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 Photo: Ayano Tomozawa

2021/01/06(水)Vol.413

インタビュー 菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
コロナ禍のもとでの気づきとチャレンジ(1)
2021/01/06(水)
2021年01月06日号
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Photo: Ayano Tomozawa

インタビュー 菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
コロナ禍のもとでの気づきとチャレンジ(1)

ある時ふと、「あれ? これって皆、同じ状況なのでは?」
と気づいたんです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界中の劇場が閉鎖を余儀なくされ、バレエ・ダンサーたちの活動もその多くが制限されています。そんな厳しい状況の下でも、ダンサーたちはそれぞれの思いを胸に、真摯にバレエと向き合っています。ハンブルク・バレエ団プリンシパルの菅井円加もその一人。モチベーションを失いかけた彼女がコロナ禍の中で気付いたこと、新たなチャレンジなど、様々な話題に及んだインタビューの模様を、2回にわたってお届けします。

コロナ禍で向き合ったバレエ
自宅待機から『ゴースト・ライト』へ

インタビューが行われたのは、2020年8月、新型コロナウイルス感染拡大が続く中での一時帰国の際だ。さらに、ジョン・ノイマイヤーの新作『ゴースト・ライト』の初演後、次の新作のリハーサルが進んでいた11月には、ハンブルクにいる彼女にリモートでのインタビューが実現。プリンシパルとしての最初のシーズンのことや、残念ながら中止となった日本公演で上演される予定だった『ゴースト・ライト』への取り組みについて話を聞いた。

ーー今年の夏休みは、いつもと少し違った夏休みになってしまったのではないでしょうか。

菅井:少し変な感覚です。この時期、日本の舞台に出演させていただくことが多かったのですが、それができなくて寂しく思いました。

ーー新型コロナウイルスの感染拡大以前には〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2020〉に出演し、話題になりました。

菅井:急遽ジャンプ・インした形でしたが、出演メンバーの皆さんがあまりに豪華で、「私でよければ」という気持ちでした。たとえば、『海賊』のパ・ド・ドゥを一緒に踊ったキム・キミンさん(マリインスキー・バレエ プリンシパル)とは初対面でしたが、全てリードしていただきました。こんなに素晴らしいダンサーたちがいるんだ!と刺激を受けましたし、いい経験になりました。

ーーこうした公演への参加は、日本のお客さまの前でジョン・ノイマイヤーの作品を踊るまたとないチャンスとなりますね。

菅井:この時は、日本の舞台でも何度か踊ったことがある作品ですが、『ヴァスラフ』のソロを踊りました。一人でジョン・ノイマイヤーの作品を踊るのはプレッシャーでもあります。ハンブルク・バレエ団のダンサーとして、彼の名を背負って踊るのだから。──実は当初、ジョンにすすめられた初めての作品を踊ろうと稽古していたのです。が、1日で覚えてリハーサルしたものの、その時点で私自身、どうしてもしっくりこなくて、その気持ちを正直にジョンに伝えました。「練習が足りません。この状態でこの作品を踊るのは申し訳ないです」と。すると彼は、「わかった。そんなふうに考えてくれて嬉しいよ」と、『ヴァスラフ』を踊ることをすすめてくれたのです。それで私は安心して日本に向かうことができました。新たに取り組んだソロの作品は、またいずれ、お見せできる日がくればいいなと思っています。

ノイマイヤー振付「ヴァスラフ」を踊る菅井円加
(2020年2月、東京で開催された〈アリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクト2020〉より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

ーー2019/2020シーズンはプリンシパルとして迎えた最初のシーズンでした。

菅井:実は、新しい挑戦というべきものはほとんどなく、ある意味、新鮮味や変化のないシーズンだったかと思います。そうこうしているうちに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で劇場はクローズ、カンパニーもクローズ、私たちは自宅待機に──。何に向けて頑張ればいいだろうと目標を失いかけていたところでしたが、ある時ふと、「あれ? これって皆、同じ状況なのでは?」と気付いたんです。ならば今、できることをやっておこうと考えを切り替えることができました。

ーーとはいえ、自宅待機の期間はかなり長く感じられたのではないでしょうか。

菅井:その間ジョンは、毎週毎週、私たちにとても長いメッセージを送ってくれていました。皆、どうしているかな、とか、僕は最近こういうミーティングに出て、皆と一刻も早くまた仕事ができるよう、交渉している、さらには、僕は頑張って戦うから、皆も家でできることを続けて、リハーサルができるようになったら、すぐに全力で取り組めるよう準備していて、と! そしてようやく彼の思いが叶って、衛生面に厳格に配慮するのであれば、活動を再開してよいという許可がおり、その12日後、ジョンは新作のクリエーションを始めました。「こうして時間があるのだから、今、創ろう!」と、動き始めたのです。

ーーコロナ禍のもとで新作のリハーサルが始まったわけですね。

菅井:その頃は、自分のパート以外でどんなことが行われているのか、全くわかっていませんでした。私の踊るパ・ド・ドゥに少し交わるダンサーたち以外とは、全く顔を合わせることがなかったのですから。ずっと、一体このバレエはどんなふうになるのかな、と思っていました。

レッスンは1クラス5、6人で、リハーサルも各パートを完全に分けて進められ、スタジオで大人数がすれ違うことも避けられた。そんな中で創作されたのが、"コロナ時代のバレエ"『ゴースト・ライト』だった・・・。

[インタビュー(2)につづく]

インタビュー・文 加藤智子 フリーライター

菅井円加(すがいまどか) Madoka Sugai


ハンブルク・バレエ団プリンシパル。17歳のとき、ローザンヌ国際バレエコンクール第1位入賞。ジョン・ノイマイヤーが総監督を務めるナショナル・ユース・バレエを経て、2014年にハンブルク・バレエ団に入団。研修生、コール・ド・バレエ、ソリストを経て、2019年7月、日本人では初めて同バレエ団の最高位であるプリンシパルに昇格した。

■「ゴースト・ライト」のPV(英語ナレーション版) はこちらからご覧いただけます。

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