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Photo:  Ayano Tomozawa

2022/01/05(水)Vol.437

ブルメイステル版「白鳥の湖」
秋元 康臣、沖 香菜子 ロング・インタビュー
2022/01/05(水)
2022年01月05日号
バレエ
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インタビュー
東京バレエ団

Photo: Ayano Tomozawa

ブルメイステル版「白鳥の湖」
秋元 康臣、沖 香菜子 ロング・インタビュー

古典バレエを代表する演目といっても過言ではない名作「白鳥の湖」。
東京バレエ団では2016年より、ドラマ性の高いブルメイステルによる演出版を採用し公演を重ねてきました。
今回「白鳥の湖」では初めてペアを組むオデット/オディール役の沖香菜子とジークフリート王子役の秋元 康臣が、それぞれの思いを語ります。

同じボリショイで学んだ二人の、
新たなる挑戦

――秋元さんと沖さんは「スプリング・アンド・フォール」や「くるみ割り人形」、「海賊」などではペアを組んできましたが、「白鳥の湖」では初めて。お互いにどんな印象を抱いていますか?

沖 香菜子: 私が秋元さんと踊る時に勝手に思っているのは"音の取り方が合う"ということです。自分が動きたいと思う音を同じように感じているから、自然と動きが合うのかな、と。

秋元 康臣: 確かに沖さんと組むと音は取りやすいです。男性ダンサーの場合、相手をサポートしている時に自分が思い描いているのと違う動きをされてしまうと"こう見せてあげたいのに......"と思っていたバランスが崩れることもないわけではありません。それはもちろんリハーサルを通して本番までには調整するのですが。でも、沖さんとのペアだと、いつも最初から自然と完成形に近づける気がします。

沖: 秋元さんには、任せておけば大丈夫! という安心感があります。実は私は自分でやろうやろうとする癖があってパートナーに任せるのが苦手だったのですが、秋元さんと組むことで、任せるべき部分は任せた方が良いのだということを学びました。

秋元: 女性ダンサーに自己完結されるとパートナーとしてはやりにくい時もありますからね。

沖: そういうことを言い合える関係なのは、ありがたいことだと思っています。リフトなどは少しでも遠慮があると危険なこともありますし。

秋元: それは僕に遠慮していないということですね(笑)。まあ、いい関係ですが。

沖 香菜子
秋元康臣

Photos: Ayano Tomozawa

――お二人ともロシアのボリショイ(バレエ学校)で学ばれた経験をお持ちです。息が合い、音が取りやすいのは同じメソッドで学ばれたからでしょうか?

秋元: メソッド......というほど大袈裟なことではないけれど、共通の経験や思い出を話すことはありますね。そもそも「白鳥の湖」はチャイコフスキーを、そしてロシア・バレエを代表する作品で、ボリショイで学んでいた時は彼らのプライドをすごく感じました。チャリャビンスクでの公演で『白鳥の湖』に出演した時は、日本から来た僕が王子役だなんて第一段階では認めてもらえない雰囲気も、正直ありました。これはもう動きで納得させよう、テクニカルな部分を完璧に決めた上でラインも綺麗に見せよう、と努力して、認めてもらえるようになった時は嬉しかったですね。

沖: 私はロシア人の踊る白鳥の、綺麗なポーズやラインをいっぱい目にする経験をしたことで、綺麗に見せたいという気持ちが特に強い演目になりました。「白鳥の湖」はバレエをご存じない方がイメージするバレエの象徴とも言えるくらい、古典バレエの代表作でもありますから、今も踊る時に何か自分の中で身構える部分があります。

秋元: バレエに対する哲学とかメソッドといった固い話だけでなく、ロシアのエピソードは沢山ありますよ。稽古場は意外に暖かいけれど暖房が故障した時には大変なことになる、とか(笑)

沖: 冬はマイナス20℃になることもありますからね。バレエ学校は中庭があって周りに四角い建物のあるつくりなのですが、暖房が止まってしまった日には、レッスン前にみんなでぐるぐる建物の中を走って体を温めたりもしました。

――以前、東京バレエ学校の生徒がワガノワ(・バレエ・アカデミー)に留学した際には、沖さんがロシア語×日本語のバレエ用語ノートを作成してプレゼントしたとか?

