英国ロイヤル・バレエ団 2008年日本公演 最新情報

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ゼナイダ・ヤノウスキー インタビュー

ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでは現在『シルヴィア』を上演中です。主役のシルヴィア、アミンタは、日本公演の主演キャストでもある、ヤノウスキー&マッカテリ、ヌニェス&ペネファーザー、ラム&ボネッリの3組のペアが演じています。先月、演劇・舞踊ライターの岩城京子さんが、日本公演に先駆けて『シルヴィア』をロンドンで観劇し、ヤノウスキー、ヌニェス、ラム、ペネファーザーの取材をしてきてくださいました。これから4回にわたり、岩城さんによるインタビュー記事をお届けします。


ゼナイダ・ヤノウスキー インタビュー
岩城京子(演劇・舞踊ライター)

知性とエネルギーと音楽性に満ちた、輝くほど美しいニンフ。ゼナイダ・ヤノウスキーが舞う『シルヴィア』のタイトルロールを目の当たりにして、ロイヤル・バレエが今後後世に受け継ぐべきアシュトン・スタイルの「現代的な神髄」をそこに認めた気がした。52年にマーゴ・フォンティーン主役で初演された本作は、どちらかといえば小柄でか弱くロマンティックな雰囲気の女性のために創られた役とされてきた。だがその真逆の性質を持つ大柄で力強く現代的なヤノウスキーは、見事にこの役柄が要求する柔和な美しさと細かなステップを体現しつつ、そこにモダンな知性をも上乗せしてみせた。しかもレオ・ドリーブの楽曲の流れるようなメロディを身体そのもので体現してみせる、洞察力に富んだ音楽的フレージングも見事。94年にロイヤル・バレエ団に入団してから徐々に昇進を重ね、01年にプリンシパルに昇格したヤノウスキー。そのゆったりとした歩みがあったからこそ、すべてのパに知的分析が行き届いた洗練美の極地ともいえる彼女ならではのスタイルが完成され、いま英国中のバレエファンの心をにわかに射止めつつある。

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―――本格的にバレエを始めたのが、とても遅かったと聞きました。

ええ。私の両親はともにリヨン・オペラ座のバレエダンサーで、カナリア諸島で学校を開いてバレエを教えたりしていたんです。けど、そうしてあまりにもバレエが身近にあったからこそ逆に、踊りが大好きだったにも関わらず、自分が職業的にその道を歩むという選択は考えたことがなかった。むしろ画家になりたいと思っていたんです。でも14歳のときに今はボストン・バレエにいる弟のユーリと共にキューバにバレエ留学することになって。にわかにバレエに惚れ込んでしまった。それで16歳のときに私はヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞を受賞して、パリ・オペラ座バレエ団に入ったんです。ただオペラ座の規律だらけの生活はあまり水があわなかったようで(笑)、3年後にはロイヤル・バレエ団に移籍することを決めました。

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―――95年にファーストアーティスト、96年にソリスト、99年にファーストソリスト、01年にプリンシパル。入団数年でプリンシパルに指名されるダンサーもいるなかで、あなたの昇進はとてもゆるやか。それはあなたにとって良いことだったのでしょうか。

少なくとも私個人にとっては、とても良いことでした。というのも私は「スローラーナー(時間をかけて学ぶ人)であること」に大きな信念を抱く人間だから。たとえば急いで走って目的地にたどり着いてもさほどの達成感が得られないのと同じように、ゆったりと時間をかけて一歩一歩ゴールに近づいていったほうが充実度は大きい。それにもし仮に私が20代前半のときに大きな役をもらっていて、しかもそれを10年踊り続けろと言われていたら、多分退屈して窓から飛び降りていたと思う(笑)。でも私は幸運にも、ある程度年齢を重ねたときにそれらの大役と巡り会うことができた。それはとても素晴らしい出会いで、自分の知性が十分に成熟したときに役柄と対峙することができたからこそ、その役をより彩り豊かに解釈することができた。言うなれば若いときの私はアーティストとしてはまだ未完成で、テクニックつまり"単語"を持っていただけだった。でも今は、その単語を使って文章全体をどう彩るかという"彩色方法"を考えることができる。で、私の考えでは、そこにこそアーティスト一人一人の独自性が滲み出てくるんです。

―――シルヴィア役をあなたは見事"彩って"いましたね。

ありがとう。でも最初のころはやっぱりステップとステップをどうつなげたらいいのかわからなくて。まるで「こう・し・て・しゃべ・って・いる・みたい」に踊りがカクカクしていた(笑)。でもいったん音楽のフレージングを自分なりに解釈して、ムーヴメントの軌道の描きかたを決めたら、おのずと自分なりの役柄の色合いが生まれてきた。でもいつも言うんですけど...、本当にシルヴィアは体力的に大変な役なんです。1幕、2幕、3幕とそれぞれまったく異なるスタイルの踊りをものにしなくてはいけないから。『白鳥の湖』がフルマラソンだとしたら、これはトライアスロン! でもそれほどハードでも、踊るたびに喜びが増すとても素晴らしい演目なんです。

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photo:Bill Cooper

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