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開幕直前! ローランド・ヴィラゾン インタビュー
日本公演開幕を控えて、《ドン・ジョヴァンニ》でドン・オッターヴィオを演じるローランド・ヴィラゾンが、メールでインタビューに答えてくれました。
Q:歌手を志したきっかけを教えてください。
子どもの頃、私の家族にとって、クラシック音楽はあまり馴染みのあるものではありませんでした。でも、私は歌うことや演じることが大好きで、例えば(ディズニーの)"ジャングル・ブック"の曲などをよく歌っていました。ある日、私が家の中で歌っていた時、窓の外で近くの学校の先生がそれを聴いていたのです。彼は私の家に来て、両親に私をその芸術学校に入れるように勧めました。それ以来、私は歌い、演じ続け、ついにプロのオペラ歌手になるためにメキシコシティにある国立音楽院に入学したのです。
Q:あなたはアントニオ・パッパーノと、モーツァルトのコンサート・アリア集を録音していますね。モーツァルトの音楽に対して特別な思いがありますか?
モーツァルトの音楽は、まるで音の万華鏡のようです。いつも完璧で、新しく、人間の魂のあらゆる色彩を映し出しています。私がモーツァルト作品を本格的に演じるようになったのはこの数年ですが、既に彼は私にとって最も大切な作曲家の一人となり、私のキャリアにとって重要な意味を持つようになりました。彼の書簡を読んで、この天才をとても身近に感じるようになったのです。これらの貴重なコンサート・アリア集をトニー・パッパーノと録音したことは、得難い経験でした。音楽は素晴らしく、変化に富んでおり、そしてトニーと仕事をすることはいつだってこの上ない喜びです。
Q:《ドン・ジョヴァンニ》の中で、特に面白いと思うシーンはどこですか?
第2幕の六重唱〈暗いところにただひとり、ひとりでいると〉"Sola, sola in buio loco"と第1幕の最後の六重唱が大好きです。いつだってモーツァルトのアンサンブルを歌うことはこの上ない喜びです!アンサンブルの中でこそ、モーツァルトの"万華鏡"が最も鮮やかに、驚くべき輝きをみせるのですから。
Q:あなたは世界中の名だたる歌劇場で歌っていらっしゃいますが、英国ロイヤル・オペラはあなたにとってどのような劇場ですか?
数多くの劇場での初舞台の中で、英国ロイヤル・オペラでのデビューは、私にとって最も素晴らしいものでした。この劇場はいつも私の心の中で特別な位置を占めています。劇場全体に、芸術への愛が満ちています。演じるのには最高の場所です!
ヴィラゾン演じるドン・オッターヴィオとドンナ・アンナ役のシャギムラトヴァ
開幕直前! サイモン・キーンリサイド シェイクスピアとオペラ『マクベス』を語る
英国ロイヤル・オペラ日本公演開幕を直前に控え、《マクベス》のタイトルロール役のサイモン・キーンリサイドが、メール・インタビューに答えてくれました。シェイクスピアとオペラ《マクベス》について、知性派のキーンリサイドならではのさまざまな視点から作品を紹介してくれています。
■ オペラの中で「演じる」ということ
どんな役であっても演技力は必要です。
シェイクスピア作品にはどこか気持ちを高ぶらせる魅力があり、それだけに舞台の内容はよくできていて当たり前という期待もあります。でもそれはちょっと違います。そもそもシェイクスピア作品かどうかにかかわらず、あるいはシェイクスピア作品を原作にした劇だろうとオペラだろうと、主眼をはっきりさせ、完成度を高めようとするひたむきな姿勢が欠かせません。仮に作品があまり良くなかったとしたら、その分、観客になんらかのメッセージを届けるために、もっともっと努力しなければならないと思うのです。
私にとっては、舞台でどの面を際立たせるかは、作品によって異なります。
例えば、モーツァルトの《魔笛》に登場するパパゲーノを演じる場合、 歌唱よりも肉体表現のほうがはるかに大きな課題です。技巧を凝らせと言っているわけではありません。むしろそんな必要はまったくないのです。この場合、あくまで肉体表現、対話もですが、こういうものがおそらくは歌唱よりもキャラクターを的確に描き出せるということなんです。
