東京バレエ団 「第九交響曲」海外公演 モナコ公演レポート

 1964年10月にベルギーで初演し、観客を熱狂させたモーリス・ベジャールの「第九交響曲」。「この作品では、シラーのテキストと同じように、ダンスが音楽に新たな意義を与える。いわゆる"バレエ"ではなく、"ベートーヴェンの第九交響曲"という、全ての人類に与えられた作品への、深みのある人間的な参加。つまり、マニフェスタシオンなのだ」と、ベジャールは語っている。
 初演後、メキシコのオリンピック競技場、ヴェニスのサン・マルコ広場など世界中の名所で多くの人々を感動と歓喜に包んだが、規模が大きすぎるために上演が難しく、幻の作品となっていた。
 そんなベジャールの傑作が蘇ったのは、昨年11月。東京バレエ団創立50周年の記念イベントの一つとして、東京バレエ団とベジャール・バレエ団が共演して復活させた。東京公演の大成功に続き、この夏、ベジャール・バレエ団の本拠地ローザンヌ、そして生前ベジャールがよく訪れていたモナコで、ヨーロッパツアーが行われた。
 ヴァカンスシーズンが始まり、世界中から富裕層達が集い、ラグジュアリーでまぶしいくらいに華やかな雰囲気に包まれるモナコ。地中海の紺碧の海を臨むグリマルディ・フォーラムは、モナコきってのイベント会場だ。ここで、7月3〜5日、「第九交響曲」が上演された。
 4日の公演。華やかなゲスト達で埋まった会場には、カロリーヌ・ド・モナコ公女も娘と孫たちと共に姿を見せ、公演を楽しまれた。
 ジル・ロマンの"悲劇の誕生"モノローグに続き、第1楽章。大地の奥底からふつふつとエネルギーが沸き上がってくるような音の連なりに、ダンサーたちの体が共鳴し、融合する。上野水香のキレのよいしなやかさと、柄本弾の、ダイナミックな雄々しさ。コール・ド・バレエを含め、一人一人が見事なまでに音楽と対話している。音がそのまま人間の体に乗り移り、無音で饒舌な旋律を奏でているかのようなリリックな動きが、客席を埋め尽くした人々の心を奪う。音の上で戯れるように、弾むような喜びにあふれた大貫真幹とカテリーナ・シャルキナの第2楽章。触れたら壊れてしまいそうなほどの柔らかさと繊細さの中に情緒あふれる調和を描き出した、エリザベット・ロスとジュリアン・ファヴローの第3楽章。そして、人間讃歌を高らかに歌い上げるバスを体現するオスカー・シャコン、柄本、大貫、ファヴローの4人に、2つのバレエ団のダンサーと褐色のアフリカ人ダンサーたちが混じりあって、一気にクライマックスへと昇り詰める第4楽章。オーケストラの躍り上がるような上昇ととともに歓喜はついに炸裂し、会場は熱狂的なスタンディングオベーションに揺れた。
 ベジャールは人間を愛し、人類愛を信じた。"全ての人々は兄弟となる"、という第4楽章の一節が見事なまでに具体化されたベジャールの「第九交響曲」。幻の大作を蘇らせ、東京、ローザンヌ、そしてモナコで壮大な感動を我々にくれた2つのカンパニーに拍手を送るとともに、更なる再演を心から願う。

*「第九交響曲」は、来年(2016年)、かつてのベジャールの本拠ベルギーのブリュッセルほかで再び上演される予定です。


柄本弾、横浜ベイサイドバレエで「ボレロ」デビュー!

 来る8月28日、29日、東京バレエ団は象の鼻パーク 特設ステージで開催される横浜ベイサイドバレエで、「ドン・キホーテ」第1幕より、「タムタム」、「ボレロ」を上演します。29日(土)の「ボレロ」では、柄本弾が初めてメロディ役を踊ることとなりました。
 「第九交響曲」公演の後、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)において、ジル・ロマンと、BBLで「ボレロ」を踊っているエリザベット・ロスによる指導を受けた柄本弾に、ジル・ロマンから“メロディ”を踊ることが許されました。高岸直樹、首藤康之、後藤晴雄、上野水香に続いて東京バレエ団の5人目の“メロディ”の踊り手となります。
 横浜ベイサイドバレエの公演については、下記HPをご覧ください。
http://dance-yokohama.jp/eventprogram/dance/