80年代、東京バレエ団は、世界に誇りうる重要な作品をレパートリーに加えていきます。その端緒ともいえる公演が、1983年、東京バレエ団創立20周年記念公演として開催されました。〈ベジャールの夕〉です。
 世界的振付家として精力的な活動を展開していたモーリス・ベジャールは、20世紀バレエ団を率い、67年、78年、82年とすでに3度におよぶ日本公演を行い、日本の観客に大きな衝撃を与えていました。82年の第3回世界バレエフェスティバルではジョルジュ・ドンとの「ボレロ」共演で、東京バレエ団初のベジャール作品上演が実現。その翌年に開催された〈ベジャールの夕〉では、パトリック・デュポンを迎えての「ボレロ」のほか、「ドン・ジョヴァンニ」「さすらう若者の歌」など四作品を一挙上演する画期的なプログラムが組まれました。世界的にも上演許可を得るのが難しいとされていたベジャール作品の上演が許されたのは、ひとえに、東京バレエ団の国際的な舞台での実績がベジャールに高く評価されたことによります。その後長きにわたって続くベジャールとの絆は、ここから、築き上げられていったのです。
 その後も、84年にピエール・ラコットを招いての「ラ・シルフィード」初演、85年には「ボレロ」でドンと初の全国公演、パリ・オペラ座バレエ団エトワールに任命されたばかりのシルヴィ・ギエムがルドルフ・ヌレエフとともに主演した「白鳥の湖」など、話題の公演が続きます。その間、着々と準備が続けられていたのは、未曾有の大規模プロジェクト──ベジャール振付のオリジナル作品、「ザ・カブキ」です。黛敏郎に音楽を委嘱、日本の伝統音楽や日本舞踊の所作を取り入れながら、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』を全2幕のバレエに仕上げた巨匠の意欲作は、86年4月に世界初演をむかえ、大成功を収めました。
 同年8月から11月には、「ザ・カブキ」が海外進出を果たします。同作とベジャール作品を含むミックス・プロを携えての第9次海外公演です。9カ国19都市を巡るこのツアーでは、ロンドンのロイヤル・オペラハウス、ミラノ・スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座と、欧州名門五大歌劇場への出演をかなえ、各地で大絶賛を博しました。さらに88年2月〜4月には第10次海外公演として、再び「ザ・カブキ」とともにパリ、ベルリン、ハンブルクなど7都市をまわり、ヨーロッパのバレエ界に東京バレエ団の存在感を強く印象づけたのでした。

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