モーリス・ベジャール没後5年記念シリーズ3
没後5年を経てますます評価が高まる、20世紀の巨匠振付家ベジャール。 金字塔「ボレロ」と幻の名作に、現監督の新作を加えて一挙上演!
モーリス・ベジャール・バレエ団 2013年日本公演
1980年代のあの強熱の“ベジャール・フィーバー”が追体験できる。 「ボレロ」「ディオニソス」そして「ライト」、あの青春の輝きふたたび!
20世紀後半のバレエに革命的変革をもたらした巨匠、モーリス・ベジャールの没後5年を記念するシリーズ第3弾は、本家、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)公演です。 本公演の見どころは、ベジャール作品の不滅の金字塔である「ボレロ」が5年ぶりに本家バレエ団によって日本で上演されるほか、ベジャールのめくるめく魅力がセンセーションを巻き起こした1980年代の2作が復活上演されることです。 まずAプロでは、ベジャールの勇名を世界に馳せてきた「ボレロ」。巨大な円台上に君臨し、本作をリードする“メロディ”役を、BBLのトップ・ダンサー男女2人が日替わりで競演します。そして、鮮烈な横尾忠則の美術、眩惑的なギリシャの音楽を用い、85年の日本公演で熱狂を巻き起こした「ディオニソス」が組曲となって蘇ります。また現芸術監督ジル・ロマンの最新作「シンコペ」では、現在進行形のBBLの意欲的な姿勢を披露します。 Bプロでは、81年にジョルジュ・ドン主演で上演された大作「ライト」が、振付はそのままにジル・ロマンによって再編され、32年の時を経て復活します。 人間の生と死を見つめ、ダンスをもって探求したベジャール。その遺産を守りながら、BBLの未来を見据えて力強くカンパニーを統率する芸術監督ジル・ロマンと、自慢の精鋭ダンサーたちが繰り広げる魅力的な舞台にどうぞご期待ください!
若いダンサーの成長を受けて、 芸術監督ジル・ロマンがベジャールの名作を彼らに託す。
佐藤友紀(フリーライター)
世に「幻の」と付くものは数多くあるが、モーリス・ベジャール・ファンとしてずっと長い間幻の作品だった『ライト』がついにそのベールを脱ぐ! 初演当時の森下洋子とジョルジュ・ドンのパ・ド・ドゥは、我々が知るベジャール作品とはかなりかなり違っているように見え、でもやはりちゃんとベジャールの世界が構築されていることに、ほんのわずかな映像を目にしただけでも驚かされたものだ。今回、約20年ぶりの再演を決めたBBLの芸術監督ジル・ロマンによると、「モーリスの、皆さんが知ってるものとは違う古典バレエに寄った局面をお見せしたかったのと、『ライト』を踊れる若手ダンサーが育ってきたことが、決断の大きな理由」とか。彼はまた「僕の子供たちと言っていい年格好なんだけど、ダンサーとしても人間としても大好きなのさ」と、自分がベジャールから受けた手ほどきを、後輩たちにバトンタッチしていくのがうれしくてたまらないという様子だ。 そんなジルのダンサー想いが実を結んだのが、もう一つの目玉演目『ディオニソス』組曲。これは所属ダンサーはもちろん、ゲスト・ダンサー、そして多くの男性ダンサー達が、ベジャール作品の中でも自分が踊りたいもののトップにあげることが多い演目。日本でも上演されたオリジナル版では、作曲家ワーグナー・ファミリー間の葛藤なども描かれていたが、「二つの世界を一つにして、モーリスの精神を尊びつつ、現代にも通用するようにするのが自分の務め」とジル・ロマンが言う通り、ギリシャの酒場での男性ダンサー達の踊りは、ベジャールならではの両性具有的なマスキュリンさにあふれている。 師ベジャールと同じ振付家の道も歩く、ジルの『シンコペ』は、“心臓停止”という意味のシンコペーションに、音楽におけるリズムのずらしのシンコペーションを重なり合わせたもの。「xxx秒間、心臓が止まっている間、その人間の脳がどんな旅をしているか、との興味から思いついた」とジルが言うように、衝突や闘争がテーマだった前作『アリア』とはかなり違う、「むしろ軽やかで時々ユーモラスな」作品となった。 この3作に、ベジャールの代名詞でもある『ボレロ』も上演される。今も相変わらずTVCMや映画などでしょっ中使用されているラヴェルの名曲『ボレロ』。でもそうした場面での単なるBGM扱いに違和感を覚える人も多いのでは? そんな人にこそ、最初の音の出だしからメインのメロディを踊るダンサーの指の先にまで神経と思いを至らせた本家本元の『ボレロ』にどっぷり浸ってほしい。 「現在カンパニーが扱っているモーリスの作品のプログラミングやら若手の育成、そして自分の振付作品の創作など、やることがいっぱいありすぎて(笑)」とわざと大ゲサに首をすくめて見せるジル・ロマンだが、来日公演の内容には絶大なる自信を持っている様子なのが頼もしい。