主演ダンサー インタビュー 河谷まりあ 沖香菜子 後藤晴雄 柄本弾
ジュリエット役の一人に選ばれた河谷まりあは、今回が主役デビュー。ノイマイヤーのハンブルク・バレエ学校で学んだだけに、「バレエ人生の支えとなってくださっている」と、ノイマイヤーを心から尊敬する。8月のノイマイヤー来日の際に行われたトライアウトは、「ノイマイヤーさんへの感謝の気持ちを伝えたい、という思いでのぞみました。選ばれたのが夢のようです」。『ロミオとジュリエット』は、学生時代に何度も繰り返し観た大好きな作品という。「この作品の、失敗ばかりするジュリエットが大好きなんです。階段から落ちたり、パリスに渡すはずの花束を別の人にあげちゃったり(笑)、踊りもきちんと踊れない。彼女は、愛を知ることで成長し、上手に踊れるようになる、とノイマイヤーさんはおっしゃいます。ジュリエットの人間らしさ、無邪気さを自然に出すことができたら、と思っています」。
そんな河谷のことを「頼もしいパートナー」と話すのは、後藤晴雄。これまでも『時節の色』『スプリング・アンド・フォール』『月に寄せる七つの俳句』と次々にノイマイヤー作品を踊り、実績を重ねてきた。振付家の信頼あってこその配役だが、「これは、自分にとってかなりシビアな挑戦」ときわめて慎重だ。「ノイマイヤーさんは、指先、つま先にいたるまで、繊細な動きを正しく表現しなければ納得されませんから。しかも、ロミオ役にはフレッシュで光り輝くような若さが求められる……。悩みましたが、それでもやはり、僕はダンサーなんですね。チャレンジしたいと思ってしまうんです」。ノイマイヤー作品の魅力についてきくと、「心理描写の美しさですね。実に緻密です。なんて綺麗なんだろうと思います。僕も、ロミオという役をしっかり理解してジュリエットと対峙しなければと思っています」。
もう一人のジュリエットは、沖香菜子。「トライアウトでは、ジュリエットの気持ちを考えながら踊ることがとても楽しくて。その頃、“子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』”のオーロラ姫を踊っていたのですが、あ、これは全然違う自分だ! と気づきました」。相手役を務める柄本弾は、「もちろん、ロミオを踊りたいと思っていました!」と持ち前のチャレンジ精神をのぞかせる。「ただ、『月に寄せる七つの俳句』に出演した経験はあるものの、ノイマイヤーさんの振りがどんなものか、まだ把握しきれていません。トライアウトで来日していたハンブルク・バレエのエレーヌ・ブシェさんとティアゴ・ボァディンさんのパ・ド・ドゥを見せていただいたのですが、振りを覚えるという目的を忘れ、見とれてしまいました。これがノイマイヤーさんの世界なのか、と」。
ノイマイヤーは、リハーサル開始まで、映像を観て振付を学ぶことを全員に禁じているという。「短期間のリハーサルで集中して、自分のジュリエットを創り上げていかなければ」と話す沖。「『ロミジュリ』といえば、(アリーナ・)コジョカルさんのマクミラン版の舞台はとても感激しました。ジュリエットは人間の少女ですから、私もいろいろと自分で考えることができる。原作を読んだのですが、電車のなかで泣いてしまいました(笑)。本番では、ジュリエットを“演じる”のではなく、ジュリエットそのものになれるよう、頑張っていきたいです」。柄本も、「ドラマ性が強く、現代にも通じる部分がたくさんある作品。それだけに、ロミオについてじっくり考える時間を作っていきたいですね。沖とパートナーを組むのは今回が初めて。しっかりとコミュニケーションを取って深めていくことが、僕の今回のテーマの一つです」。
ノイマイヤーの物語バレエの世界をいかに創りあげるか──。4人の挑戦は始まったばかりだ。
(インタビュー・文 加藤智子 フリーライター)