インタビュー・レポート 一覧

【ミラノ・スカラ座】「リゴレット」指揮 グスターボ・ドゥダメル インタビュー動画

ミラノ・スカラ座2013年日本公演開幕まで1週間。
ヴェルディ生誕200年祭を祝して"ヴェルディの劇場"スカラ座がその威信をかけて日本の観客にお届けする《リゴレット》を指揮するのは、今世界で最も注目を集める指揮者グスターボ・ドゥダメルです。
2度目となる来日を前に、スカラ座との来日について、そして《リゴレット》について、日本のファンへのメッセージを届けてくれました。


【ミラノ・スカラ座】『ファルスタッフ』ダニエラ・バルチェッローナ インタビュー

2013年4月11日 11:12


13-04.11Scala01.jpgダニエラ・バルチェッローナ

ヴェルディ・オペラは今の私の声に
適していると思うようになりました。
狂言回し的なクイックリー夫人は、
喜劇的でありながら上品な雰囲気を大切に、
ためらうことなく演じられます。




――日本のファンにとってバルチェッローナさんといえば「ロッシーニのディーヴァ」という印象が強いのですが、ヴェルディのオペラ作品はあなたにとってどのような意味を持ちますか? 

バルチェッローナ:確かに私は、今までロッシーニの作品をレパートリーにしてきました。もちろんこれからも大切なレパートリーとして歌っていくつもりでいます。でも、最近になって、ヴェルディの作品がとても歌いやすくなってきました。ロッシーニ作品のアジリタは若い時のほうが得意だったような気がします。『ドン・カルロ』のエボリ公女や『アイーダ』のアムネリス、『トロヴァトーレ』のアズチェーナといったヴェルディ・オペラのレパートリーが、どんどん自然に歌えるようになってきた感じがしますし、私の今の声に適していると思うようになりました。ロッシーニはコントロールしながら歌うことが必要なのですが、ヴェルディは自由に歌えるのです。


――『ファルスタッフ』のクイックリー夫人役を今までに歌われたことは?

バルチェッローナ:今回が初めてです。


――ロバート・カーセンの演出では、クイックリー夫人の存在感は重要です。どのように役作りをされたのでしょう?

バルチェッローナ:カーセンさんはクイックリー夫人を活気のある女性としてとらえています。狂言回しと言ったらよいのでしょうか? ドラマを進行させる根源となる存在です。演出家の考えにはもちろん従ったのですが、私はイタリアのアヴェ・ニンキという女優のイメージがクイックリー夫人そのものだと感じています。喜劇的な要素を持ちながらも上品な雰囲気がとても素敵な女優さんです。役作りをする上で、彼女の舞台や映画が大いに役に立ちました。それから、派手な衣裳も役作りを助けてくれました。帽子や花柄のエキセントリックな衣裳を着けると、それだけでクイックリー夫人のキャラクターが表れてきて、ためらうことなく演じることができたのです。

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――クイックリー夫人を演じる上で最も難しいと感じられるのは?

バルチェッローナ:『ファルスタッフ』では音楽に書かれている以上に役柄のキャラクターを表現することが要求されています。役者としての演技が必要でした。音楽的な点でも、音域がとても低いので、低音を如何に響かせてオーケストラを超えるか、そのためには頭声と胸声をどのように混ぜ合わせるかなどテクニックの面でも難しい点がたくさんありました。

――イタリア人であるあなたにとって、ミラノ・スカラ座で歌うということに特別な気持ちがありますか?

バルチェッローナ:ミラノ・スカラ座は世界一! 他の劇場とは比較にならないほどの質の高さを保っていると思います。イタリア人としても歌手としてもスカラ座で歌えることは最高の喜びです。私は1998年に『ルクレツィア・ボルジア』の小さな役で初めてスカラ座の舞台を踏みましたが、その時は天にも上る気持ちでした。1999 年にペーザロのロッシーニ・フェスティヴァルの『タンクレディ』で主役を歌って成功を得て、スカラ座での本格的なデビューになりました。私自身は世界中のどの劇場で歌う時も同じ気持ちで全力を傾けていますが、ミラノ・スカラ座は緊張感が違うと言ったらよいのでしょうか。特別ですね。

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――日本での素敵な公演を楽しみにしています。

[インタビュー:田口道子/2013年1月29日 スカラ座 サーラ・ジャッラにて]


【ミラノ・スカラ座】『ファルスタッフ』アンブロージュ・マエストリ インタビュー

2013年4月 9日 11:25

ミラノ・スカラ座日本公演『ファルスタッフ』で、自身最高の当たり役、ファルスタッフを演じるアンブロージュ・マエストリ。これまで実に150回もこの役を演じてきたマエストリのインタビューをお届けします。



13-04.09Scala01.jpgアンブロージュ・マエストリ

ファルスタッフを演じることは
私にとって人生を教えられること。
ファルスタッフの奥にある人生の教訓を
私自身が楽しんで演じることで、
お客さんにも楽しんでもらえると感じています。





――現在、世界中でファルスタッフ役を演じられ、最高の当たり役と評されていますが、ご自身にとって、ファルスタッフを演じるとは?

