ローマ歌劇場 2014年日本公演

“イタリア人の魂”をもつと言われる『ナブッコ』。このオペラには強力な歌手が必要です。絶大な権力者として君臨しながら錯乱し、 加えて娘への愛情に苛まれるナブッコには、強さだけではない幅広い表現力が要求されます。このナブッコに、女性ながら対峙するのがアビガイッレ。彼女には権力欲や復讐心のほか、女性ならではの愛の激しさをもつことも求められるため、歌唱・演技ともに難役となっているのです。 今回は、この二人の難役を担うルカ・サルシと、タチアナ・セルジャンへのインタビューをご紹介します。


―――デビューはロッシーニのベルカント・オペラでしたね?

サルシ:はい。バス・バリトンとしてデビューしてから5~6年はロッシーニとモーツァルトを中心に、ドニゼッティやベッリーニの作品をレパートリーとしていました。10年くらい前に、タリアブーエの弟子だったカルロ・メリチャーニに師事して、イタリアの伝統的なベルカントの歌い方を学び直すうちに、声の幅が広がり、ヴェルディのバリトン役も歌えるようになりました。ヴェルディのレパートリーに取り組み始めたのは2007年ごろからで、今では15作品くらいをレパートリーにしています。

――そのなかで『ナブッコ』のタイトル・ロールは、あなたにとってどのような意味をもつものですか?

サルシ:一言で言えば、複雑だけれどやり甲斐のある役です。ナブッコは、4つのパートごとに全く違う人格として登場します。第1部は誰もが恐れる武将として、独裁者としての強さを表します。第2部では権力者として驕り高ぶり、頭の中が破裂したかのように狂い、自分を神であると信じてしまいます。ですがそのために神からの罰を受けて、第3部ではそれまでとは全く反対に恐れを抱く弱い男になってしまいます。そして第4部では夢を見て、自分を反省し、神の許しを得て正気に戻り娘を救いに行きます。このようにパートごとに変化がある役は珍しいですよね。難しいけれど、この変化をうまく表現しなければならない。

――どのように取り組まれたのでしょう?

サルシ:ナブッコが歴史上の人物であることから、まず歴史を調べました。そして、台本を隅々までよく読みました。最初はとてつもなく難しいと思っていた役でしたが、台本を深く読んでいくうちに、役柄の特徴を掴むことができました。マエストロ・ムーティが、稽古に時間をかけてくれたので、とても多くのものを学ぶことができました。

――具体的にはどんなところでしょう?

サルシ:マエストロ・ムーティは、これまでの多くがやってきた力強く荒削りな歌い方を、細やかに磨き上げることを求めているのです。ナブッコにしても、90%がメゾ・ピアノ、ピアノとピアニッシモと指示されていて、フォルテで歌うことは本当に少ない。ナブッコの登場の歌い出しもピアノなのです。マエストロが細かく注意してくださらなければ見落としてしまうような、ヴェルディが書いた指示に従うことによって、より感情の表現がしやすくなりました。

――マエストロとは、他の作品でも共演されていますよね?

サルシ:2013年にはローマでは『二人のフォスカリ』と『ナブッコ』そして『エルナーニ』、それにシカゴでの『マクベス』とヴェルディ作品が4本もありました。デビューから16年が経つのですが、その16年分を1年のうちに学んだように感じます(笑)。

――ローマ歌劇場について、どんなところが魅力だと感じていらっしゃいますか?

サルシ:なによりもまず、美しいローマという町にあることが魅力です。スタッフのみんなもとても情熱を込めて舞台づくりに力を合わせているので、家に帰って来たという感じがするほどです。

――その“ファミリー”との日本公演が控えています。日本の聴衆には、どのような印象をお持ちですか?

サルシ:世界のなかでも最も素晴らしい観客だと思っています。オペラに対する情熱というか、熱心さに感心します。オペラの内容をよく理解していることにも。僕たち歌手の演奏の出来、不出来は観客の反応によることがあるんですよ。素晴らしい観客の前では素晴らしい演奏ができるものなのです。



――『ナブッコ』のアビガイッレは以前にも歌われたことがありますか?

