「ギリシャの踊り」

振付:モーリス・ベジャール
音楽:ミキス・テオドラキス

地中海に面した港町、マルセイユに生まれたモーリス・ベジャールは、古代より幾多の文明を育んできたこの母なる海に魅せられ、自らを“地中海人”と捉えると同時に、自作の中でもたびたびテーマとして取り上げている。そのベジャールが地中海への憧憬ともいえる思いをストレートに託したのが、1982年にフランスのアルル闘技場で初演した「タラサ、われらの海(ギリシャの踊り)」である。

万物を生み出した生命の源としての海の、ふくよかな存在を表わすような女性たちの群舞。その上に広がる青い空ときらめく陽光、吹き渡る風を感じさせる、躍動的な裸体の若者たちの踊り。つぎつぎに繰り広げられるダンスは、古代からそこに営まれてきた人間の生そのものをも高らかに謳う。

「テオドラキスがこの曲をもってきてくれたとき、私はちょうど、「タラサ」と名づけた地中海もののシリーズに取り組んでいた。すっかり感激して曲を受け取った私は、これを最後の部分に使うことに決めた。

つづいて踊りの数を九個から七つに減らし、振付の方も、数学的な厳しさで(いくつかの踊りは、バッハのフーガのように構成されている)検討し直した。その結果、このバレエ作品は、――ギリシャ人のいうところによると——ギリシャ色が濃くなったのである。民族音楽からの借用を最小限にとどめ、簡素な衣裳もダンサーたちがスタジオで着用するようなもので、実際のギリシャのどこにも存在していないものを使ったのが、却ってこういう効果をもたらすことになったのであろう」

— モーリス・ベジャール

Photo: Shoko Matsuhashi
Photo: Kiyonori Hasegawa

「ロミオとジュリエット」(パ・ド・ドゥ)

振付:モーリス・ベジャール
音楽:エクトル・ベルリオーズ

シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を劇中劇の手法で展開するベジャールの代表作のひとつ。何もない舞台の上で、ダンサーたちが練習をはじめる。喧嘩が始まり、バレエの指揮者がそれを鎮める。そして彼らに愛と憎しみという題で『ロミオとジュリエット』を聞かせ、それが劇中劇の形で展開される。エピローグでは何もない舞台の上に、ダンサーたちが練習のために入ってくる。そして声。「若者よ、恋をしよう。そして、争いはやめよう」。今回上演するのは全編の中から、ロミオとジュリエットによる“パ・ド・ドゥ”である。

Photo: Kiyonori Hasegawa
Photo: Kiyonori Hasegawa

「バクチIII」

振付:モーリス・ベジャール
音楽:インドの伝統音楽

1960年代、モーリス・ベジャールは2度にわたるインドへの旅を契機として、かねてから関心のあったインド文化からその思想・芸術創造に大きな影響を受けた。『バクチ』(ヒンズー教で"親愛"を意味する)は影響を色濃く反映した、ヒンズー教をテーマとし、ヒンズー音楽を用いた。3つの挿話からなる作品である。

全体は3つのパートから成る。最初は古代叙事詩「ラーマーナヤ」で有名な、ヴィシュヌ神の化身ラーマとその妻シーターの踊りで、白の衣裳で踊られる。2つ目はヴィシュヌ神のもうひとつの化身、若さと美貌、音楽の神でもあるクリシュナとラダーの踊りで、黄色の衣裳で踊られる。そして3つ目が東京バレエ団のレパートリーとなっている、シヴァ神と妻シャクティの踊りで、赤の衣裳で踊られる。

「愛ゆえに崇拝者は神的なものと一体化し、己が神の伝説を毎回再体験する。その神には名前などなく、自分自身の至上の現実の一面に過ぎないのだ。(略)

シヴァはヒンズー教・三大神(ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ)の三番目の神である。破壊(とりわけ、幻想と人格の破壊)の神であり、同じく舞踊の神でもある。その妻シャクティは、シヴァが発散しシヴァへと戻ってゆく生命エネルギーに過ぎない。シヴァは静止したままであると同時に、永遠に動いているのである。」

— モーリス・ベジャール

Photo: Kiyonori Hasegawa

「火の鳥」

振付:モーリス・ベジャール
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

今世紀初頭、ディアギレフのロシア・バレエ団がフォーキン振付によって初演した「火の鳥」は、ロシア民話をもとにしたものであった。ストラヴィンスキーの色彩豊かな音楽によって、豪華な絵本をめくるような幻想的な舞台が創られた。内容は王子が火の鳥の助けを得て魔王を滅ぼし、美しい王女と結ばれるというものである。

以来、バランシン版、ノイマイヤー版も誕生。ベジャールは1970年に独自の発想による「火の鳥」を発表した。

——ストラヴィンスキーが、ロシア人作曲家であるということ。

——ストラヴィンスキーが、革命的な作曲家であるということ。

ベジャールは、音楽の中に存在するこの二つの要素に注目し、これをバレエによって抽象的に表現することを試みた。まずは、ロシアの深遠な感情を、そして伝統的な音楽との訣別を・・・。

設定はパルチザンの闘争。曲はバレエ用全曲でなく、組曲を用いている。ブルージーンの作業服に身をかためた革命軍のグ ループの踊り。その中のひとりが作業服を脱いで赤いタイツ姿になってリーダー、火の鳥になる。闘いの果てにリーダーは倒れるが、不死鳥が現れて彼を蘇らせる。

Photo: Enrico Nawratha
Photo: Enrico Nawratha

NBSチケットセンター 
(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)

03-3791-8888

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  • 2024/06 会場:神奈川県民ホール、NHKホール