2012年5月 一覧
ウィーン国立歌劇場音楽総監督 フランツ・ウェルザー=メスト インタビュー
『サロメ』を選んだのは、
"ウィーン・フィル"によってのみ可能な、最高の上演を確信するから!
音楽総監督としての展望、日本で振る"ウィーンの『サロメ』"の魅力など、4月初旬のインタビューでは、フランツ・ウェルザー=メストの自信と確信が語られました。
Q:まずは3月の叙勲おめでとうございます。"勲一等学術芸術栄誉勲章"はオーストリアでは最高位の勲章であって、いま52才でこの勲章が授けられると、次はどうなるのでしょう。
フランツ・ヴェルザー=メスト(以下FWM):ありがとうございます。じつはこの国の叙勲システムをよく知らないので、将来については見当が付きません(笑)。
Q:ウィーン国立歌劇場の音楽総監督(GMD)に就任されて、ほぼ2シーズンとなりますが、事前の期待と、その後の現実とのギャップについて、どのように考えられますか。
FWM:私が国立歌劇場にデビューしたのは1987年のことだから、当時のことはともかく、2010年のGMD就任前に、06年からR.シュトラウス『アラベラ』、ワーグナー《ニーベルングの指環・四部作》、『タンホイザー』と続けてプレミエで出しているので、様子はすでに良く分かっていて、いまのポストに就いた後も、ことさらギャップはありません。Q:国立歌劇場でオーストリア人が音楽面のトップに立つのはカラヤン以来、じつに46年ぶりとなります。世界最高の歌劇場の頂点に当たる地位だから、あらゆる指揮者にとっての究極のポストであることに違いはないですが。
FWM:カラヤンの前にはベームがいて、彼らの同国人の後継者として、たいへん栄誉なことであると同時に大きな責任も感じています。ただ、当時といまでは歌劇場を取り巻く環境がまったく異なるわけで、それらを踏まえたうえで21世紀における前進、充実をつねに考えているところです。
Q:ウィーン国立歌劇場の魅力や特徴について、最高責任者としての見解は。
FWM:歴史、伝統、格式といったこととは別に、まず毎晩の上演内容のレベルの高さに注目すればウィーンに匹敵する歌劇場はないでしょう。たとえばこの3月に限っても、私自身がR.シュトラウス『影のない女』、『トスカ』、ヒンデミット『カルディヤック』を、ド・ビリが『タンホイザー』を指揮し、復活祭の『パルジファル』をティーレマンが準備しています。他に『フィガロの結婚』、『ドン・ジョヴァンニ』、『シモン・ボッカネグラ』、『蝶々夫人』、『愛の妙薬』等を、それぞれ第一線級の歌手で提供しているオペラハウスはないですよ。演目数が年間55程度と数が多いだけではなく、フランス・オペラ、スラヴ物などのバランスといい、素晴らしい充実度を誇っています。
Q:今回、日本で指揮される『サロメ』に話題を移しましょう。国立歌劇場は1980年に一度『サロメ』を日本で客演していますが、再度上演する意味、またバルロク演出のプロダクションの魅力について。
FWM:私がGMDとしての最初の日本ツァーに『サロメ』を決めたのは、"まずオーケストラありき"ですよ。国立歌劇場管弦楽団は周知のようにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(VPO)と重複していて、このオケあってこそのシュトラウスということを強調しておきたいです。カラヤンはウィーンを退出した後、ベルリン・フィルと多数のオペラをレコーディングしていますが、自分が大切にしていたR.シュトラウスの作品、なかでも『サロメ』に限っては、夏のザルツブルク音楽祭もふくめて、VPO以外とは演奏しようとはしなかったですよね。私も彼とまったく同意見であり、作曲家のイメージした世界が、多様な色彩感、自由で即興的な速度と音量の揺れ、そしてなによりも世紀末の雰囲気をこれほど見事に再現できるのはVPOをおいて他にはないでしょう。