1970年イタリアのパヴィア生まれ。ヴェルディの諸役を中心に世界中で活躍していますが、なかでもファルスタッフは最大の当たり役。ヴェルディ没後100年の2001年には、スカラ座によるヴェルディの生地ブッセートで大統領臨席のメモリアル公演が開催されましたが、ここでファルスタッフを演じたマエストリは、柔らかな声と豊かな表情・演技で、大成功をおさめ、一躍“当代きってのファルスタッフ”として、すでにウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、チューリッヒ歌劇場ほか、ヨーロッパの主要な歌劇場に登場しています。今回上演されるロバート・カーセン演出は、英国ロイヤル・オペラとスカラ座の共同制作ですが、マエストリはロンドンでもミラノでも初演キャストのファルスタッフ。この役にこの人あり!と、聴衆をうならせるはず。

今年10月にはウィーン国立歌劇場『フィガロの結婚』で、気品高い伯爵夫人役でファンを魅了したフリットリ。幅広いレパートリーにおいて世界の舞台に立つトップ・ディーヴァが次に聴かせてくれるのは、彼女の当たり役の一つであるアリーチェです。歌唱の美しさに加え、女優顔負けの表現力を備えたプリマ・ドンナ=フリットリにとって、機智に富み、ファルスタッフや夫たち男性陣をやりこめるアリーチェ役は“演じ甲斐のある役”とのこと。2006年には、フィレンツェ歌劇場日本公演でも、愛らしさと凛としたアリーチェを演じてくれましたが、ミラノ生まれのフリットリにとって、スカラ座が臨むヴェルディ・イヤーの『ファルスタッフ』には、一層の想いが込められることとなることでしょう。

イタリアのヴィテルボに生まれ、ローマで学んだポーリは、現在最も注目すべきイタリア人若手テノールの一人です。2010年にウィーンのハンス・ガボール・ベルヴェデーレ国際声楽コンクール第1位ほか、数々の国際コンクールでの入賞歴が実力の証。また、2011年にリッカルド・ムーティ指揮の聖霊降臨祭音楽祭とラヴェンナ音楽祭『I due Figaro』、ローマ歌劇場の新演出『マクベス』に出演していることも何かを予感させます。かつてムーティは、昨年不慮の事故で亡くなったサルヴァトーレ・リチートラがまだ無名に近かった若手のころに見出し、スカラ座の日本公演に抜擢しました。その後リチートラが世界のトップ・スターになったことは誰もが知るところです。ムーティに度々キャスティングされただけでなく、ヨーロッパではすでに赤マル急上昇の注目が寄せられているポーリに、次代を担う新星登場への期待が膨らみます。

オペラ『ファルスタッフ』のなかで、ファルスタッフとは対照的な“生真面目”で“小市民的”なキャラクターを与えられているフォード役のファビオ・カピタヌッチとマッシモ・カヴァレッティは、いずれもスカラ座アカデミーで研鑽を積んだ実力派です。カピタヌッチは1999年に『ボエーム』のマルチェッロでのデビュー以来、スカラ座には“常連”として出演。2002年のレナート・ブルゾン賞獲得から10年を経たいま、欧米各地での実力が認められている37歳。カヴァレッティも1978年生まれと同世代。2004年にベルガモでオペラ・デビュー、スカラ座では2005年から活躍しているほか、世界の舞台に登場。2007年にはベルガモ・ドニゼッティ劇場の日本公演『ランメルモールのルチア』のエンリーコ役を演じ、深みのあるバリトンを聴かせました。2011年には、チューリッヒ歌劇場でダニエレ・ガッティ指揮『ファルスタッフ』でマエストリのファルスタッフ、フリットリのアリーチェとの共演が高い評価を得ています。

ロシア出身。2003年から05年までミラノ・スカラ座アカデミーで研鑽を重ねたルングは、チャイコフスキー国際コンクール、エレナ・オブラスツォワ・コンクール、ヴェルディの生地ブッセートの“ヴェルディの声”など、数々の国際コンクールでの受賞歴をもつ若手実力派ソプラノです。スカラ座ではムーティ指揮の『モーゼとファラオ』、新演出の『マリア・ストゥアルダ』ほかに出演していますが、なかでも、2007年には、マゼール指揮『椿姫』でアンジェラ・ゲオルギューの代役としてヴィオレッタを演じ、好評を博しました。“声”に厳しいパルマ、ローマなどを中心とした活躍の場が、近年ウィーン、ベルリン、エクサン・プロヴァンスなど、ヨーロッパ各地へと広がっています。“天使のような無邪気さ”を感じさせるリリコ・レッジェーロの声が要求されるナンネッタ役で、日本のファンにその魅力を披露します。

トリエステ生まれのバルチェッローナは、1999年ペーザロのロッシーニ・フェスティバル『タンクレディ』に登場し、一躍注目を集め、世界的な活躍をスタートさせました。現在では、ロッシーニのレパートリーはもちろんのこと、深く艶のあるしっとりとした声をもつイタリアのトップ・メゾとして活躍しています。スカラ座では、『ルクレツィア・ボルジア』、『アウリスのイフィゲニア』、『見いだされたエウローパ』ほかで深い印象を与えています。ヴェルディは、クイックリー夫人に音楽的にユーモラスなキャラクターを与えましたが、ロバート・カーセン演出では、クイックリー夫人の愉快な存在感が際立ちます。舞台栄えのする体躯のバルチェッローナと太っちょファルスタッフとのやりとりに、思わず笑い声が起こるはず。