沖: 私は挨拶と数の数え方、身体の部位など簡単なロシア語しか勉強していかなかったのですが、よく注意されがちな言葉をまとめてリストにして伝えました。

秋元: 僕が留学したのはまだ英語も学んだことがない12歳の時でしたが、ロシア語のアルファベットの読み方、書き方だけは事前に日本で勉強して行きました。あとは寮母さんと一対一で教えてもらったり、同年代の生徒たちとの会話の中で自然に覚えた感じです。

ブルメイステル版、東京バレエ団ならではの
ドラマティックな「白鳥の湖」

――話を「白鳥の湖」に戻しましょう。お二人がこれまで踊った役は?

秋元: 僕はジークフリート王子だけですが、ロシアに行くまでは全幕を踊っていなかったんです。本場のロシアの舞台で、初めて全幕を何公演か踊ることができたのは本望でした。そして東京バレエ団での初の全幕も「白鳥の湖」でした。2016年に渡辺理恵さんと、2018年、2019年には川島麻実子さんと、踊っています。

沖: 私も2018年にプリンシパルに昇進して初の全幕が「白鳥の湖」でした。この時と2019年の再演時のジークフリート王子は宮川新大さん。オデット、オディール以外には、前の版でコール・ド(・バレエ)とナポリ、ブルメイステル版ではコール・ド、パ・ド・カトル、ナポリのソリスト、第1幕の姫も踊っています。

オデット
Photo: Kiyonori Hasegawa
王子
Photo: Shoko Matsuhashi

――ブルメイステル版の「白鳥の湖」の特徴、見どころはどんな部分でしょうか。

沖: プロローグで悪魔ロットバルトがオデット姫を白鳥に変えてしまう場面があるので、初めてご覧になる方にもストーリーが伝わりやすいと思います。

秋元: 演出によってはバッドエンドの「白鳥の湖」もありますが、最後が人間の姿に戻って終わるブルメイステル版は、観終わったお客さまが幸せな気持ちで家に帰れると思います。

沖: あとは第3幕の民族舞踊の場面で登場する各国の使者がみんなロットバルトの手下、という設定も、ブルメイステル版ならではです。黒鳥はスペインの踊りやマズルカの最中にも出てきて王子を惑わせます。

第3幕より オディール(沖香菜子)とロットバルト(柄本弾)
Photo: Kiyonori Hasegawa

パートナーによっても変化する
オディールの自信と、王子の葛藤

――白鳥のオデットと黒鳥のオディールは、どのように演じ分けていらっしゃいますか?

沖: 私は一人二役、ではなく①オデット②オディール③オデットのふりをしているオディール、の三役だと思っています。ブルメイステル版のオディールは、窓の外にオデットのシルエットが現れても動揺せずに自信満々で、絶対に王子を振り向かせ、(愛を)誓わせなければならないという使命感もあるのだと思って役づくりをしています。

秋元: ジークフリート王子の立場からするとブルメイステル版ではパ・ド・ドゥの間中、ずっと葛藤しているイメージです。オデットのふりをしたオディールに騙されて「好き好き!」と夢中になっているわけではなく、「どっちなのかな? でも美しいな、惹かれるな、でも自分が見たオデットと何かちがうな......」と。葛藤の仕草や不安げな表情がパ・ド・ドゥの随所にあるので、そんなに自信満々でこられても単純には騙されないつもりでいます。

沖: そんな王子に対峙する時にオデットらしさを多く見せた方が騙せるのか、オディールの姿で誘惑するのがいいのか......"オディールの中のオデット具合"はパートナーによって変わるので、これから秋元さんとのリハーサルの中でどう気持ちが変化するか楽しみです。

秋元: リハーサルで積み上げても本番を迎えるとまた違うので、自分も予想していないような感情が出せたらいいなとも思います。

――これまでに受けた指導やアドバイスで印象に残っていることはおありでしょうか。

秋元: ロシアでは王子というものは何をするにもエレガントで上品で、自分から強い意思や決断を一切見せるな、と言われてきましたが、東京バレエ団のブルメイステル版では、初演した時に振付指導をされたアルカージー・ニコラエフ先生に「青い血を持ったすらっとした純粋無垢な王子ではなく、少し強めな王子像で」と、指導を受けました。それ以来、王子だからといって自我がないのではなく、根は強く持っている王子像を心がけています。

