アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2014

 めくるめく魅惑のアリーナ・ワールド。コジョカルの舞台のことを、私は密かにそう呼んでいる。2012年に開催された〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト〉をご覧になった方は、この言葉にご納得いただけるのではないか。コジョカルの魅力を多角的に満喫できる公演だったからだ。
 スピードに負けないテクニックが爽快、なのに愛らしさまでが共存する「ラリナ・ワルツ」。「レ・リュタン」ではキュートなコメディエンヌ。高度な技術と洗練が見どころだと思っていた「エチュード」に、繊細と憂いが潜むと教えてくれる表現力。誰かを愛することの切なさが壮絶なまでに伝わってくる「椿姫」。まだ幼さの残る少女にしか見えないコジョカルを襲う恐怖の「ザ・レッスン」。パワフルで華やかな「ドン・キホーテ」。これらの舞台を見てつくづく感嘆したのが、彼女の柔軟で瑞々しい感性である。
 かつてコジョカルはダンスマガジン誌のインタビューで、相手役との間で「何かが新たに起こってそれに応える。そのやりとりの自由感が素晴らしい」と語っていた。だが、舞台の上で、何が起きても大丈夫なほど自由でいるということは、自分を飾ることなく、素のままを舞台でさらけだすということだ。その勇気に、相手を受け入れる柔軟で瑞々しい感性が加わるからこそ、その日の音楽の微妙な揺らめきに反応し、パートナーの視線で感情が高まり、観客たちの熱気に呼応して、表情や演技が自由に変化していくのだ。それは、私たち観客には全く予期することができない、そのときにしか観ることができない、今までに観たことのない新しいコジョカル。だから、彼女の舞台はいつも、驚きとわくわく感に満ちている。これを、「めくるめく」と言わずしてなんと言おう。
 この公演から一年数カ月後、コジョカルが英国ロイヤル・バレエ団を退団するという衝撃的なニュースが世界中を駆けめぐった。ロイヤル・オペラハウスでのラストステージが発表から二日後だったというから、まさに電撃的。そして、英国ロイヤル・バレエ団最後の舞台は来日公演〈ロイヤル・ガラ〉での「うたかたの恋」だった。踊ったのは終幕、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラが死に向かうクライマックス。コジョカルと相手役のヨハン・コボーは10分弱のこの場面で、すでに何時間も全幕作品を踊ってきたかのような濃密な世界を鬼気迫る演技で描き、大喝采を浴びた。
 また昨年9月には、ミラノ・スカラ座バレエ団「ロミオとジュリエット」で来日し、シュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルと初共演。ピュアで純真、でも恋に殉じる一途な激しさをも秘めているコジョカルのジュリエットは、生を謳歌し、精いっぱいにロミオを愛し、そして潔く死を選ぶ。過去にも彼女のジュリエットを観たことはあるが、果たしてこれほど胸を打たれただろうか。
 昨年秋には新たな本拠地、イングリッシュ・ナショナル・バレエでデビューを果たし、絶賛されたコジョカル。飛ぶ鳥を落とす勢いのいま、〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2014〉開催のニュースが飛び込んできた! 詳細はまだ不明だが、「リリオム」「白鳥の湖」などを踊る予定とか。とりわけ見逃せないのが、ジョン・ノイマイヤーがコジョカルに振付けた「リリオム」。回転木馬で働くリリオム(ハンブルク・バレエのカースティン・ユングが出演)とコジョカル演じるジュリーのロマンティックなだけではない心理描写に注目だ。
 コジョカルとともに来日するのは、ローレン・カスバートソン、ヨハン・コボー、スティーヴン・マックレー、ワジム・ムンタギロフなど、前回からのメンバーと前述のユング、そしてノルウェイ・バレエ団のオシール・グネーオである。いまや多くのバレエ・ファンを魅了するムンタギロフを日本に初めて紹介したのは前回の〈ドリーム・プロジェクト〉。キューバ出身で、ヴァルナ国際バレエコンクールのメダリストでもあるグネーオの登場にも期待したい。




アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2014

会場:ゆうぽうとホール(五反田)

2014年
Aプロ
7月20日(日)3:00p.m. / 7月21日(月・祝)3:00p.m. / 7月22日(火)6:30p.m.

Bプロ
7月25日(金)6:30p.m. / 7月26日(土)3:00p.m. / 7月27日(日)3:00p.m.

【演目】
Aプロ/Bプロ
アリーナ・コジョカルは以下の演目を踊る予定です。
ジョン・ノイマイヤー振付「リリオム」の一場面(共演:カースティン・ユング)ほか、ノイマイヤー作品もう1演目レフ・イワーノフ振付「白鳥の湖」第2幕(共演:東京バレエ団)「海賊」ディヴェルティスマン
*音楽は特別録音による音源を使用します。

【出演】
アリーナ・コジョカル / ローレン・カスバートソン / ヨハン・コボー / スティーヴン・マックレー / ワディム・ムンタギロフ / カースティン・ユング / オシール・グネーオ / 東京バレエ団

【入場料[税込]

S=¥16,000 A=¥14,000  B=¥12,000 C=¥9,000 D=¥7,000
学生券¥ 3,000
*学生券はNBS WEBチケットのみで6/20(金)より発売。
◆ペア割引券[S, A席]あり

 【福岡公演】 7/29(火)福岡シンフォニーホール [092-751-8257]

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