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Photo: Kiyonori Hasegawa

2020/12/16(水)Vol.412

〈ニューイヤー祝祭ガラ 〉急遽開催決定!
上野水香、コロナ禍のいま『ボレロ』を踊る決意
2020/12/16(水)
2020年12月16日号
バレエ
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Photo: Kiyonori Hasegawa

〈ニューイヤー祝祭ガラ 〉急遽開催決定!
上野水香、コロナ禍のいま『ボレロ』を踊る決意

上野水香の『ボレロ』ヒストリーと"今"

振付家ベジャールから『ボレロ』のメロディーを踊ることを許された、世界でも数少ないダンサーのひとりである上野水香。不安な時代にエールを贈るべく、急遽開催が決まった2021年1月9日の〈ニューイヤー祝祭ガラ 〉にて、公開公演としては3年ぶりとなる『ボレロ』に挑む心境を聞いた。

ーーまずは、『ボレロ』との出会いを教えてください。

上野:小学生の頃、テレビでパトリック・デュポンさんが踊っているのを観たのが出会いなのですが、その時は映像だったこともあり、「面白い踊りだな~」と思ったくらい。衝撃を受けたのは19歳くらいの頃、まだ入団する前の東京バレエ団と同じ公演に出た際に、舞台裏から高岸直樹さんと首藤康之さんの『ボレロ』を観た時です。その後、当時から大ファンだったシルヴィ・ギエムさんが踊っているのを観て「私も踊りたい!」と。ギエムさんの『ボレロ』が取り上げられたニュース番組を録画して、断片的な映像を自分で組み合わせて、見様見真似で勝手に踊っていました(笑)。当時から、この作品のコアな部分に関しては誰よりも理解しているつもりでいましたね。実際に踊らせていただくようになって、あの時の型は全く正しくなかったことを知りましたが(笑)、コアな部分への認識は今も変わっていないんです。

ーーその"コアな部分"とは?

上野:ベジャールさんの振付が表現している根源は、ラヴェルの音楽そのものであり、また踊るダンサーそのものでもあると思います。シンプルであるが故に、ダンサーの芸術家としての器量やその日の精神状態はもちろん、その人の味わいだったり、ニュアンス、香りだったりが心の中から匂い立ってくる。そういう自分なりのものが出る『ボレロ』を、私なら踊れるような気がなんとなく最初からしていたんです。
ただやはり、自分を出すというのは作品の型が身体にしっかり入ってからのこと。私は首藤さん、ミッシェル・ガスカールさん、そしてベジャールさんご本人からご指導いただく機会に恵まれたのですが、教わったのは型であって、「水香のこういうところを出してほしい」と言われたわけではありません。初めて踊った時は、私にとって初のベジャール作品でもあったので、正しい型で踊るだけで精一杯。それから15年以上踊らせていただいていますが、ようやく"自分の『ボレロ』"になったと思えたのは、ここ2~3年のことです。

「ようやく "自分の『ボレロ』"になったと思えたのは、ここ2〜3年」と語る上野水香
Photo: Kiyonori Hasegawa

ーー15年の間に、踊っている最中の気持ちという面で、具体的にはどのような変化があったのでしょうか。

上野:最初はあの円卓の上に立つことが非常に怖くて、閉塞感に襲われそうな気持ちで踊っていました。でもその円卓がいつしか、怖いものからとても神聖なものに変わり、やがてとてつもなく自由なものになっていって。今では、ほかの誰も立ち入ることができない、誰も脅かすことができない、限りなく自由な自分だけの王国のように思えています。でも思うのは、怖かった時期に「ここから出たい!」と思いながら踊っていた『ボレロ』も、それはそれで私らしい『ボレロ』だったのかなって。踊りながら感じることが本当に1回1回違って、たった15分の作品なのに、まるで一つの人生を生きているような気になる特別な作品。だからこそ、観ている方も毎回さまざまなストーリーを思い浮かべられるのだと思います。

ーーそんな『ボレロ』に、3年ぶりに主演されます。改めて意気込みをお聞かせください。

上野:私、こういう時こそ『ボレロ』が踊りたいって、上演が決まる前から思っていたんですよ。弱っていたり不安になっていたりする人の精神に働きかける、ある種スピリチュアルな面を持った作品のようで、以前から「観たら生きる力が湧いてきた」というお声をよくいただいていたんです。東日本大震災があった時も、ギエムさんが〈HOPE JAPAN〉」と題した公演で、全国で『ボレロ』を踊られていましたよね。そんなことも思い出して、私も皆さんに『ボレロ』をお届けしたい、と思っていた矢先に決まったのが今回の公演。できるなら、私も全国を回りたいくらいです。普段はやらない身体づくりをしなければ踊れない作品なので、全国公演となったらフィジカル面では非常に大変になりますが(笑)
そんな作品ですから、バレエを知らない方や、もっと言えば舞台というものに馴染んでいない方でも、「元気が欲しい」と思っていらっしゃるならぜひ観に来ていただきたいですね。そしてもちろん、私の『ボレロ』を何度も観てくださっている方にも。ギエムさんの『ボレロ』が、胸のすくようなかっこ良さから哀愁を帯びた表現に変わっていったように、同じダンサーが踊っても常に変化する作品です。今回がどんな『ボレロ』になるかは、実際に舞台に立つまで分からない。それがこの作品の面白さであり怖さでもありますが、確実に"今"の私にしかできないものにはなると思いますので、ぜひ劇場に足をお運びください。

取材・文:町田麻子(フリーライター)

東京バレエ団2021年1月9日〈ニューイヤー祝祭ガラ〉ー『ボレロ』ver. 2

◾️〈ニューイヤー祝祭ガラ〉公式サイトはこちらから
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/newyear/

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東京バレエ団〈ニューイヤー祝祭ガラ〉

公演日

2021年
1月9日(土)14:00

会場:東京文化会館

「セレナーデ」
「ディアナとアクテオン」
「タリスマン」
「ドン・キホーテ」
「ボレロ」

予定される演奏者

指揮:井田勝大
演奏:シアター オーケストラ トーキョー

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000 C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
※ペア割引[S、A、B席]あり
※親子割引[S、A、B席]あり

U25シート ¥2,000
※NBS WEBチケットのみで12/10(木)20:00から引換券を発売