逆に、ヴェルディの《椿姫》に登場するジェルモンのキャラクターの"描写"は、ほぼ全面的に歌唱に依存しています。この場合、"Prima la voce(プリマ・ラ・ヴォーチェ)"、つまり「歌唱第一」なのです。肉体表現による"色付け"は比較的単純です。とにかくメッセージの一番重要な部分を占めているのが歌唱なのです。
思うに、普通の人を演じるよりも、極端な役を演じるほうが簡単でしょうね。もっとも、このオペラにそもそも普通の人がいるのかという声もあるでしょうけど、それはまた別の機会に譲りましょう。
■ 黒澤明の『乱』と同様に、ヴェルディの『マクベス』は、名作のオマージュ
シェイクスピア作品はいつの時代も絶えずいろいろな形に翻案、改変され続けています。日本が誇る巨匠・黒澤(明監督)の『乱』という名作があります。あれはシェイクスピアの『リア王』を下敷きにしたものです。それでいて作品自体、名作に仕上がっていて、決して『リア王』ではありません。
これはヴェルディの手がけた『マクベス』にも言えることです。もはやシェイクスピア作品ではなく、これもまた1つの名作のオマージュにすぎないのです。
■ マクベスを演じる、歌ううえで大切なこと
マクベスは極端な役、どちらかといえば単純な男です。割と単純な使命を胸に、軍人として生き抜いた男です。性格はといえば無骨で大雑把で粗野ときている。ストーリーの中では作品のタイトルにもなったアンチヒーローですが、ある意味で小人物なんですね。はるかに邪悪でずる賢いマクベス夫人の手のひらで転がされているのですから。この夫婦の間で力関係が目まぐるしく変わっていく。そこは本当におもしろい部分だと思います。
マクベスを歌う上で大切に考えることは・・イタリア語で「キアロスクーロ」という言葉があります。明暗の対比を常に変化させる表現手法ですが、これでマクベスの性格を描いています。つまりマクベスの優柔不断な部分、弱みといってもいいでしょうね。これを音楽にはっきりと反映させています。常に揺れ動く力関係と性格を描くうえでヴェルディが意図したのは、生身の人間の姿をさらけ出すことでした。周囲の状況や誘惑、権力、チャンスに振り回されて苦しむ----そんな弱い人間の姿です。それがあるからこそ、マクベスは、よくある漫画のキャラクターのような存在に堕落しないでいられるのです。
自分の歌声でそういう方向性を極めていけたらいいと思います。
■ 現代人の共感を得られる、《マクベス》のストーリー
誰もが身に覚えのありそうな状況に苦しむ生身の人間を演じたら、おそらく観客の共感を得やすいと思います。もちろん、オペラとか舞台という装置は、どうしても極端なストーリーを見せがちです。でもそうすると、観客は他人事のように感じてしまうはず。説教だらけの話を聞かされても、おもしろくないでしょう。
マクベスが抱える権力闘争も、悪の道への誘惑も、その根っこの部分は同じです。現実の生活にも通じるところがあります。実際、我々は日常生活でこういう私利私欲に心が揺れているでしょう。さすがに殺人はないにせよ、ちょっと大げさに真実を語ったり、嘘をついてみたり。野心といえばいいのか、それとも単なる嘘なのか。為政者も理念より "現実主義"に走るでしょう? そこに大きな違いはないと思うんです。嘘も方便なのか、それとも野心的な夢を語っているだけか。そう考えれば、真実と偽りの境目は微妙なんですね。
stage photos: ROH/Clive Barda, 2011
「ドン・ジョヴァンニ」、7月3日にYouTubeでライブ中継
「ドン・ジョヴァンニ」が現地時間の7月3日(金)午後7時[日本時間7月4日(土)午前3時]より、英国ロイヤル・オペラのYouTubeチャンネルでライブ中継されます。
これはロンドンで上演中の本プロダクション最終日を世界に向けて中継するもの。英国内では同時にトラファルガー広場などでパブリック・ビューイングも行われます。
指揮はアラン・アルティノグル、タイトル・ロールはクリストファー・マルトマン。日本公演に出演するローランド・ヴィラゾン(ドン・オッターヴィオ)やアルビナ・シャギムラトヴァ(ドンナ・アンナ)、新鋭のユリア・レージネヴァ(ツェルリーナ)も登場。ビデオ・プロジェクションを鮮やかに駆使して、ドン・ジョヴァンニの現実と想像の世界、そして破壊的な性質をもつキャラクターを解き明かした、演出家カスパー・ホルテンによる話題のプロダクションを、日本公演に先立ち、週末にご覧になってみてください。
photo:ROH/Bill Cooper
「ドン・ジョヴァンニ」ロンドンで再演開幕!