ウィーンの『サロメ』こそ、稀代の管弦楽法の名人であったシュトラウスの真髄をつたえるものであると確信します。バルロク制作のステージに関しては、世紀末ウィーンのユーゲントシュティールの画家であり、今年生誕150年になるクリムトを大胆に写した舞台美術・衣裳とあわせて作曲当時の世相である爛熟、退廃した空気感が濃厚に伝わってくる素晴らしいステージです。プレミエから40年経っていることなど、まったく超越していて、VPOの演奏と織りなす絶妙のコンビネーションが今回の『サロメ』の見どころ、聴きどころとなります。
Q:ドイツ人ソプラノで題名役に扮するグン=ブリット・バークミンについて。
FWM:バークミンを、私が直接ウィーンでオーディションして起用することにしました。たいへん個性的で演劇的才能があり、なによりもテキストを舞台に反映させる表現力が非常に優れています。私がサロメ役の歌手に求めるものに、まさに該当するからです。
Q:2007年のチューリッヒ歌劇場との『ばらの騎士』以来、日本ではR.シュトラウス指揮者というイメージが強くなりますが。
FWM:そういうふうに見られることに関しては、むしろたいへん名誉なことだと思いますよ。20世紀のオペラ作家として傑出した彼の作品を演奏するのに最適なVPOを擁する歌劇場で、私が指揮できる境遇にあることを感謝したいほどです。来シーズンに『ナクソス島のアリアドネ』、その先に彼の晩年の『ダーナエの愛』、『エジプトのヘレナ』も取り上げるつもりで、私のこの作曲家に対する偏愛は、いっそう強くなっています。
※NBSニュースvol.303より転載
エディタ・グルベローヴァ ウィーン国立歌劇場「アンナ・ボレーナ」が日本最後の舞台に!
ウィーン国立歌劇場総裁ドミニク・マイヤーの記者会見レポート(5/7付)でもお知らせしましたが、"完全無欠のコロラトゥーラのプリマ・ドンナ""ベルカントのディーヴァ"と称賛され、30年以上にわたって日本の聴衆を酔わせてきたエディタ・グルベローヴァが、今秋のウィーン国立歌劇場公演「アンナ・ボレーナ」を日本における最後の舞台とすることを、彼女の所属エージェントを通じて正式に発表しました。グルベローヴァは歌手として日本の舞台から退くことを決意しており、今後はリサイタル等での来日もありません。
グルベローヴァは1970年にウィーン国立歌劇場の「魔笛」の夜の女王で本格的なデビューを飾り、カール・ベーム指揮による「ナクソス島のアリアドネ」でツェルビネッタを歌って一躍国際的な注目を集めました。1980年にはウィーン国立歌劇場とともに来日。「後宮からの逃走」のコンスタンツェと「ナクソス島のアリアドネ」のツェルビネッタを歌い、圧倒的な美声と驚異的な技巧をもって日本初登場の舞台をセンセーショナルに飾りました。
その後もウィーン国立歌劇場、フィレンツェ歌劇場、バイエルン国立歌劇場とともに来日し、「ランメルモールのルチア」と「シャモニーのリンダ」のタイトルロール、「椿姫」のヴィオレッタ、「ドン・ジョヴァンニ」のドンナ・アンナ、「ロベルト・デヴェリュー」のエリザベッタで登場。また1987年の第1回を皮切りに12回にわたって開催したリサイタルはつねに熱狂を巻き起こし、2003年には自身満を持しての「ノルマ」全2幕を演奏会形式で実現、深い感銘を与えました。
昨秋のバイエルン国立歌劇場公演前のインタビューで、グルベローヴァは日本の観客について、「日本のファンの皆様とは深い結びつきを感じており、誠実な応援には感謝の念が絶えない。近しい友だち、家族のようにも感じています」と語っています。今回の「アンナ・ボレーナ」は、彼女が日本への特別な想いを込めて歌うファイナル・ステージとなります。希代のディーヴァ、グルベローヴァの天上の歌声を心に刻み込むために、ぜひ劇場にお運びください!
