パリ・オペラ座バレエ団 2014年日本公演

バレエ「椿姫」という作品に、 ノイマイヤーが描くものとは

マルグリット：オレリー・デュポン Photo : Anne Deniau / ONP

　原作はアレクサンドル・デュマ・フィスが自らの体験を基に書いた『椿姫』。パリがオスマン男爵により19世紀後半に改革される前 、まだオペラ座が今の場所にはなかった時代が舞台だ。主人公は高級娼婦のマルグリット・ゴーティエと学業を終えたての若者アルマン・デュヴァル。亡くなったマルグリットの遺品の競売シーンから始まる原作同様に、バレエも回想形式となっている。競売品と化した愛しいマルグリットの青いドレスを手にしたアルマンが、彼女との悲しい物語を父に話すという流れで、ジョン・ノイマイヤーは3 幕を進行させる。
　この創作の素晴らしさの１つに、『マノン・レスコー』の主人公であるマノンとデ・グリューの物語を劇中劇にとりこんで、 マルグリットの心の内を語らせるような重層構造が挙げられる。マクミラン振付のバレエ作品では悲劇のヒロインとして描かれている高級娼婦マノン。ノイマイヤーが描くのは、同じ職業ながらお金より愛を選ぶ高潔な心の持ち主マルグリットに対し、マノンは豪奢、享楽の世界にしか生きられない女性だ。アルマンがデ・グリューのように愛に目が眩んで家族も世間もすべてを捨てるなんて、彼女には考えられない事だ。観客は舞台に マノンが登場するたび、彼女に自分を重ねたり、彼女を拒んだりというマルグリットの心の葛藤を見ることになる。回想形式であることと、マノンがどういう存在かを頭に入れておくと、作品により入りやすいだろう。
　見所の多いバレエである。その筆頭は、ガラでもよく踊られる主人公2人によるパ・ド・ドゥだろう。第1幕は出会いの青のパ・ド・ドゥ、第2幕は田舎での幸福感あふれる白のパ・ド・ドゥ、第3幕は愛をぶつけあう激情の黒のパ・ド・ドゥ。ノイマイヤーは複雑かつ繊細な振付で、ダンサーに身体で語らせる。脇を固めるダンサーたちにも注目したい。小賢しい先輩娼婦のプリュダンス、愛するなら息子を諦めろと迫るアルマンの父、女好きの友人ガストン…。全編を流れるショパンの音楽のセレクションは素晴らしく、シルクやファーといった素材を惜しげもなく使った衣裳もゴージャス。目も心も奪われる、感動に満ちた舞台が楽しみだ。

（田口道子・在ミラノ、演出家）

パリ・オペラ座バレエ団「椿姫」DVD

　多くの人を魅了してやまないパリ・オペラ座バレエ団の「椿姫」は、DVDでもお楽しみいただけます。2008年に収録されたこのディスクでは、アニエス・ルテステュのマルグリット、ステファン・ビュリョンのアルマンに加え、アルマンの父ムッシュ・デュヴァルをミカエル・ドナールが、そして劇中劇「マノン」の主人公をデルフィーヌ・ムッサンとジョゼ・マルティネスが踊っているというパリ・オペラ座ならではの豪華キャストが実現しています。

■DVD「椿姫」（プロローグ付・全３幕）
振付：ジョン･ノイマイヤー
本編131分＋特典映像60分　日本語字幕付
2008年7月2・5日
パリ・オペラ座ガルニエ宮での収録
価格：5,040円（税抜　4,800円）
■仕様： DVD/片面2層/16:9LB、
COLOR、リージョン２
音声： リニアPCM STEREO、DTS5.0ch
■品番： COBO‐4908～9

マルグリット(高級娼婦)：アニエス・ルテステュ
アルマン（ブルジョワ青年）：ステファン・ビュリョン
ムッシュ・デュヴァル（アルマンの父）：ミカエル・ドナール
プリュダンス（マルグリットの友人）：ドロテ･ジルベール
ガストン子爵：カール･パケット
公爵（マルグリットのパトロン）：ローラン・ノヴィ
N伯爵（マルグリットの愛人志願）：シモン・ヴァラストロ
オリンピア（マルグリットの商売敵）：エヴ・グリンツテイン
マノン（劇中劇「マノン」の女主人公）：デルフィーヌ・ムッサン
デ・グリュー（劇中劇「マノン」の男主人公）：ジョゼ・マルティネス
ナニーヌ（マルグリットの召使）：ベアトリス・マルテル

パリ・オペラ座バレエ団 アリス・ルナヴァン、エトワールとして日本公演初登場!

　3月のパリ・オペラ座日本公演「ドン・キホーテ」でキトリを演じるアリス・ルナヴァンが、昨年12月20日パリ・オペラ座ガルニエ宮で上演されたアンジュラン・プレルジョカージュ振付「ル・パルク」終演後に、エトワールに任命されました。任命は、パリ・オペラ座バレエ団芸術監督ブリジット・ルフェーブルの推薦を受けて、総裁のニコラ・ジョエルにより行われました。
　ルナヴァンは、1990年パリ・オペラ座バレエ学校に入団し、97年に17歳でパリ・オペラ座バレエ団に入団。2004年にコリフェ、05年にスジェ、12年には、コンクールでキトリのヴァリエーションを踊って、プルミエール・ダンスーズに昇進。
　この後、12月29日に「ル・パルク」、2月下旬～3月初旬までアグネス・デ・ミル振付「フォールリバー伝説」主演を経て、日本公演に登場します。エトワールとしての初の日本公演は3月15日昼公演「ドン・キホーテ」、ジョシュア・オファルトと共に主演予定です。お見逃しなく！