ジュゼッペ・ヴェルディ作曲『運命の力』(全4幕)
【上演時間3時間50分(休憩1回含む)】
指揮:ズービン・メータ 演出:ニコラ・ジョエル 美術:エツィオ・フリジェリオ 衣裳:フランカ・スカルチャピーノ
STORYと聴きどころ
序曲:
“運命のモティーフ”(運命の扉を3回叩く)が二度響く印象的な始まりから、アルヴァーロとカルロの二重唱のテーマ、レオノーラの祈りのテーマ、レオノーラとグァルディアーノの二重唱のテーマといった、全編のなかのさまざまな場面でのテーマが織りまぜられた序曲は、オペラ全体の内容をコンパクトに暗示する。演奏会などで単独で演奏される機会も多く、ヴェルディが書いたオペラの序曲のなかでも、最も有名なもの。
◆第1幕〜不幸な運命の始まりの場面〜
18世紀セビリャのカラトラーヴァ侯爵邸。 レオノーラとアルヴァーロは駆け落ちの約束をした。出発を目前に、なおも父への思いに苦悩するレオノーラをアルヴァーロは情熱的に説得する。二重唱「ああ、永遠に、私の美しい天使よ」は、アルヴァーロの頼もしさ、愛の強さによってレオノーラも心を一つにしていくさまが描かれる。いざ出発というそのとき、父侯爵が現れ、アルヴァーロが無抵抗を表わすために床に投げたピストルが暴発し、侯爵に当たってしまう。
◆第2幕 〜レオノーラの兄ドン・カルロとレオノーラ、それぞれの動向〜
第1場はレオノーラの兄ドン・カルロの動向。父親の敵討ちのためにレオノーラとアルヴァーロを追うドン・カルロは村の居酒屋へやって来る。男装して放浪しているレオノーラもやって来るが、兄がいることに気づき、いちはやく遠ざかる。勢いよくやって来たジプシー娘プレツィオシッラがイタリア戦線でドイツ軍をやっつけろ、と兵士募集の歌を歌う(「太鼓の響きに」)。ドン・カルロは「私はペレーダ」で、自らを学生と名乗り、自分の素性を友人のこととして語るが、プレツィオシッラだけは彼の嘘を見抜いている。 第2場はレオノーラの動向。アルヴァーロとはぐれてしまったレオノーラは、山中の修道院を訪れ、隠遁生活をおくることを望む。聖母に罪の許しを請う「哀れみの聖母」では不安や良心の呵責、心の平和を得たいと願うレオノーラの心情が劇的に歌われ、これに舞台裏から修道士たちの祈りの声が唱和し、ドラマの緊張感を高める。はじめは思い直すよう諌めるグァルディアーノ神父が、レオノーラの固い決意を受け止めることとなる二人の劇的な二重唱「心は静まり」に続き、オルガンの前奏に導かれ、修道士たちの合唱とレオノーラの聖母への祈りの歌「天使のなかの聖処女よ」が歌われるここは、全曲中の白眉といわれる感動的な場面となる。
◆第3幕〜アルヴァーロとドン・カルロの運命的な出会いの場面〜
第1場 レオノーラは死んだと思っているアルヴァーロは、ドン・フェデリーコ・ヘレロスと名乗ってスペイン軍の士官となり、イタリア、ヴェッレートリ近郊の戦場に居る。不幸な生い立ちを振り返り、レオノーラへの愛と絶望を「天使のようなレオノーラ」で情熱的に歌う。あるとき、アルヴァーロは一人の戦友を救う。実はドン・カルロなのだが、お互いの素性を知らない二人は、「命ある限り、また死んでからも」と、友情を誓う。 第2場 戦いのなか、今度はアルヴァーロが負傷した。看病するドン・カルロに、アルヴァーロは「最後の頼みだ」と、死んだら焼き捨てるようにと小箱を託す。小箱のなかに妹の肖像をみつけたドン・カルロは、アルヴァーロの正体を知る。疑念に勝てず、友情の誓いへの良心の呵責を感じながらも箱を開けてしまう心理を表現する前半に続き、アルヴァーロが助かったと聞いて、復讐の相手を見つけた喜びを歌う後半をもつ「この中に私の運命がある〜やはり助かった」は、ドン・カルロ最大の聴かせどころ。 第3場 戦場の野営地に戻ったアルヴァーロに、ドン・カルロは決闘を挑むが、兵士たちに止められる。朝になると物売りたちが訪れ、プレツィオシッラが陽気に「ラタプラン」を歌って、兵士たちを勇気づける。
◆第4幕〜前の場面から数年後、3人の翻弄された運命が悲劇的な決着を迎える場面〜
第1場 ドン・アルヴァーロはラファエル神父と名を変えてオルナチュロス村近隣の天使の聖母教会に来て数年を過ごしていた。近くの隠棲地にレオノーラが贖罪の日々を送っていることは知らない。 メリトーネが物乞いたちに食事を配り終えたところに、一人の男がラファエル神父を訪ねてくる。アルヴァーロの居場所を突き止めたドン・カルロだ。彼はアルヴァーロに決闘を挑む。二重唱「アロヴァーロ、隠れても無駄だ」は、最初は我慢していたアルヴァーロが、ドン・カルの執拗な挑発に耐えかね、遂に決闘となる長大な場面。ドラマティックな魅力に満ちた内容となっている。 第2場 隠遁生活を送っているレオノーラが、「神よ、平和を与えたまえ」と、アルヴァーロへの変わらぬ愛と、死によって平安を得たいという願いを歌う。全曲中最も有名で感動的なアリアであり、レオノーラ最大の聴かせどころ。そこに、アルヴァーロが、そうとは知らず、レオノーラに瀕死の男の告解を聞いて欲しいと頼む。思いも寄らないアルヴァーロとの再会に、レオノーラは喜ぶが、アルヴァーロは「おまえの兄を刺したところだ」と叫ぶ。次の瞬間、最期の力を振り絞ったドン・カルロは、妹レオノーラを刺す。やってきたグァルディアーノ神父は酷い運命を呪うアルヴァーロを諌め、瀕死のレオノーラはアルヴァーロに看取られて息を引き取る(三重唱「呪ってはいけない」〜「先に天国に行っております」)。