女性、6本の剣が登場する。剣はダンサーたちのパートナーのように動いたかと思うと、生身のダンサーよりもはるかに気難しく、融通がきかない一面も見せる。剣は、物語のプロットよりも存在感を放つシンボルなのだ。攻撃性、性的能力、エネルギー、沈黙、洗練された無分別、傷つきやすさ。どれもが、この作品で重要な役割を担っている。現代の「Petite Mort」は直訳すれば「小さな死」だが、フランス語とアラビア語ではオルガスムスを示唆する言葉である。
音楽:レオン・ミンクス
振付:マリウス・プティパ
1846年、パリで誕生したバレエ「パキータ」は、ジョセフ・マジリエの振付、カルロッタ・グリジとリュシアン・プティパ(マリウス・ プティパの兄)が主演したことで知られるが、マリウス・プティパによる「パキータ」は翌1847年9月、彼のサンクトペテルブルク・デビュー作として初演された。舞台はスペイン、フランス将校リュシアンはジプシーの少女パキータに出会い、惹かれ合う。嫉妬による陰謀で毒酒を盛られたリュシアンがパキータの機転で救われると、リュシアンはパキータに求婚。実は彼女は貴族の娘であったことが判明し、二人はめでたく結ばれる。ソリスト、群舞の見せ場がふんだんに散りばめられた終幕の結婚式の場面は、しばしば抜粋で上演される人気演目として定着している。