沖: 私は感情面よりも具体的な動きについての細かなポイントですね。こうした方が見栄えがいいとか、角度、顔をつける場所......そもそも腕で白鳥の羽ばたきを表現するテクニックも「白鳥の湖」独特のもの。全部の関節を使えるようになると、一つ、白鳥に近づきます。

秋元: 僕らからするとキツそうだな、努力だな......と見ているのですけれどね。なかなか男性にはできない振りです。

沖: ちょっとした手首の折れ方で全然見え方が変わるので、咄嗟にとったポーズでもそれが出てくるようにトレーニングを重ねています。

――最後にこれから「白鳥の湖」をご覧になるお客さまへのメッセージをお願いします。

沖: セットが新しくなるので、初めてご覧になる方はもちろん、今まで「白鳥の湖」を何回も観てくださっている方にも違う感じ方をしていただけると思います。私にとってもパートナーが秋元さんになって、新しい世界観の「白鳥の湖」になるのではないかと期待しています。

秋元: 友佳理さん(東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理)が"集大成"とおっしゃっていましたが、バレエ団としても僕自身も、どんな完成された舞台をお見せできるのか楽しみです。年齢や経験を重ねてきたからこそ、少し変われていたらいいな。お客さまに違いを観にきていただけたらありがたいことだと思っています。

秋元 康臣&沖 香菜子への4つの質問

Q1)「白鳥の湖」で他に踊ってみたい役は?

秋元:ロットバルトですね。もし僕が女性だったらオデットとオディールもやってみたい。

沖:ロットバルト、カッコいいですよね! 謎の多い人物で、色々解釈ができて面白そうだなと思います。


Q2)沖さんは白鳥と黒鳥になる役、秋元さんは白鳥と黒鳥を愛する役ですが、プライベートで愛する動物は?

秋元:今、猫ちゃんを飼っています。もともと実家では犬を飼っていたのですが、今の生活スタイルだとお散歩してあげられないので可哀想で。それで猫を飼ってみたら気まま加減がかわいくなっています。

沖:今は飼っていませんが子どもの頃はハムスターとインコを飼っていました。最初、母がベランダで迷子になっているインコを口笛で呼び寄せてしばらく家で保護していたのですが、飼い主が見つかりお返ししたので、その後に新しい子、ピーちゃんを買ってもらいました。お喋りだけでなく灯油ストーブの燃料切れの音の真似が上手で、灯油が切れた!と急いで行くとピーちゃんの物真似で振り回されました(笑)


Q3)最近のマイブームは?

秋元:相変わらず水風呂です。コロナ禍の規制が少しずつ緩和されて、営業しているお風呂屋さんが増えてきたので時々出かけています。熱いお風呂と水風呂に交互に入るのを何セットか繰り返してリフレッシュしています。

沖:コロナの自粛期間中は1000ピースのパズルに挑戦してハマり、合計3点完成させました。器用ではないのですが細かいものにじっくり取り組むのは好きですね。


Q4)2022年に挑戦したいことは?

秋元:空を飛んでみたい! 見たことのない景色を見るのが好きなので、スカイダイビングとかパラグライダーに挑戦してみたいです。

沖:秋元さんはマイブームが水風呂と言っていましたが、私はコロナが終息したらフィンランドに行ってサウナの後に凍った湖に飛び込んでみたい! 実はロシアにもサウナや自然の水風呂はあるのですが体験したことがないので、いつかぜひ、と思っています。

取材・文:清水井朋子(ライター)

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ブルメイステル版
「白鳥の湖」全4幕

公演日

2022年
2月18日(金) 18:30 
2月19日(土) 14:00 
2月20日(日) 14:00 

会場:東京文化会館(上野)

予定される配役

オデット/オディール: 上野 水香(2/18、2/20)
沖 香菜子(2/19)
ジークフリート王子: 柄本 弾(2/18、2/20)
秋元 康臣(2/19)

指揮:磯部省吾
演奏:シアター オーケストラ トーキョー

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)