2021/08/18(水)Vol.428
2021/08/18(水) | |
2021年08月18日号 | |
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オペラリッカルド・ムーティ |
Photo: © SF / Marco Borrelli
今年のザルツブルク音楽祭の注目公演の一つが、リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルによるコンサート。今年7月、80歳を迎えてなお"初挑戦"に臨んだマエストロの言葉とともに、ミラノから田口道子さんが速報を届けてくれました。
2021年8月13日、ベートーヴェンの『荘厳ミサ』の本番を終えたマエストロは「まるでエベレストに登頂したよう。音楽による宗教的説法の最大の作品を演奏するのは最高峰の山を征服するような気持ち」と語った。演奏後は10分以上にわたるスタンディングオベーションが続いた。
「1970年から勉強を始めては挫折し、またやり直しては途中で止めてと、自分の中ではまだ早いという気持ちでなかなか先に進めなかった。この作品はシスティーナ礼拝堂の音楽版とでも表現したらよいのか、たくさんのイメージが存在していて複雑すぎる。多くの指揮者を悩ませた作品なのです。」
リッカルド・ムーティ
[2021年ザルツブルク音楽祭
リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン『荘厳ミサ』]
Photo: © SF / Marco Borrelli
ウィーン・フィルも19年ぶりの演奏だという。マエストロは2020年にコロナ禍でコンサートがキャンセルになり、音楽監督を務めるシカゴ響にも行けなくなったために、できた時間をこの『荘厳ミサ』を勉強するチャンスと思ったそうだ。
「このミサと同時代にベートーヴェンが作曲した最後のピアノソナタや弦楽四重奏などもどんどん超自然的な世界へと引き込んでいく。交響曲第5番とは全く違う。すべての言葉の奥深い意味から暗示されるものが何かを追求することに多くの時間をかけた。ベートーヴェンのメモを見ると、最終的な解決を見つけるのに苦労したことが窺える」と語るマエストロも、本番間際までいくつもの迷いに襲われたそうだ。
ソリスト左から
ローザ・フェオーラ(ソプラノ)、
アリサ・コロソヴァ(コントラルト)、
ドミトリー・コルチャック(テノール)、
イルダール・アブドラザコフ(バス)
[2021年ザルツブルク音楽祭
リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン『荘厳ミサ』]
Photo: © SF / Marco Borrelli
マエストロの演奏はかなり密度の高い濃厚な音だった。ローザ・フェオーラ、アリサ・コロソヴァ、ドミトリー・コルチャック、イルダール・アブドラザコフの4人のソリストたちは演奏可能なギリギリのところまで出し切った演奏で観客を魅了した。ベートーヴェンは声を楽器のように扱っているため歌うのはかなり至難のテクニックを必要とするのだ。
今年のザルツブルク音楽祭は観客を劇場の100%まで入場させることにしたが、アメリカ、ロシア、日本、中国などからの観客が少数に限られていたためか、いつもは即座に売り切れて入手困難なチケットが容易に手に入る状態だ。劇場に入るにはマスク着用が義務付けられ、手の消毒はもちろんのことワクチン接種済み証明書の提示も必要となった。15日の演奏は録画されたので日本でも聴ける日が間もなく来ることを願っている。
取材・文 田口道子 在ミラノ
2021年ザルツブルク音楽祭
リッカルド・ムーティ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン『荘厳ミサ』
ソリスト:ローザ・フェオーラ(ソプラノ)、
アリサ・コロソヴァ(コントラルト)、
ドミトリー・コルチャック(テノール)、
イルダール・アブドラザコフ(バス)
Photo: © SF / Marco Borrelli