音楽:ジョルジュ・ビゼー、ロディオン・シチェドリン
振付:アルベルト・アロンソ
男性を惑わす魔性の女の代名詞として有名な「カルメン」。振付家アルベルト・アロンソは、プロスペール・メリメの原作とジョルジュ・ビゼーのオペラ音楽に綿密な解釈をほどこし、この永遠のファム・ファタールの物語を、鮮烈なヒロイン・バレエとして生まれ変わらせた。アロンソ版は、原作本来のテーマである“宿命”に焦点が当てられていることが特徴。舞台装置は全編を通して闘牛場。生と死の闘いを祝祭的な儀式として見せるこの円形の劇場で、ヒロインのカルメンと恋人のホセ、闘牛士エスカミリオと牛の2組が闘いと葛藤のダンスを繰り広げる最終場の迫力は息詰るほどの緊張感が漂う。女性ダンサーが演じる“牛”は、ここでは“宿命”の象徴であり、運命に抗って、自らの生を圧倒的に生きるヒロイン、カルメンのドラマが鮮やかに浮かび上がる。
振付:ローラン・プティ
音楽:ジュール・マスネ
1986年、国立マルセイユ・バレエ団によって初演された「マ・パヴロワ」は、ロシアの伝説的ダンサー、アンナ・パヴロワに捧げられた作品。バレエ団のエトワールでプティのミューズであったドミニク・カルフーニの名演が知られている。
「アンナ・パヴロワは比類なきダンサーだ。優美な優しさに満ちた私の“白鳥”だ。芸術家にとってパヴロワの存在は、雷雨のごとき創造の情熱を生み出してくれる。そして、ドミニク・カルフーニ。彼女は私のパヴロワなのだ」(ローラン・プティ)。
サン=サーンスの「白鳥」やショパンの「別れのワルツ」、また「白鳥の湖」、「ドン・キホーテ」などの有名なバレエ音楽から、モーツァルト、バッハ、サティ、ベートーヴェン、ベルリオーズなどの音楽とともにパヴロワへのオマージュが綴られる。ここで踊られるのはパヴロワも踊ったというジュール・マスネ「タイスの瞑想曲」の音楽による叙情的なパ・ド・ドゥ。
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付:レフ・イワーノフ
月光に照らし出された静かな湖面を優雅な姿で泳ぐ白鳥たちが、岸にあがると若く美しい娘たちの姿になる様を目にした王子が、ひと際美しいオデット姫に惹き付けられ、その身の上を知る「白鳥の湖」第2幕より。バレエの代名詞「白鳥の湖」は数あるバレエ作品の中でも最もよく知られ、また最も上演されている作品の一つ。悪魔ロットバルトの呪いにより、白鳥の姿に変えられた王女オデットと、ジークフリート王子の真実の愛が描かれている。
音楽:レオン・ミンクス
振付:ウラジーミル・ワシーリエフ(マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキーによる)
バレエ「ドン・キホーテ」は、スペインの港町で繰り広げられる恋と冒険譚に多彩なダンスが散りばめられた人気作。古典バレエの中でも抜群の人気を誇るこの作品は、観ればかならず元気になれるバレエ。19世紀にマリウス・プティパ振付で初演されたこの作品は、1900年にボリショイ・バレエ団の振付家アレクサンドル・ゴールスキーによって大幅に改訂され、現在は世界中のバレエ団がこの版を基本にしている。
東京バレエ団では初演にあたって、ボリショイ・バレエ団が生んだ20世紀最高の男性ダンサー、ウラジーミル・ワシーリエフの全面的な協力を取りつけることに成功。ワシーリエフの演出・振付は、この正統なプティパ/ゴールスキー版を、さらに現代的な感覚で見直している。街の群衆たちは一丸となってパワフルな群舞を披露するいっぽうで、一人一人が個性的な存在感をもって、表情豊かな演技をこなし、その結果、めくるめくスピードにのった祝祭的なエネルギーが舞台に充溢することになった。
音楽:モーリス・ラヴェル
振付:モーリス・ベジャール
装飾的な要素をいっさい排除し、赤い円卓の上の“メロディー”と周囲をとりかこむ“リズム”とがラヴェルの音楽を大胆に象徴するこの作品は、その簡潔さゆえに、踊り手によって作品自体が形を変える。あるときは美の女神とその媚態に惑わされる男たちの繰り広げる“欲望の物語”、あるときは異教の神の司る“儀式”......。聖と俗の間を自在に往き来し、踊り手の本質をさらけだすこの作品は、初演以来半世紀の間に、多様な姿を見せてきた。
演出もさまざまであり、初演の際は、“メロディー”の女性を取り巻いて“リズム”の男性たちが配された。やがて男性の“メロディー”と女性の“リズム”、そして“メロディー”“リズム”ともに男性が踊る演出が生まれている。