イタリア・オペラ界を代表するバリトン、レオ・ヌッチ。イタリアのベル・カントものからヴェリズモまで、幅広いレパートリーをもちますが、朗々とした声と確かなテクニック、ドラマティックな表現力が最も活かされるのはヴェルディ作品です。なかでもリゴレット役は、1973年のロール・デビュー以来、世界中の歌劇場で450公演以上も演じ、いまでは“至宝”と称されるものとなっています。グルジアのティフリス生まれのゲオルグ・ガグニーゼは、1996年に『仮面舞踏会』のレナートでデビュー。その後数々の国際コンクールで優れた成績を獲得しますが、注目すべきは、2005年にヴェルディを歌う歌手にとって最も重要とされる国際コンクール“ヴェルディの声”での第1位獲得があります。このコンクールには、カーティア・リッチャレッリやホセ・カレーラスも審査員として参加していました。指揮者ロリン・マゼールも、バレンシアのオペラやニューヨークのコンサートに起用するなど、ガグニーゼの実力を高く評価する人の一人として挙げられます。リゴレット役は、回数ではヌッチに及ばないとはいえ、メトロポリタン歌劇場やパルマのヴェルディ・フェスティバルでも好評を獲得しています。
今回の日本公演で上演されるジルベール・デフロ演出『リゴレット』は、1994年に新制作されて以来、スカラ座が誇る名プロダクション。絢爛豪華な舞台美術と白熱したドラマづくりに徹した演出に、現代最高と認められる二人のリゴレット競演が実現します。

1976年ウクライナのオデッサ生まれのアレクサンドル・ツィムバリュクの名を、2007年チャイコフスキー国際コンクール第1位入賞者として記憶されている方もいるかもしれません。日本でも入賞者が登場するコンサートが開催されました。 “シャリアピンの再来”と言われるほどの豊かな声量をはじめ、広い音域や情感にあふれた表現力を持つ注目の若手バスです。今シーズンは、バイエルン国立歌劇場に『ボリス・ゴドゥノフ』のタイトルロールでのデビューをはじめ、メトロポリタン歌劇場で『オテロ』のロドヴィーコ、スカラ座では『リゴレット』のほかに『ジークフリート』と『ラインの黄金』のファーフナーを、さらにバレンボイム指揮により行われるスカラ座のモスクワ公演では、『ドン・ジョヴァンニ』の騎士長で出演と、世界に活躍の場を広げています。舞台栄えのする長身、黒髪となかなかのイケメンで、人気沸騰の予感!

ルーマニア出身のエレーナ・モシュクは、1994年の初来日以来、なめらかな声による完璧なコロラトゥーラを“武器”に、オペラやコンサートで日本にも多くのファンを獲得しています。巧みなコロラトゥーラのテクニックが要求されるジルダ役は、モシュクの魅力が最大に発揮される代表的なレパートリー。近年では、『ノルマ』や『ルイザ・ミラー』のタイトルロールで円熟味を感じさせると評されるモシュクだけに、ドラマ全体を覆う“呪い”のなかで、ひたすら可憐に、純粋な愛をまっとうして死んでいくジルダをどう演じるか、期待が高まります。マリア・アレハンドレスは1984年メキシコ・シティ生まれ。同郷の人気テノール、ラモン・ヴァルガス・プロ・オペラ・スカラシップを得て学び、2009年にフランスのサン・エティエンヌで『ロメオとジュリエット』のジュリエットでヨーロッパ・デビュー。同役ではすでに英国ロイヤル・オペラやローザンヌ・オペラにもデビューした若き逸材です。ジルダとともに、『ランメルモールのルチア』のタイトルロールも得意なレパートリーとしていることから、コロラトゥーラのテクニックに優れていることがうかがわれるところ。次代を担う“コロラトゥーラの女王”登場を期待!

1978年マルタ共和国生まれのジョセフ・カレヤは、16歳で声楽を学び始め、1997年にはウィーンのハンス・ガボール・ベルヴェデーレ国際声楽コンクールで最年少入賞者となったことからもわかる通り、若くして、その才能が注目されました。以来15年の間に、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ウィーン国立歌劇場など、世界の著名な歌劇場で28もの主役を演じています。なかでも、『リゴレット』のマントヴァ公爵は、バイエルン国立歌劇場、ネザーランド・オペラ、ウェールズ・ナショナル・オペラ、ベルリン・ドイツ・オペラ、英国ロイヤル・オペラ、メトロポリタン歌劇場などにデビューを飾った最重要レパートリー。パヴァロッティを彷彿させる明るさと張りのある歌声で軽やかな「女心の歌」を聴かせます。

グルジアのトビリシ生まれのケテワン・ケモクリーゼは、その優れた才能が世界の主要な歌劇場から注目されている新進美人メゾ・ソプラノです。スカラ座アカデミーで学び、プラシド・ドミンゴ「オペラリア」をはじめ、数々の国際コンクールで優れた成績をおさめました。すでに、マドリッドとモンテカルロでの『フィガロの結婚』のケルビーノや、ワシントン、ベルリン、パレルモ、モンペリエ、パルマで『セビリャの理髪師』のロジーナを演じ、チャーミングな舞台姿で聴衆を魅了しました。カルロス・サウラ監督の映画『ドン・ジョヴァンニ(Io Don Giovanni)』にも出演し、優れた歌唱と演技力を発揮しています。2010年には英国ロイヤル・オペラに『ロメオとジュリエット』のステーファノでデビュー、2013年にはロサンゼルスで『チェネレントラ』のタイトルロールが予定されています。

※キャストは2012年12月4日現在の予定です。