バイエルン国立歌劇場の前回(2011 年)の日本公演は、東日本大震災から半年後、原発事故の影響から実現が危ぶまれましたが、ドイツ側、日本側が一致団結し、どうにか実現にこぎつけました。あれから6 年経ち、さらに両者の絆は強まって、こんどは万全の体制で最高のものをお届けすべく、いま準備に余念がありません。

ドイツは世界一の「歌劇場大国」と言われ、各州それぞれに立派な劇場をもっています。なかでも17 世紀半ばに起源をもつバイエルン国立歌劇場は、ドイツで最初のオペラ専用劇場であり、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場と並ぶヨーロッパ三大歌劇場の一角として、名実ともにドイツの「ナンバーワン」歌劇場として君臨しています。ミュンヘンのオペラの歴史は数々のオペラ史に特筆大書される出来事とともにあります。18 世紀に若きモーツァルトの名を決定的に世に知らしめ、19 世紀にはルートヴィヒ2 世の庇護のもと初演されたワーグナー作品によって、ミュンヘンはヨーロッパ音楽界の中心地となりました。現在、バイエルン国立歌劇場では毎年初夏の約1か月間「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」が開催されますが、このフェスティバルは1875 年に主にモーツァルトとワーグナーの作品を上演することを意図してスタートしたものです。モーツァルトとワーグナーのオペラこそ、この歌劇場の2 枚看板なのです。

モーツァルト作曲『魔笛』がミュンヘンで初めて上演されたのは1793 年。以来、この地で特別な作品であり続けてきました。エヴァーディング演出の舞台が長く愛され続けているのは、このプロダクションがバイエルン国立歌劇場の“特別な誇り”を担っているからにほかなりません。

また、“ワーグナーの中心地”と認められていた時代をもつミュンヘンに、名ワーグナー指揮者の名が並んでいるのは当然のこと。この名ワーグナー指揮者たちの系譜に、すでに名を連ねているのが現音楽総監督のキリル・ペトレンコです。すでに《ニーベルングの指環》をはじめ、ワーグナー作品での大きな成功を収め、瞬く間にヨーロッパの音楽界でナンバーワンの実力者と認められるまでになりました。バイエルン国立歌劇場の音楽総監督に就任して5 シーズン目を迎え、歌劇場やオーケストラとの信頼も安定したタイミングでの日本公演は、新たな伝説がすでに始まっていることを実感させます。ベルリン・フィル次期音楽総監督でもあるキリル・ペトレンコの日本デビューに、オペラ、音楽ファンの期待はいや増すばかりです。