マエストリ:この役でデビューしたのは2001 年のスカラ座でした。指揮はマエストロ・ムーティで、大変勉強させてもらえましたが、自分自身は必死で、役作りに大変苦労しました。それから12 年、150 回もの公演を経験して、今ではファルスタッフを演じることが楽しくなってきました。私が楽しんで演じていると、お客さんにも楽しんでもらえると実感するようになりました。ファルスタッフの人生は酒好き、女好き、大食漢とばかり考えられてしまいますが、その奥には人生に対する教訓が示されていると思います。ファルスタッフを何度も演じることによって、私自身の人生にも重ねてみて、色々な考え方をするようになりました。ヴェルディが望んだように音色を考えながら演じるのは大変難しいことですが、オペラ歌手としての冥利に尽きる役でもあります。特に私の場合、衣裳の下に肉布団をつける必要もないし、体型は全て本物ですからね(笑)。

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――あなたにとってスカラ座でのファルスタッフは特別な意味を持つものですか?

マエストリ:スカラ座の『ファルスタッフ』、今回の2013 年はヴェルディの生誕200 年祭での公演ですが、私がデビューした2001 年は没後100年の催しの公演でした。このような記念の年に、ほかでもないスカラ座で、ヴェルディの最後の作品で主役を歌えることを光栄に思っています。


――ロバート・カーセン演出の魅力は、どのような点にあると思われますか?

マエストリ:今回のカーセンの演出はロンドンで最初に公演されています。この役について随分と話し合いました。私は私なりのファルスタッフ像を持っていたのですが、カーセンの演出ではファルスタッフをイタリアンではなく、ブリティッシュとしてとらえているという点で随分と考え方の違いがあったのです。でも、カーセン演出はコミックでありながら、マリンコニック(哀愁)なところも大変意識していて、とても詩的に仕上がっていることを納得しました。特に第3 幕第1 場で馬と対話するところなどは大変感動的です。それまでやりたい放題行動してきたファルスタッフがコミカルな表現からマリンコニックな表現に変わるところは人生を省みるようで、ヴェルディ自身の人生にも重ねているように感じます。ヴェルディが「オテロまでのこれまでの作品は観客のために作曲してきたけれど、ファルスタッフは私自身のための作品だ」と言っているように、この演出は奥深いものがあると思います。

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――ファルスタッフを演じる上で、特に難しいことは?

マエストリ:音楽的には声をフルに使うことからファルセットやピアニッシモまで音色の使い分けをすることが要求されています。ほかの作品のように朗々とアリアを歌うのではなくテクニックをフルに活用して感情の表現をしなくてはなりません。演技に関しても、老齢でありながら軽やかに動くこと、孤独を感じ、孤独を恐れる感情をいかに表現したらよいかなど難しいことはたくさんあります。最近、以前にはうまく表現できなかったことがだんだんできるようになってきたと感じています。


――堂々たるファルスタッフの来日を楽しみにしています。


[インタビュー:田口道子/2013年1月20日 スカラ座楽屋にて]




【ミラノ・スカラ座】ロバート・カーセン演出ノートから見る『ファルスタッフ』


13-04.06Scala01.jpg奇才演出家として知られるロバート・カーセン。去る1月にミラノでの初演を迎えた『ファルスタッフ』も、想像していなかったような驚きの連続する舞台が聴衆を沸かせました。"きわめてイタリア的"で、"きわめてイギリス的"なカーセン演出『ファルスタッフ』。カーセンの演出ノートから、この奇才演出家が『ファルスタッフ』をどう見つめたのかをご紹介します。



イタリア的かつイギリス的に!

