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NBS日本舞台芸術振興会

2020/09/02(水)Vol.405

『M』制作秘話
音響責任者 市川文武インタビュー
2020/09/02(水)
2020年09月02日号
バレエ
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東京バレエ団

『M』制作秘話
音響責任者 市川文武インタビュー

『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」を、何フレーズか.....、
「わらべ歌を使いたい」.....、
作曲家・黛敏郎とともにベジャールの要望に応えた現場

この秋、10年ぶりの上演が実現するモーリス・ベジャール振付『M』(1993年初演)は、『ザ・カブキ』(1986年初演)に続き、作曲家・黛敏郎が音楽を手がけた東京バレエ団のオリジナル作品だ。『ザ・カブキ』で黛氏の録音スタッフとして活躍、上演時の音響を任された市川文武氏に、『M』創作時の裏話をうかがった。

ーーベジャールが三島由紀夫をモチーフとしたバレエを創作するきっかけは、黛さんのご提案だったそうですね。

市川文武:『ザ・カブキ』のためにベジャールと黛さんが初めて打ち合わせをした時、ベジャールが三島の著作をほとんど読んでいるとわかり、それほど好きなら、三島のバレエを創ったらどうかと黛さんが提案されたのです。黛さんと三島は親友でした。三島が亡くなった時、黛さんは自身が司会を務めていた「題名のない音楽会」で、唯一ともいうべき三島の追悼番組を、テレビ局の反対を押し切って企画し放送しました。

ーー『ザ・カブキ』、『M』の創作の頃、市川さんはアオイスタジオのスタッフとして活躍されていました。

市川:黛さんとは『ザ・カブキ』以前から仕事をさせていただいていましたが、当時、黛さんのご自宅とアオイスタジオが、ともに麻布十番にあったので、しょっちゅう更級のお蕎麦などを、ご馳走になりました(笑)。黛さんがベジャールと『M』の打ち合わせをすることになり、黛さんは参考資料を持って行きたいとおっしゃったので、細江英公さんが撮影した三島の写真集『薔薇刑』をはじめ、3、4冊を手に入れ、黛さんにお渡ししました。その時ベジャールは、日本の伝統楽器を使った小編成のアンサンブルによる短い曲をたくさん作ってほしいと黛さんにリクエストしました。黛さんは日本の伝統的な音楽、つまり能の音楽の、笛、小鼓、大鼓を中心に、パーカッション、オンドマルトノ、十七弦の箏などを交えて、作曲しています。

ーーオリジナル曲は20曲以上にものぼります。

市川:その中で、「La Mer(海)」「武士道」「サムサーラ(輪廻転生)」等、タイトルの付いている曲は、ベジャールとの打ち合わせでヒントを得て作曲されました。

黛敏郎直筆楽譜

ーーリハーサル期間は約1カ月。市川さんもその現場に立ち会われました。

市川:黛さんも何度か付き合っています。というのも、ベジャールはたびたび現場で「ここでこういう音楽がほしい」と言い出すことがある。たとえば、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」を、何フレーズか、短く、生ピアノでほしいということで、黛さんが急遽、アレンジしたということがありました。

ーー女性ダンサーたちが歌うわらべ歌「いちかけにかけ」については?

市川:ベジャールが突然、「わらべ歌を使いたい」と。それで、僕が探してきたのです。ほかにもいくつか候補はありましたが、「いちかけにかけ」には「私は九州 鹿児島の 西郷隆盛 娘です」という歌詞がある。黛さんに相談すると、これがいいだろうということになり、ベジャールに提案したのです。

ーーエリック・サティのピアノ曲、「聖セバスチャンの殉教」のファンファーレ(ドビュッシー)、ヨハン・シュトラウス2世のワルツもとても印象的です。

市川:それらは皆、ベジャールが自ら選曲しました。ただ、ラスト近くに使われるティノ・ロッシの「待ちましょう」は、実は当初、ベジャールが淡谷のり子さんの「別れのブルース」をと考えていのですが、黛さんと制作スタッフが代わりにティノ・ロッシではどうかと提案し、採用されたという経緯があります。
ベジャール作品の音の構成はとても映画的ですね。『M』においても、一つのシーンが終わらないうちに次のシーンの音楽が始まることが多い。
そうするとお客さんは拍手する間がない。ダンサーたちにとってそれは負担になるのかもしれませんが、お客さんには、その緊張感がたまらなく面白いものになると思うのです。

「ジャタンドレ(待ちましょう)」のシーン
東京バレエ団「M」より
Photo: Kiyonori Hasegawa

ーー初演時の手応えはいかがでしたか。

市川:ベジャールが三島をどう表現するのだろうと、普段バレエを観ていない人たちも多くいらっしゃって、反応はとても良かった。
三島の本を読んでいる人であれば、「鏡子の家」、「午後の曳航」、「禁色」と、様々な小説のイメージが見事にコラージュされているとわかります。もちろん、読んだことがなくてもバレエとして存分に楽しむことができる。初演の時と同様、いろいろな方に観ていただけたら、と思っています。

取材・文 加藤智子 フリーライター

ベジャール振付「M」のプロモーション動画はこちらから
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三島由紀夫没後50周年記念公演
東京バレエ団

モーリス・ベジャール振付「M」

公演日

10月24日(土)14:00
10月25日(日)14:00

会場:東京文化会館

予定される配役

Ⅰ- イチ…柄本 弾
Ⅱ- ニ…宮川新大
Ⅲ- サン…秋元康臣
Ⅳ- シ(死)…池本祥真
聖セバスチャン…樋口祐輝
女…上野水香
海上の月…金子仁美
オレンジ…沖香菜子
ローズ…政本絵美
ヴァイオレット…川島麻実子

入場料[税込]

S=¥11,000 A=¥9,000 B=¥7,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000
※ペア割引[S、A、B席]あり

U25シート ¥1,000
※NBS WEBチケットのみで9/17(木)20:00から引換券を発売。