クラシック・バレエ最高峰のレガシーを伝える、
絢爛豪華にして、どこまでも薫り高い『眠れる森の美女』

3つの祝典の幕と1つの幻想の幕から成る壮大な全幕バレエ『眠れる森の美女』は、絶対的な晴れやかさと 華やかさが魅力の、古典バレエの最高峰と称されています。
制作の総指揮をとる芸術監督の斎藤友佳理が今回めざしたのは、この受け継がれた傑作の品格、薫りを保ちつつ、現代のバレエ芸術に相応しいアップデートを行うことです。そのために斎藤が舞踊大学院で専攻した伝承学の教えや、振付家の故ピエール・ラコットの下で『ラ・シルフィード』の指導に携わった経験が生かされ、また本作での自らの舞台経験による様々な気づきも演出に役立てられました。

リラの花に守られて眠るオーロラ姫

リラはオーロラの‟洗礼の母“。オーロラを守り、導き、王子と引き合わせる

斎藤がとくに注目したのは、リラの精とオーロラとの関係です。この物語ではリラはオーロラの「洗礼の母」 であり、リラはオーロラが誕生してから100年の眠りにつく間、ずっとオーロラを見守り続けています。また、ここではリラは100年後の世界におけるデジレ王子の「洗礼の母」でもあり、時を経てデジレを生い茂るリラ(ライラック)に囲まれたオーロラが眠る城へと導き、彼女と引き合わせるのです。

リラの花に囲まれたオーロラが眠る城
エレーナ・キンクルスカヤによる舞台装置画より

ダンスを技術的にアップデートし、場面展開の矛盾を所々解決するいっぽうで、『眠れる森の美女』を善と悪の対立を描くただのおとぎ話ではなく、舞台芸術が本来持つべき深みを加え、意味のあるものにしたいという斎藤の意志がもっとも強調されているのが第2幕です。

ここでは舞台芸術が古来、観客に示してきた世界──「生と死」の世界が描かれます。それを踏まえて斎藤は、第2幕でデジレ王子の心情を表すことを心掛けました。デジレはつねに舞台上に登場しており、見せ場となるソロを与えられ、その性格や感情が十分に描き出されます。

沖 香菜子(オーロラ姫)、秋元 康臣(デジレ王子)
Photo:Shoko Matsuhashi

ことにデジレがリラによってオーロラに引き合わされる幻想の場面。従来はここでデジレとオーロラがともに踊ることも多いのですが、斎藤版では、オーロラとデジレはけっして触れ合うことはありません。なぜなら彼らは異なる次元、世界にいるから──というのが斎藤の解釈です。「100年の眠りにつくということは、一旦‟死ぬ”ことと同じ。オーロラはいわば黄泉の世界にいるのです」(斎藤)。そのオーロラは、ここではリラに導かれ、彼女の動きをなぞるように踊りますが、この振付のアイデアは、同じフレーズがリフレインしていくこの部分の音楽の自分の解釈でもあると斎藤は語ります。その幻想ののち、リラに導かれてオーロラの城へ向かうデジレは、彼女と出会うために現世と異界を隔てる“川”を渡っていきます。「‟パノラマ“の場面ではこの考え方を強調して演出を施しました」(斎藤)

秋山 瑛(オーロラ姫)、宮川 新大(デジレ王子)
Photo:Shoko Matsuhashi

そして城への道すがらカラボスの手下たちによる妨害が妖精たちによって退けられ、デジレの口づけを受けてオーロラが目覚めると、オーロラとデジレは束の間、互いに触れ、存在を確かめ合います。「なぜならこの世で再び目覚めたオーロラが、幻想の中で出会ったデジレと、目の前の相手を重ね合わせる必要がありました。そうすることでオーロラは夢の中で出会った存在がデジレ王子だったと認識するのです」(斎藤)

金子 仁美(オーロラ姫)、柄本 弾(デジレ王子)
Photo:Shoko Matsuhashi

リラとカラボスの対立は、リラ(ライラック)の花々をあしらった鮮やかな紗幕と、カラボスの悪意を象徴する蜘蛛の巣が視覚的にせめぎ合う効果的な演出が施され、物語を象徴的に導いていきます。ことにカラボス役には柄本弾と伝田陽美という男女の実力派ダンサーが配され、それぞれの持ち味を華麗に競うことが期待されます。

カラボス役の柄本 弾、伝田 陽美
Photo:Shoko Matsuhashi

NBSチケットセンター 
(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)

03-3791-8888

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