英国ロイヤル・バレエ団

イントロダクション

ハッピーなコメディ、ロマンティックな悲恋、ドラマティックな悲劇。多彩なドラマを個性豊かなダンサーたちが競演!

 気品あるスタイルとドラマティックなバレエの伝統で世界的な人気を誇る英国ロイヤル・バレエ団が、その魅力の醍醐味を味わわせてくれる3作品を携えて、2年ぶりに来日します。 「リーズの結婚」は、“ロイヤル・スタイル”を生み出した創設振付家フレデリック・アシュトンの代表作の一つ。清々しい美に溢れたダンス・シーンを満載しながら、ウィットに富むコミカルな芝居で物語を大団円へと結ぶ本作は、見る人々を最高に幸福な気分へと誘います。「うたかたの恋」と「ロミオとジュリエット」は、物語バレエの巨匠として名高いケネス・マクミランの作品。19世紀末のオーストリア宮廷を舞台にした「うたかたの恋」は、帝国を治める名門ハプスブルク家の皇太子ルドルフとその若き愛人マリーとの有名な心中事件を描く華麗にして衝撃的な舞台。日本では23年ぶりの上演となります。シェイクスピアの名作をもとにした「ロミオとジュリエット」は、若き恋人たちの運命的な愛と死を描き、つとに評価の高い名ヴァージョンです。  英国ロイヤル・バレエ団には、その伝統と魅力を慕って世界各地から優秀なダンサーが集まり、今、若い世代が飛躍的な成長を遂げています。 充実したダンサーの布陣のもと、薫り高いドラマティック・バレエを存分に味わってください!

英国バレエが織り上げる3つの恋模様 ~マクミランとアシュトンのドラマティック・バレエ~

 英国ロイヤル・バレエ団の第1の美点は、優れた演劇性にある。「シェイクスピアの国」のイメージ通り、物語の起伏に富み、劇的な緊張をはらんだ全幕作品は、英国バレエのお家芸と言ってもよい。このような評価を築いたのは、ロイヤル・バレエ団で芸術監督を務めた2人の振付家の功績によるところが大きい。フレデリック・アシュトン(芸術監督就任1963〜70年)とケネス・マクミラン(同1970〜77年)である。  アシュトンとマクミランは、傑出した振付と演出で英国バレエの演劇性を深めたという点で共通しているものの、その作品傾向はずいぶん対照的だ。アシュトンが神話や童話を素材とした象徴的でアレゴリカルな物語が得意なのに対し(「シルヴィア」、「シンデレラ」など)、マクミランは現実の事件に取材した具体的で生々しい物語を好んでいる(「うたかたの恋」、「アナスタシア」など)。また、アシュトン作品が、笑いとユーモア、陽気で明るい気分を基調としているのに対し(「リーズの結婚」、「ピーターラビットと仲間たち」など)、マクミラン作品は、死と暴力、ときに狂気へ向う暗い情念を特徴としている(「マノン」、「グロリア」など)。

 2010年のロイヤル・バレエ団来日公演で上演される3作品は、その組合せが実に興味深い。なぜなら、アシュトンとマクミランが卓抜したドラマツルギーで描いた3つの恋愛の様相を、一度に比べて見ることができるからである。

 「リーズの結婚」は、18世紀末に初演された古典「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」を、アシュトンが独自の解釈で1960年に復活させたもの。笑いとユーモアにあふれた彼の代表作である。  主人公リーズとコーラスの恋は、若々しくて屈託なく、素朴で翳りがない。フランスの農村でくり広げられる、のどかで牧歌的な恋愛である。鶏たちの踊りや木靴のダンスなど、楽しい見どころが多い。リーズが恋人との将来に思いを馳せる長いマイムなど、演技力が問われる見せ場もある。誰もが手放しで楽しめるコメディーバレエの名品だ。

 「ロミオとジュリエット」は、プロコフィエフの叙情的な音楽を用いて、シェイクスピアの不朽の名作をマクミランがバレエ化したもの。1965年、フォンテインとヌレエフが初演して好評を博し、マクミランの名前を世界に知らしめた。  ロミオとジュリエットの恋は、出会いから死までを5日間で駆け抜ける濃密な悲劇である。16歳の少年と14歳の少女のパッションは、一途で迷いなく、激しく燃えて潔く消える。マクミランの振付は、2人の喜怒哀楽のすべてを細やかに表現する。バルコニーのパ・ド・ドゥは、20世紀の物語バレエの頂点をなす踊りと言ってもよい。

 そして、今回最も注目されるのは、「うたかたの恋(マイヤリング)」であろう。オーストリア皇太子ルドルフと17歳のマリー・ヴェッツェラが謎の心中を遂げた歴史的事件を、マクミランがリストの音楽を用いてバレエ化したもの。ロイヤル・バレエ団では1978年に初演され、日本では1987年の来日公演以来、23年ぶりの上演となる。  ルドルフとマリーの恋は、ほかの2作のように単純でも純粋でもない。登場人物の関係は、いくつもの情念と欲望が折り重なり、陰影に富んで錯綜している。偽善、野心、色欲、狂気など、マクミランは人間の負の感情を物語に織り込みながら、ルドルフの深い孤独と憂鬱、死への誘惑を描き出してみせる。この作品は、ロマンスの枠を超えた壮大な人間ドラマとして評価が高い。  振付は、絡みあい支えあう男女の姿態を強調したシークエンスが多く、深い官能性をたたえて美しい。また演出は、入り組んだ人間関係をわかりやすく見せるため、舞台上すべてのダンサーの演技に工夫がこらされている。衣裳、美術、照明への行き届いた配慮も、優れた演劇性を下支えしている。

 無邪気でういういしい恋愛、純粋で切ない恋愛、そして生々しくリアルな恋愛。ダンサーの世代交代が進むいまのロイヤル・バレエ団が、3つの恋愛模様をどのように織り上げるのか、来日公演が待ち遠しい。

(海野 敏 東洋大学教授・舞踊評論家)

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