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Photo:  Kishin Shinoyama

2021/07/21(水)Vol.426

金森穣、新作『かぐや姫』を語る (後編)
2021/07/21(水)
2021年07月21日号
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インタビュー
東京バレエ団

Photo: Kishin Shinoyama

金森穣、新作『かぐや姫』を語る (後編)

11月の世界初演に向けて3月からリハーサルが開始された金森穣×東京バレエ団の新作『かぐや姫』。インタビュー後編では、使用するドビュッシーの音楽から生まれるイメージや具体的なバレエの場面について、金森氏がそのあざやかな世界観を語ります。

始まりはドビュッシーの「海」にのせたポワントの群舞。これにはある種の必然を感じました。

――『かぐや姫』では、ドビュッシーの音楽を使用されると伺いました。

金森穣:全曲、ドビュッシーを使用します。ドビュッシーは日本の浮世絵に刺激を受けたり、オリエンタルなものに関心があった。だからドビュッシーの楽曲には東洋的なエッセンスが入っていて、子どもたちが遊び、村人たちで賑わう、いにしえの和の世界観が見事に符合する。私にとってドビュッシーは「かぐや姫」からかけ離れて聞こえないのです。

手前から 金森穣、演出助手の井関佐和子、斎藤友佳理東京バレエ団芸術監督
Photo: Shoko Matsuhashi

――なぜドビュッシーを使うことを思いついたのですか?

金森:他にも実に多くの作曲家の作品を聴き漁りました。勿論、日本の作曲家のものも。そしてある日ドビュッシーの全曲集を聴いていたら、すでに書き上げてあった台本の様々なシーンに、みるみるはまっていったのです。そしてドビュッシーの音楽が放つ光にも惹かれました。ドビュッシーは多くの楽曲に光にまつわるテーマも掲げていますしね。

「かぐや姫」の竹藪のシーンをどうするか考えていたとき、「海」を聴きました。すると波打つ緑の海のイメージが浮かび、風に揺れる竹、笹が見えた。海は生命の源ですから、「かぐや姫」という生の根源から立ち上がる物語にふさわしい。「海」は、朝靄の淡い光、そこから何かが立ち上がる一種独特な光を湛えて始まり、第2楽章は風が出てきて波が激しくうねり、波乱を感じます。そして第3楽章は夕方です。日が沈んでいくことで訪れる闇を感じます。そして海の動きは月の引力に依るのだから、海は月のメタファーでもある。海を、生命を動かす月、それは言わずもがな、かぐや姫の世界なのです。

作品は、「海」にのせた女性24人のポワントの群舞で始まります。後に気づいたのですが、この緑の海のイメージはベジャールの『M』にもありました。『M』は過去に見ているし、刷り込まれていたのかもしれない。けれどもドビュッシーを聴き、かぐや姫のことを考えたとき、ぱっとこの世界観が浮かんだのです。そしてベジャールと東京バレエ団の繋がりからも、これ以外の始まり方はありません。ある種の必然を感じました。

リハーサルより
道児役の柄本弾とかぐや姫役の秋山瑛
Photo: Shoko Matsuhashi

――インタビュー前編で言及された、「すべてが準備されていた」感覚ですね。リハーサルはどのように進んでいますか?

金森:順調ですが、言語化できない、舞踊家の身体を通してのみ表現可能な細かいニュアンス、関係性、音楽性の質を高めていく必要があります。動きの部分では、Noismが17年かけて独自に開発してきた身体性を取り入れつつ、東京バレエ団のダンサーが知っているバレエの技法とのハイブリッドを目指しています。Noismには、Noism バレエとNoismメソッドという訓練法があります。フォーサイスやキリアンといった20世紀後半の巨匠たちは創作のプロセスにおいてバレエの型を解体していきましたが、それを新たな様式として残す問題意識から生まれたのがNoismバレエです。

