東京バレエ団創立50周年記念シリーズ(8)

 ワガノワ・バレエ・アカデミーでは、卒業の年の『くるみ割り人形』でマーシャ(クララ)を踊ることがバレリーナへの一つの登竜門とされていた。エフゲーニャ・オブラスツォーワもまたそれを夢見るひとりだった。
 「マーシャ役は私の子ども時代の夢でした。この夢のためにより良く踊れるようにいつも努力していました。もし一番優秀な生徒になれなかったら絶対主役は踊れないとわかっていましたから」
 念願叶ってその主役を射止めたのもワイノーネン版。彼女にとって思い出の作品となった。
 「ワイノーネン版はとても好きです。それが私のバレリーナとしての第一歩にもなりましたから。ワイノーネン版には一番優しい気持ちで接しています。踊りの展開も論理が通っているし、それでいてとても感動的で、子どもの世界を描きながら非常に完成度が高い作品ね。たぶん考えうる最高のバージョンじゃないかしら」
 『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの三大バレエの中でもきわめて音楽的に優れているとされている。王子とマーシャの初めての出会いの場面が特に印象深いというオブラスツォーワ。
 「たぶん音楽的にももっとも感情が高まっていて、私にとってはその場面が一番強い印象を受けるところです。作品の中でもっとも感動的な場面だと思います。やはりそれは子どもが夢見ていることですし、おとぎ話のような魔法のような雰囲気があります。チャイコフスキーの音楽の中でもこのアダージオがとても好きです。このアダージオを新しいパートナーと踊ることをとても楽しみにしています」
 マーシャを演じるときに大切にしているのは純粋な子どもの心だという。
 「まず何よりも、子どもだということですね。おとぎ話を信じているとても純粋な子。作品全体がこのテーマに貫き通されていると思います。ずっと胸に秘めてきた夢がクリスマスの夜に叶うひとりの少女の物語。彼女は自分の夢について語っています。いつの日か大人になって、素敵な王子様に出会うことができるかしら、という夢なんです。必要なのはまごころを表現することですね。それがこの作品の中で一番大事なことだと思います」
 『くるみ割り人形』の舞台はクリスマス・イヴ。オブラスツォーワにとってもクリスマスは特別な日だ。
 「いつも家族で祝います。クリスマスは冬の祭日の中でたぶん一番素敵な日だと思う。何よりも大切なことは教会に行くことです。そのあと家族であたたかい食卓を囲みます。たくさんのプレゼントにたくさんの友人との会話。素晴らしい日です」
 日本の観客に会えるのを楽しみにしている。
 「日本の皆さんはバレエを本当に愛していて、公演のあとにも心からの感激を表してくださるのでとても大切に思っています。怪我のせいで今まで日本に行くことができずに『ドン・キホーテ』をキャンセルしてしまいましたが、今はかなり良くなっているので私自身嬉しいです。11月には舞台に出る予定ですから、東京公演は復帰後まもない公演になるでしょう」


 シュツットガルト・バレエ団を代表する貴公子ダンサー、マライン・ラドメーカー。同団来日時にジョン・クランコ版『じゃじゃ馬馴らし』の準主役ルーセンショーを、世界バレエフェスティバルで『ロミオとジュリエット』の抜粋を踊ったことは記憶に新しい。今回、日本の舞台で古典全幕作品での初主演を飾る。
 「全てにおいて高いクオリティが求められるのが、ノーブルな役の魅力であり、難しいところです。優れた技術を持っているのは当然のことで、舞台に立っている限り、全身に意識を行き届かせなくてはなりません。でも、ありきたりの型をなぞるだけでは、薄っぺらな貴公子になってしまう。自然に振る舞い、自然にノーブルさを醸し出したいですね」
 相手役は、ラドメーカーとは旧知の仲のエフゲーニャ・オブラスツォーワ。
 「今回が初めての共演ですが、世界バレエフェスティバルなどで何度も彼女の踊りを見ています。今日のボリショイ・バレエを代表する、素晴らしいバレリーナです。ロマンティックな表現に長けているので、『くるみ割り人形』のクララ役はピッタリでしょうね」
 東京バレエ団との初共演も実現する。
 「今年の彼らのシュツットガルト公演を満席の劇場で見ています。世界バレエフェスティバルの全幕特別プロ『ドン・キホーテ』と『ラ・バヤデール』では、幻想シーンの群舞の美しさに息を呑みました」
 『くるみ割り人形』の舞台はドイツ。“本場”でさぞや同作を踊っていると思いきや、昨今のシュツットガルトでは『くるみ割り人形』を上演していないという。
 「個人的には、馴染み深い作品です。子どもの頃から何度も舞台を鑑賞し、オランダ国立バレエ団に客演して王子役を踊ったことがあります。チャイコフスキーの音楽は、何度聴いても飽きることがない。なかでもグラン・パ・ド・ドゥの曲には高揚感があり、心が躍ります。東京で、観客の皆さんと一緒にクリスマスを祝いたいですね(笑)」
 今季は、『レオンスとレーナ』全幕のファーストキャストとして主役を務める等、プリンシパルとして存在感を増している。
 「念願だった『オネーギン』の標題役を、バンコク公演(10月末)で初めて踊る予定です。シュツットガルトは多彩なレパートリーを持っていますが、やはりクランコのドラマティックな作品を演じられることは団員の誇りです。オネーギンの心の底によどむ寂寥感を痛いほどに感じながら、タチヤーナ役のエリザ・バデネスと役作りに励んでいます」
 ロマンティックな容姿ゆえ、屈折した役柄に配役される機会が少ないという贅沢な悩みを持っていたラドメーカーにとって、オネーギン初役はシュツットガルトでのキャリアの集大成になるだろう。このインタビューの数日後、来年1月にオランダ国立バレエ団(DNB)に移籍することが公式発表されたのだ。
 本人の公式ホームページには、シュツットガルトでの15年にわたる経験を糧に母国に戻り、DNBの多彩なレパートリーに挑戦し、ダンサーとして歩み続けたい、とのコメントが寄せられている。新たなキャリアを踏み出すラドメーカーの前途に注目したい。



東京バレエ団50周年記念シリーズ第8弾
「くるみ割り人形」

会場:東京文化会館

2014年
12月19日(金)7:00p.m.
12月20日(土)2:00p.m.
12月21日(日)2:00p.m.

予定される配役

クララ:エフゲーニャ・オブラスツォーワ(12/19、12/21)
    沖香菜子(12/20)
王子:マライン・ラドメーカー(12/19、12/21)
   梅澤紘貴(12/20)

指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:シアターオーケストラトーキョー

【入場料[税込]】

[12/19、12/21公演]
S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥10,000 C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥4,000
エコノミー券=¥3,000 学生券=¥2,000
[12/20公演]
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000
エコノミー券=¥2,000 学生券=¥1,500

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで11月21日(金)より発売
★ペア割引券[S,A,B席]あり
★親子ペア券[S.A.B席]あり

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