※近日中にエディタ・グルベローヴァのインタビューを掲載します。楽しみにお待ちください。
ウィーン国立歌劇場ドミニク・マイヤー総裁 記者懇親会レポート(音楽評論家:加藤浩子)
5月1日、ウィーン国立バレエ団日本公演に合わせて来日したウィーン国立歌劇場総裁ドミニク・マイヤー氏の記者懇親会が開催されました。
音楽評論家の加藤浩子さんに懇親会の模様をレポートしていただきました。
選り抜きの3本に、特別なお土産!
〜ウィーン国立歌劇場総裁ドミニク・マイヤー氏、来日公演を語る
オペラハウスは数あれど、総合的な意味で世界一のオペラハウスはどこかときかれたら、ウィーン国立歌劇場に指を折るひとは多いのではないだろうか。公演の水準の高さ、内容の幅広さ、回数の多さ、建物の豪華さ、雰囲気の素晴らしさ、そして、チケットが毎夜ほぼ完売という人気・・・そのすべてが揃っている歌劇場は、他にない。ウィーン国立歌劇場総裁、ドミニク・マイヤー氏が強調するウィーン国立歌劇場の最大の長所はこれだ。「世界一のオーケストラがピットに入ることです。歌劇場では「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」と呼ばれるこのオケは、コンサートホールでは「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」と呼ばれるのです」。
世界一のオーケストラ、ウィーン・フィルが演奏するオペラを体験できるのは、たしかにここだけだ。そのオペラを享受する贅沢を、日本のオペラファンは1980年以来満喫してきた。ちなみに来日公演のような外国公演の間も、ウィーンでは公演が続けられる。こんなオペラハウスもまた、他にない。
8度目の来日となる今回の演目は、《サロメ》《フィガロの結婚》《アンナ・ボレーナ》。マイヤー総裁によれば《サロメ》は、2010年に音楽総監督に就任したウェルザー=メストの希望だという。「メスト氏がシュトラウスを得意にしていることは、よく知られています。そして、かつて音楽監督をつとめたこともあるシュトラウスの作品は、国立歌劇場ではとても愛されているのです。なかでも《サロメ》は毎年のように上演されており、オーケストラのメンバーは暗譜でも弾けるほど作品になじんでいます」(マイヤー総裁。以下M)
タイトルロールに抜擢されたのは、ドイツが生んだドラマティック・ソプラノ、グン=ブリット・バークミン。チューリッヒでも《サロメ》を歌っており、「メストじきじきの希望」(M)だという。若い才能を見出すことには定評のあるウィーンのこと、耳の肥えた日本のオペラファンをも満足させてくれるに違いない。

若い才能をきらめかせる作品といえば、モーツァルトのオペラほどそれに適した作品はないだろう。ソロとアンサンブル、双方の聴きどころが揃ったモーツァルト・オペラは、スターから新人まで、ありとあらゆる歌手の力を発揮させる力を持っている。大傑作《フィガロの結婚》では、これぞウィーン、と喝采したくなるポネル演出の名舞台で、ベテランのシュナイダーの棒のもと、大スターとフレッシュな顔ぶれが競演する歌手たちが最大の魅力だ。伯爵夫人に、この役を歌わせたら右に出るひとはいないバルバラ・フリットリが扮するのをはじめ、カルロス・アルヴァレス(伯爵)、アーウィン・シュロット(フィガロ)らトップスターが揃うのに加え、27歳!のチャーミングなルーマニア人ソプラノ、ハルティッヒ(スザンナ)ら、専属歌手として活躍する若手が大胆に起用されている。「ハルティッヒはモーツァルトの諸役で聴衆を魅了し、すっかり人気者になりました。昨年は代役で《ラ・ボエーム》のミミをスカラ座で歌い、大成功を収めています。今後メトなどでもミミ役を歌う予定です。ウィーンではこのように優秀な若手を専属にし、抜擢して、将来のスターを育てているのです」(M)