逆にNoismメソッドは東洋的で、武道やヨガなどに共通する重心の下げ方、多方向の力による拮抗を意識した動きで、バレエダンサーには大変。こうした感覚を身体で覚えるのは振付を覚えるのと次元が違う話ですが、『かぐや姫』第1幕、第2幕、第3幕と毎年創作を続け、3年後に新たな局面が生まれていたら素晴らしくないですか? 許されるなら、東京バレエ団とそのプロセスを踏んでみたいのです。初めてNoism以外のバレエ団に振付けるのですから、一過性のゲストでは終わりたくないのです。だから「2幕を早く!」と言ってもらえる作品にしなければいけませんね。

リハーサルより
2組の主演キャスト。
柄本弾と秋山瑛
秋元康臣と足立真里亜(左奥)
Photo: Shoko Matsuhashi

――『かぐや姫』は、日本人の身体が、いま、どのようにバレエと対峙するのかという広い射程も含むバレエになりそうですね。

金森:日本に西洋の舞踊が入って約100年が経ち、時代も変わりました。今の子たちは幼い頃から世界中のものを見て、触れて生活しています。とはいえ、日本で生まれ育ったゆえの精神性、家族の歴史に思いを馳せたときにつながる記憶がある。それを失うことなく、いかに国際的な視座で物事を見て、多様性を受け入れられるかが21世紀の課題であり、それは舞踊の分野でも問われています。

日本人ダンサーはプロポーションも、能力もどんどん向上している。でも、何でも簡単に触れられるようになったぶん、もしかすると本当にバレエが好きで、外来もののバレエを日本に根付かせようと情熱を燃やした大先輩たちが放っていた光、残してくれたものの価値が見えづらくなっているのかもしれません。これは他の文脈でも言えることですが。

だからダンサーには、単に新しい振付に取り組むのではなく、自分たちが今、この時代に舞踊家であることの意義を感じて欲しいと強く思います。この創作プロセスを通して、今、21世紀の日本で、世界に発信する『かぐや姫』を自らの身体で創り、初演することの意義、過去を受け継ぎ、未来を志向する強さ、その情熱を共有できたら嬉しいです。

インタビュー・文 岡見さえ(舞踊評論家)

金森 穣(かなもり じょう)


演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism Company Niigata芸術監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。ルードラ・ベジャール・ローザンヌ在学中から創作を始め、NDT2在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家、演出振付家として活躍したのち帰国。'03年、初のセルフ・プロデュース公演『no・mad・icproject ~ 7 fragments in memory』で朝日舞台芸術賞を受賞し、一躍注目を集める。'04年4月、りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、日本初となる公共劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。海外での豊富な経験を活かし次々に打ち出す作品と革新的な創造性に満ちたカンパニー活動は高い評価を得ており、近年ではサイトウ・キネン・フェスティバル松本での小澤征爾指揮によるオペラの演出振付を行う等、幅広く活動している。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞、第60回毎日芸術賞、第15回日本ダンスフォーラム大賞ほか受賞歴多数。

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東京バレエ団11月公演
金森穣
「かぐや姫」第1幕 世界初演
モーリス・ベジャール
「中国の不思議な役人」
イリ・キリアン
「ドリーム・タイム」

公演日

11月6日(土)14:00
11月7日(日)14:00

会場:東京文化会館

予定される演目&配役

「かぐや姫」
かぐや姫:秋山瑛(11/6)、足立真里亜(11/7)
童児:柄本弾(11/6)、秋元康臣(11/7)
翁:飯田宗孝(11/6、11/7)

「中国の不思議な役人」
中国の役人:大塚卓(11/6、11/7)
シェフ:鳥海創(11/6)、柄本弾(11/7)
娘:宮川新大(11/6)、池本祥真(11/7)
ジークフリート:ブラウリオ・アルバレス(11/6)、生方隆之介(11/7)
若い男:伝田陽美(11/6)、二瓶加奈子(11/7)

「ドリーム・タイム」
沖香菜子、三雲友里加、金子仁美、宮川新大、岡崎隼也

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)

【新潟公演】
「かぐや姫」第1幕、「ドリーム・タイム」
11月20日(土)13:00/17:00
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館

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