斎藤友佳理に聞く ワシーリエフ振付 東京バレエ団「ドン・キホーテ」 大きな可能性を期待して
東京バレエ団の「ドン・キホーテ」は、すでに国内外で上演を重ねる“看板演目”の一つとなっています。創立50周年記念シリーズとしての来る9月公演は、主役バジルの柄本弾の初登場をはじめ、多くのダンサーが初役に取り組むことになります。振付家ウラジーミル・ワシーリエフも9月には来日し、直接指導することが予定されていますが、それまでに、“ワシーリエフの「ドン・キホーテ」”を任されたのは、東京バレエ団2001年の初演でキトリ役を演じた斎藤友佳理。ダンサーとして知り尽くしていることに加え、指導者としてもモスクワの大学で学んだ斎藤には、キャスティングについてもワシーリエフからは“あなたがウラジーミル・ワシーリエフだ”と一任されています。
6月から開始したリハーサルでの様子や、指導者として臨むワシーリエフの「ドン・キホーテ」の魅力について、語っていただきました。
「実は、ワシーリエフから今回の公演の指導を任せたいと言われて、一つだけお願いしたことがありました。それは、初演のときとモスクワで開催された04年のマクシーモワ65歳記念ガラの際にもお世話になり、またモスクワの大学への進学を勧めてくださったキャラクターダンスのアラ・ボグスラフスカヤ先生にもう一度レッスンを受けたいということでした。ワシーリエフはいろいろと手を尽くしてくれたのですが、彼女がご高齢で体調などのこともあって無理だということになったので、誰か他の先生を、と考えた私に、ワシーリエフは『必要ない、友佳理ならできるよ』と。それで私も覚悟を決めてお引き受けしました。
なぜそれほどまでに、と思われるかもしれませんが、キャラクターダンスというのは、クラシックと技術的にまったくちがうのです。シューズや踊るために使う筋肉がちがうというだけでなく、きちんとした理論や作法が確立されています。ワシーリエフは、キトリを踊るためにはジプシーの要素が絶対必要、同様にバジルにはエスパーダと、それぞれの要素が必要であると考えているので、私もキトリとジプシーを交替で踊ってきましたが、指導するという立場に立つためには、もう一度学んでおきたいと考えたのです」
このほかにも、昨年より舞踊譜を書き起こしたり、実際にスペインに行き、セルバンテスが〈ドン・キホーテ〉を書いた家を訪れるなど、指導者としての斎藤友佳理の準備は、実際のリハーサル開始よりも半年以上前から始められたとのこと。
実際のリハーサルが進むなかでは、一人でも多くのダンサーにチャンスを、と思う故の葛藤も。
「ワシーリエフの『ドン・キホーテ』では、第1幕のキトリの友人は第2幕の結婚式ではキトリの最高の友人としてヴァリエーションを踊ることに意味があります。通常は別のキャストが登場しますが、ワシーリエフ版では物語に一貫性を持たせるために同じダンサーが踊ります。ワシーリエフ自身、これは自分の『ドン・キ』の魅力だから絶対に譲れないと言うのです。私から見た魅力ということでは、スピーディーな展開で、明るく、フィナーレでの客席との一体感、観た人に幸福感を与えてくれるということも大きいと思います」
「リハーサルは、初演から時間が経つなかで、変わってしまっていることをまず直すことから始めました。ただ、これはリハーサルの最初に団員のみなさんにもお話ししたのですが、私はワシーリエフが望んでいる振付に忠実に伝えますが、ワシーリエフがいらしたときには、最後の最後まで変化していくでしょう、と。そのことを頭の隅に置いて、リハーサルに臨んでください、と。優れた振付家はみな、ダンサーの個々の個性を生かして、作品の進化をはかります。10年前とまったく同じであることを望むわけではないのです。だから私は、ワシーリエフが来日して、今の東京バレエ団のダンサーを見て、さらに今のダンサーの持っている個性を生かしてもらえるように、変えていただけるように望んでいます。私としてはつらい立場ですが(笑)。また、初演の際、肩を怪我していたマクシーモワに無理を言って来日してもらい、キトリを指導していただきました。今は亡き彼女の教えを、次世代のキトリに伝えていくことも大きな使命と思っています」
柄本 弾 古典のなかでいちばん踊ってみたい作品が、この『ドン・キホーテ』。コール・ド・バレエで出演していたときから、ずっと主役を見ながら踊っていました。明るく、派手な作品ですから、自分に合っているのではないかとも思っているんです。バジル役は、これまで踊らせていただいた古典の王子役や『ロミオとジュリエット』などと違って、テクニックのかたまりのようなもの。お客さんをいかに沸かすことができるかが求められるので、テクニックに関してはリハーサルが始まる前から練習を重ねてきました。今回、久しぶりの新キャストとしてバジルを踊るわけですから、いい意味で、お客さんの期待を裏切るような舞台にしたいと思っています。 上野水香 東京バレエ団が上演しているワシーリエフ版『ドン・キホーテ』は、その明るさと色彩感、スピーディーな展開が魅力。実は、私の東京バレエ団デビューの作品でもあります。今回、初めて(柄本)弾君とパートナーを組むわけですが、ディスカッションしながら、お互いがいちばん納得いく形にまでしっかりリハーサルを重ねていきたい。まだ手探りの部分もあるけれど、斎藤友佳理さんの指導はとても心強いです。キトリはごく自然に、あまり作り込まずに演じられる役柄なのですが、今回、友佳理さんの指導で新しい解釈をもらっていて、さらにふくらみが出せるようになればと思っています。これまでとまた違った、フレッシュな舞台になると思うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
会場:ゆうぽうとホール
【公演日】
2014年
9月19日(金)7:00p.m.
9月20日(土)2:00p.m.
9月21日(日)2:00p.m.
【予定される主な配役】
キトリ:アナスタシア・スタシュケヴィチ(9/19、9/21)、上野水香(9/20)
バジル:ヴャチェスラフ・ロパーティン(9/19、9/21)、柄本弾(9/20)
指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【入場料(税込み)】
[9/19,9/21公演]
S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥10,000 C=¥7,000 D=¥5,000 学生券=¥2,500
[9/20公演]
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥4,000 D=¥3,000 学生券=¥1,500
[9/20公演のみ]
親子ペア券(S,A席あり) *7月1日(火)10:00より発売
*学生券はNBS WEBチケットのみで8月19日(火)より発売
★[全公演]ペア割引券(S,A席)あり
【そのほかの公演】
9月27日(土)シンフォニア岩国 TEL:0827-29-1600
キトリ:沖香菜子 バジル:梅澤紘貴