セルジャン:いえ、2013年7月のローマ歌劇場が初めてでした。

――とても難しい役ですが、どのように取り組まれたのでしょう?

セルジャン:本当に難しい役! 高音から低音まで2オクターヴも飛んだり、フォルテから急にピアノになったりと、テクニック的にもこの対照を表現するのは大変です。これまでにレパートリーとしてきたヴェルディの登場人物とは全く異なっているのですが、マクベス夫人やオダベッラを歌って来たことは大いに役立ちました。作曲された順序では、『アッティラ』も『マクベス』も『ナブッコ』の後なので、オダベッラやマクベス夫人を深く勉強したことが、アビガイッレの感情を理解することに役立ちました。

――マクベス夫人やオダベッラの強さとアビガイッレの強さの共通点は?

セルジャン:マクベス夫人は野心が強いばかりでなく、悪の原動力ですよね。彼女がドラマの鍵を握っている。オダベッラは民衆や祖国を護る戦士として、最終的にはアッティラを征服し、殺してしまう強さをもっています、アビガイッレはその両方。女性戦士だし、野心にも燃えています。その上、嫉妬や恨みの気持ちもものすごく強いので、より一層ドラマティックです。

――ローマ歌劇場の『ナブッコ』の魅力とはどんなところでしょう?

セルジャン:演出は、簡素でありながら本質をなしていると言ったらよいのでしょうか。決して音楽を邪魔することなく、物語の進行を見せてくれると思います。アビガイッレのアリアの場面でパネルが動くところなどは、本当に彼女の心理を視覚的に表現していると思います。でも、なんといってもマエストロ・ムーティの指揮! 私にとっても、最高のレヴェルの歌手たちと共演できることが魅力です。

――マエストロ・ムーティのオペラづくりはあなたにどのような影響をもたらしていますか?

セルジャン:マエストロとは『マクベス』『アッティラ』『二人のフォスカリ』『エルナーニ』に加えて「レクイエム」も歌わせていただきました。ヴェルディのオペラに対して、これほど深く探求して、知識を備えていらっしゃる指揮者は他にはいないのではないでしょうか。マエストロは歌手の心理もよく理解されているので、どんな質問にも納得のいく説明をしてくださいます。本当に多くのことを学び、助けられています。

――日本にはスカラ座の日本公演でも来日されました。どのような印象をお持ちですか?

セルジャン:10年ほど前の『マクベス』ですね。あのときはデビューしたばかりでしたし、怖くて怖くて、緊張していました。でも、日本の聴衆の皆さんには大いに助けられたと感じています。舞台の出演者と聴衆とは、お互いに与え合い受け取り合う関係にあると思います。良い演奏だと本当に熱心に聴いて、反応を示してくださるので、とても励まされます。日本で成功できたのは聴衆の皆さんのおかげだったのです。日本の皆さんがオペラをこんなに愛しているとは知りませんでしたので、あまりに情熱的なのでびっくりしたのを覚えています。今回は、経験を積んで成長した私の演奏を聴いていただける機会を、私自身も楽しみにしています。 。

          

ローマ歌劇場 2014年日本公演
『ナブッコ』

【公演日】
2014年
5月20日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月30日(金)3:00p.m. NHKホール
6月 1日 (日)3:00p.m. NHKホール

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
ナブッコ:ルカ・サルシ
イズマエーレ:アントニオ・ポーリ
ザッカーリア:ドミトリー・ベロセルスキー
アビガイッレ:タチアナ・セルジャン
フェネーナ:ソニア・ガナッシ


ローマ歌劇場 2014年日本公演
『シモン・ボッカネグラ』

【公演日】
2014年
5月25日(日)3:00p.m. 東京文化会館
5月27日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月31日(土)3:00p.m. 東京文化会館

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
シモン:ジョルジョ・ペテアン
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
フィエスコ:リッカルド・ザネッラート
パオロ・アルビアー二:マルコ・カリア

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