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エディタ・グルベローヴァ ウィーン・レポート(音楽ジャーナリスト:山崎睦)


"エディタ、ダンケ!"沸き起こるウィーンの拍手と歓声


12-07.03_02.jpg 目下、ウィーン国立歌劇場のマーラー・ザールでは伝説の写真家、リリアン・ファイアーの95才の誕生日を祝って歌手の写真展が開催され、オペラの幕間には大勢の人々で賑わっている。ドミンゴ、シュヴァルツコップ、テバルディなど、戦後を代表する世界的名歌手が綺羅星のごとく並ぶなかで、ほぼ中央に位置を占めているのが等身大より大きなエディタ・グルベローヴァのパネルだ。マスネ『マノン』のタイトルロールに扮し、ポネルのデザインによる、目の覚めるようなパープルの衣装を纏った当時37才のグルベローヴァがまっ先に目に飛び込んでくる。ウィーン・デビューから13年、ツェルビネッタ、ルチアと連戦連勝を重ね、オペラ界の頂点に立った頃の艶姿であり、眺める人それぞれに彼女の栄光の軌跡を辿ることになる。
 ウィーンにおける最近のグルベローヴァの実際の活動は、まず4月29日の国立歌劇場での独唱会で、アレクサンダー・シュマルツのピアノ伴奏によりシューベルトの「4つカンツォーネ」などイタリア語による作品と、「ズライカ」、「糸を紡ぐグレートヒェン」等、ヴォルフ「ヴァイラの歌」、「庭師」、「子供と蜜蜂」等、R.シュトラウス「花輪を編みたかった」、「あなたの歌が私の心に響くとき」等、非常に凝ったプログラム。それでアンコールは、やはりシュトラウスの「響け」、そしてデラックワ「ヴィルネル」、ミレッカー「私たち、哀れなプリマドンナ」の3曲で会場を熱狂させた。このプログラムでベルリン、ミラノ・スカラ座等を一巡している。
 その後、5月26日から6月10日にかけてドニゼッティの『ロベルト・デヴェリュー』を4回歌った。共演はホセ・ブロス(ロベルト・デヴェリュー)、ナディア・クラステヴァ(サーラ)、甲斐栄次郎(ノッティンガム公爵)で、指揮はエヴェリーノ・ピド。現在の彼女の当たり役のひとつ、エリザベッタ(エリザベス1世)で老境のイギリス女王の悲哀を余すところなく歌い演じて、まさに圧倒的な大舞台だ。大きなアッチェレランドをかけて音楽を追い上げ、旋律線が上へ上へと駆け上がって、ドラマティックな緊迫度を高めていく彼女のアジリタ技法は依然として最大の武器であり、最強のソプラクート(3点ドより高い音)で最後を決める迫力は比類がない。
 カーテンコールになって、ステージ寄りのロージェ(ボックス席)の手すりに「エディタ、ダンケ!(ありがとう)」と大書された垂れ幕が掛けられ、忠誠を誓う昔からの親衛隊が相変わらず張り切っている一方、立見席に居並ぶ、ほんとうに若い客層からも元気な拍手歓声が飛んで、そのような光景が30分は続いている。ウィーンはグルベローヴァにとって揺るぎない牙城なのだ。ニューヨーク・メトロポリタンオペラでカルロス・クライバーと共演した『椿姫』やミラノ・スカラ座でのドニゼッティ『シャモニーのリンダ』等の成功の後、近年はこれらの劇場からは距離を保っているものの、ヨーロッパではウィーンの他にミュンヘン、チューリッヒ、バルセロナと、彼女の崇拝者はとどまるところがない。
 なお、『ロベルト・デヴェリュー』の指揮者、ピドはグルベローヴァとは今回がはじめての共演になり、今秋の日本での『アンナ・ボレーナ』でも指揮することになっている。誇り高いプリマドンナをサポートしなければならないのが指揮者の役割だが、いまやベルカント・オペラの第一人者たるピドは、その辺の呼吸も確かで、今回の『ロベルト』公演を輝かしいフィナーレに導いた功労者に違いない。

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 さらに、6月20日からはじまる国立歌劇場の今シーズン最後の演目、ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』4公演で大混乱が生じている。予定されていたディアナ・ダムラウの不都合により、はじめの2公演がロシア人のヒブラ・ゲルスマーワに交代。ところがそのヒブラもダウンして、1回目はフランクフルト専属のアメリカ人、ブレンダー・レーを登場させるという二転三転ぶり。
 周知のように、従来この演目はグルベローヴァが長年歌っていて、キャンセルもほとんどなく、つねに抜群の安定度を誇っていたものだが、彼女がこの役を歌わなくなった途端の騒動だ。ウィーンのランクの劇場でルチアを歌える歌手を探すのが困難なわけで、この様子では今後ますますベルカント・オペラの上演は減少するだろう。そこで、あらためてわかるのが、"不世出のディーヴァ"、グルベローヴァの偉大さなのだ。


山崎 陸(在ウィーン 音楽ジャーナリスト)
NBSニュース vol.305より転載



※写真は4月29日に行われたリサイタルより(photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn)

◆ウィーン国立歌劇場公式サイト「アンナ・ボレーナ」>>>


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