(左より)ドン・ジョヴァンニ、ツェルリーナ(レージネヴァ)、
ドン・オッターヴィオ(ヴィラゾン)、ドンナ・アンナ(シャギムラトヴァ)
ドン・オッターヴィオ(ヴィラゾン)、ドンナ・アンナ(シャギムラトヴァ)
6月12日、ロンドンで〈ドン・ジョヴァンニ〉の再演が始まりました。2014年の初演以来、最初の再演となった今回は、秋の日本公演に登場するキャストも登場し、準備万端といったところです。
ドンナ・アンナ(シャギムラトヴァ)
今回が舞台でこの役を演じるのは初めてとなったドン・オッターヴィオ役のローランド・ヴィラゾンは、持ち味の甘い歌声と愛する人への苦悩の表現を存分に披露。そのドン・オッターヴィオの婚約者ドンナ・アンナ役のアルビナ・シャギムラトヴァも、豊かな声によるドラマチックな歌唱に絶賛が寄せられています。
ツェルリーナ(レージネヴァ)
また、新星ユリア・レージネヴァは、写真でもご覧いただけるように、期待通りのみずみずしいツェルリーナです。
レポレロ(エスポージト)
今回のキャストのなかでは唯一、初演でもレポレロ役を演じたアレックス・エスポージトには、本物のイタリアの声をもった素晴らしいレポレロ!と、大絶賛の声が集まりました。
photo:ROH/Bill Cooper
photo:ROH/Bill Cooper
マエストロ・パッパーノ、"グラモフォン・ホール・オブ・フェイム"殿堂入り!
英国ロイヤル・オペラの音楽監督、アントニオ・パッパーノが、さる5月、グラモフォン・ホール・オブ・フェイム(グラモフォンの栄誉殿堂)に選出されました。
グラモフォン・ホール・オブ・フェイムは、1923年に創刊されたクラシック音楽の専門誌「グラモフォン」の読者投票により選ばれます。クラシック音楽の録音の分野で芸術的、革新的、創造的貢献を果たした、最も影響力がある演奏家やプロデューサー、エンジニア、レーベルのエグゼクティブなどに授与される賞です。
これまでの受賞指揮者はヘルベルト・フォン・カラヤン、クラウディオ・アッバード、ズービン・メータ、サイモン・ラトルなど。アントニオ・パッパーノも、この錚々たる指揮者たちの仲間入りを果たしたわけです。
受賞が決まった背景には、英国ロイヤル・オペラの音楽監督として、コヴェント・ガーデンの黄金時代を築いた功績が、また、ローマ・サンタ・チェチーリアアカデミー管弦楽団の首席指揮者としての録音の成功などがあるでしょう。
また、パッパーノはピアニストとしても優れた技能の持ち主。昨年秋に行ったロンドンのウィグモア・ホールにおけるジョイス・ディドナート(ソプラノ)との共演も、聴衆に強い印象を残したとされています。
photo:Sim Canetty-Clarke