 スカラ座と英国ロイヤル・オペラとの共同制作となった『ファルスタッフ』に、演出家ロバート・カーセンは特別な意義を認めています。このオペラはイタリア語の台本にもとづきヴェルディが作曲した「きわめてイタリア的な」作品である一方、「きわめてイギリス的な」作品でもある、という考えからです。オペラ『ファルスタッフ』がシェイクスピアの戯曲を原作としていることはよく知られていることですが、カーセンは、その舞台がイギリスであること、さらにここには典型的なイギリス人気質がとりあげられていることにも焦点をおいています。


『ファルスタッフ』の舞台は、ロンドンからほど近い町ウインザー。
この町には独特の社会的空気が息づいている。
そこには、自分が貴族階級に属しているがゆえに今なお好きなことができると思っている落ちぶれた老貴族ファルスタッフが暮らす一方で、フォードに代表されるような、金のありがたみに執着するが、貴族の優雅な物腰は持ち合わせていない新興の中産階級がいる。
かたや、スタイルをもたないブルジョワジー。
かたや、過ぎ去った栄光の時代の記憶を体現する貧しい貴族階級。
こうした階級対立は、もちろんイギリス特有のものではなく、その他の国々、たとえばイタリアにも見ることができる。

(演出ノートより)

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傑作喜劇と哀愁

オペラ『ファルスタッフ』の場合、主人公をはじめ、どの登場人物にも過剰な思い入れをしてしまうことはないかもしれません。途中でどんなにドキドキすることがあっても、最後はハッピーエンドで終わることがわかっているからだと、カーセンは分析します。そのうえで、カーセンならではのファルスタッフ像がつくられています。


どれほれほど愉快きわまりない話であっても、この作品にはどことなく哀愁(メランコリー)が感じられ、とりわけファルスタッフの性格には秋の香りがただよっている。
ファルスタッフは虚栄心のかたまりのような男であり、そこがまた笑える点でもあるのだが、その一方で、そこはかとない悲哀を感じさせる男でもある。
ファルスタッフという人間の中にわれわれが読み取るのは、人生ははかなく、いつ終わるやもしれないという洞察である。
このオペラには、そうした過ぎ去る時間を哀惜する思いがある。
とりわけ、今や消え失せた時代を体現する高貴な騎士ファルスタッフにとって、その思いは強い。
そうした思いはシェイクスピアの作品の中に色濃くにじみ出ており、ヴェルディはそのことを知り抜いていた。
付け加えておくなら、ファルスタッフのうぬぼれは理由のないものではない。
ウインザーの女房たちが、でっぷりとした体型にもかかわらず、彼のようなタイプの男に惹かれていたのかもしれないと考えるなら、彼は決して見当はずれだったわけではないのだ。

(演出ノートより)

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人生を謳歌する祝祭性

カーセンは、さまざまな人間心理がコメディ的な対立をしながら表されるこのオペラの真骨頂はバイタリティーそのもの、「人生を喰らい尽くそうとする欲望、おいしい食べ物や飲み物に対して向けられる強い欲求」にあるとしています。そして、五感の祝宴として表現するために、飲み食いするシチュエーションを散りばめました。アリーチェとメグが同じ手紙をもらったことが判明するのがレストラン、ファルスタッフがアリーチェを口説きにかかるのはキッチン、さらに最後の大団円も祝宴のテーブルで幕をおろします。みんなが一緒に昼食や夕食をとることの楽しさ、陽気なもてなしがおこなわれることが、この作品の中の祝祭性を見るという発想に結びついているのです。最後に示される「世の中すべて冗談」というシェイクスピア風メッセージも、カーセンは祝祭ととらえています。


われわれは自分自身の人生を演じる役者にすぎない。最後は芝居のように幕が引かれる。
シェイクスピアの詩学を汲むこうした比類のない直観は、この作品の中にたっぷりと感じとることができる。
そして、『ファルスタッフ』のような喜劇においては、すばらしいフィナーレが、自分自身を笑い飛ばすべきだということを教えてくれる。
なぜなら、しょせんわれわれは、ちっぽけな問題をことさら大きく騒ぎたて、ややこしくする滑稽な生き物なのだから。
「世の中すべて冗談!」 その言葉は祝祭であり、同時にまた世界のヴィジョンでもある。
そして、すこやかに、かつ正しく世界を見るようにとわれわれを誘う。

(演出ノートより)

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ロバート・カーセン

カナダ出身のロバート・カーセンは、トロントのヨーク大学の演劇科に入学し、その後イギリスのブリストル・オールドヴィク演劇学校に移り、演技を学んだ。このことが、後に彼の演出に大きく影響していることはいうまでもないが、演出家としての才気は、すでに在学中から眼を引くものでもあった。実際、在学中にある教師から「君のアイディアは人を夢中にさせる。いつか演出をしようと考えていないのか?」と問われたことが、カーセンを演出の道へと進ませる契機となった。
グラインドボーンでの演出助手として、演出家のキャリアをスタートしたカーセンは、1990年代前半から活躍の場を広げ、これまでにエクサン・プロヴァンス音楽祭、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座、ケルンやアムステルダムの歌劇場、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場、メトロポリタン歌劇場、フィレンツェ歌劇場、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、ザルツブルク音楽祭などで活躍。数々の受賞歴をもち、現代を代表する演出家の一人に数えられる。


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