パリ・オペラ座バレエ団 2014年日本公演

 ボーイズSクラスは、地方からの受講生も多く、プロを目指し月1回のレッスンを行っている。クラスは、東京バレエ団の特別団員でもあり、国内外問わず幅広く活動の場を広げている首藤康之が担当。2012年よりスタートし、2期目となるボーイズSクラスについて首藤に聞いた。
 2004年、ダンサー首藤康之にボーイズ・クラスの講師をしてもらったらどうかという話が持ち上がった時、「首藤ほどアーティスティックな人間が引き受けるのだろうか?」との声があがったのも当然。が、首藤の指導はたちまち生徒一人ひとりの心をつかみ、現在はその上を目指すSクラスの活動が注目を集めている。

「クラスには17歳までの男の子がいて、1回2時間半、バレエの基礎と男性のテクニックをみっちりやります。バレエにおいては、何よりも基礎が大切ということは、僕が最も影響をうけた振付家であるモーリス・ベジャールさんから学んだことです。彼の作品を沢山踊ってきたけれど、言われる事といえば常につま先を伸ばすことやバレエのポジションのことでした。あたりまえではあるけれど、それがあるからこそ、舞台ではシンプルに人間性が出て、その人自身の個性が自然に出てくるものだと学びました。
 僕がクラスで教える場合、言葉を駆使するのは勿論ですが、たたずまいからでもわかってもらえるといいなと考えています。というのは、人間は一人ひとり違うし、その一人ひとりの身体にしたって毎日違う。それを見るのが僕の役目ですし、そういうところは大切にしたい。今まで共演した中で素晴らしいな、魅力的だなと思うダンサーの、何が凄いかというと、バレエのテクニックもさることながら、人としての思いが前面に出てきている。つまり、バレエダンサーは、バレエを通して人生を見ているからなのではないかと思うんです」

 首藤自身の変化の一つに、意外なものがあったのも興味深い。それは「以前はいかにもダンサーというか、ダンサーっぽく見られるのがイヤで、ふだんはわざとダンサーに見えない格好をしていたけれど、最近はダンサーって素敵なんだ、と思うようになった」ということ。もちろんナルシスティックな意味などではなく、バレエの道を突き進んでいくうちに、バレエは仕事である以上に、生き方そのものになったから、と言えるだろう。

「生徒たちにも、どう踊るのかといった具体的なことだけでなく、なんで自分は今、ここ(Sクラス)に来ているのか? どうして自分は踊っているのか? そして将来、自分はどうなりたいか? という一つひとつのことをすべて確認しながらそこに立てるようになってほしい。ただでさえ現代は情報化社会だから、自分たちと同じ年格好の男の子がコンクールで賞をとったとか、焦りが出てくる。でも、バレエって、ゆっくりじっくり習得していくものだと僕は思っています。先ほど話した基礎の大切さとつながることですが、自分の身体の様子を見ながら、身体の一つひとつの細胞に繰り返しじっくり入れていった動きは、絶対になくならない。急に忘れることがあっても、レッスンをするうちに記憶が蘇ったり、今まで以上のことがわかったり。とにかく毎日焦らずにニュートラルに稽古を積んでいけば、一番得るのが難しい “ シンプルさ ” とか “ 素 ” に近づける。僕自身もクラスで教えることで、 ダンサーとして成長させてもらっているんだな、ということを感じます」

 もう一つ、首藤が強調したのは、バレエ学校やバレエ団に所属していても、一人のダンサーとしての責任を自覚することの大切さ。

「それにはもちろん自分の身体と向かい合うことも含まれるし、人としてどうあるべきかなどさまざまな方面から自分を厳しく見つめなければならない。バレエってみんなが考えている以上にいろいろな物の見方を教えてくれるものです。クラスではそういった僕が学んだり、感じたりしたこと全てを子どもたちに差し出したいと思っています。最初は緊張していた子どもたちが、最近はレッスンが終わるといろいろな質問が来るようになってきました。とても嬉しいことですし、未来を感じます」


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