ウィーンが世界に誇る専属歌手のシステムが将来のスターを育んでいることは、数々の実例で証明されている。このほど「オーストリア宮廷歌手」の称号を得たフリットリも、90年代の一時期を専属歌手として過ごした。
だからウィーンでは、素晴らしい歌手の伝統が絶えることなく続いているのだ。
専属歌手から巣立った大スターといえば、まっ先にあげたい名前がエディタ・グルベローヴァ。ドニゼッティやベッリーニのベルカントオペラの傑作がウィーンで復活し、また上演され続けてきた大きな理由は、グルベローヴァの存在にある。日本公演でも語り草となっている数々の名演を残しているのは、オペラファンならご承知だろう。
そのグルベローヴァが今回披露するのは、ドニゼッティの出世作《アンナ・ボレーナ》。ヘンリー8世の2番目の王妃アン・ブーリンをヒロインに据えた「女王もの」で、2010年に制作されたばかりのプロダクション(ジェノヴェーゼ演出)だが、何とその時がウィーン国立歌劇場初演だったという。「このような傑作がまだ上演されていなかったのは、大きな驚きでした。私は幸運だった(笑)」(M)。本作のようなウィーンでは知られていない傑作を、積極的に国立歌劇場で初演したいというマイヤー総裁にとって、願ってもないプロダクションだったことだろう。グルベローヴァがこのウィーンのプロダクションに出るのは来日公演が初めてとなる。残念ながら、グルベローヴァ&ウィーン国立歌劇場の来日公演はこれで最後になるとのこと。私たちの記憶に永遠に残る舞台になるのではないだろうか。

共演者も選り抜きだ。アンナのライヴァル、ジョヴァンナ役を歌うのは、ベルカントメッゾの最高峰、ソニア・ガナッシ。私事で恐縮だが、この3月にフィレンツェで聴いた同役は圧倒的だった。完璧なベルカントのテクニックに、色めいた艶のある声で聴き手を引き込む。現役の歌手では世界最高のジョヴァンナだろう。エンリーコ8世には、人気沸騰中のイタリア出身のバス、ルカ・ピサローニ。美声と色気、そして「パーソナリティがある」(M)魅力的な歌い手だ。やはり専属歌手から出発し、今やスター街道ばく進中のメッゾ、クールマンが歌うスメトンにも注目して欲しい、とマイヤー総裁。「ワーグナーもレパートリーにしているほど声がフレキシブル。暗い声質もズボン役に向いています」(M)。ベルカントオペラの第一人者、エヴェリーノ・ピドの指揮も楽しみ。「デセイが初めてベルカントオペラに挑戦した時に指導をした、この方面のベテランです」(M)。
今回の来日公演では、この豪華3演目に加え、とびきりの手土産が用意されている。「ウィーンでとても重要な位置を占めている」(M)という、《子どものためのオペラ魔笛》がそれ。「ウィーンに住んでいる子どもに、オペラを観たことがあるかどうかアンケートを取った時、「観た」と答えた子どもの8割が《子どものためのオペラ魔笛》を観ていました」(M)何事も大切なのは、「はじめの一歩」。とくに感受性の鋭い子どもには、本物に接してもらいたい。そう思う方は少なくないだろう。ウィーン・フィルと国立歌劇場の専属歌手たちによる《子どものためのオペラ魔笛》は、演目も含めて理想的な「はじめの一歩」ではないだろうか。劇中随一の人気者のパパゲーノを歌うのは、専属歌手として活躍する甲斐栄次郎。もしかしたらその日の客席から○○年後、「第2の甲斐栄次郎」が現われるかもしれない。
WienerStaatsoper/MichaelPoehn(「サロメ」「アンナ・ボレーナ」)
WienerStaatsoper/Axel Zeininger(「サロメ」「アンナ・ボレーナ」)