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2022/04/06(水)Vol.443

デートリッヒ(シュツットガルト・バレエ団芸術監督)
「ロミオとジュリエット」を語る
2022/04/06(水)
2022年04月06日号
バレエ
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インタビュー
東京バレエ団

デートリッヒ(シュツットガルト・バレエ団芸術監督)
「ロミオとジュリエット」を語る

ゴールデンウィークに開幕する東京バレエ団の「ロミオとジュリエット」。振付のジョン・クランコを創設者にもつシュツットガルト・バレエ団の現芸術監督タマシュ・デートリッヒが、3月〈シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち〉公演のため来日した折に、東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理によるインタビューが実現しました。デートリッヒがクランコ作品の真髄を語り尽くします。

「クランコはバレエの世界で革命を起こしたと思っています」(斎藤)
「その通り。観客の皆さんは"理解"しようとする必要はない。ただ劇場に行けばいい」(デートリッヒ)

斎藤 友佳理(東京バレエ団芸術監督)
Photo: Nobuhiko Hikiji

斎藤 友佳理: クランコのバレエとの出会いは、私にとって、バレエを続けていく大きな力となりました。クランコの『オネーギン』を踊ることが一つの大きな目標となり、それを達成したらバレエから離れてもいいとさえ思っていました。

タマシュ・デートリッヒ: クランコのバレエのような作品は他にはありません。
私が若いダンサーだった時──まだ16歳でした──、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、マリシア・ハイデとリチャード・クラガン主演のクランコ版『ロミオとジュリエット』を初めて観ました。私はその舞台にエキストラとして出演していたのですが、これほどまでに生き生きとしたバレエは観たことがなかった。振付を踊っているにもかかわらず、彼らはバレエを生きている! 私は決断し、その6週間後に、シュツットガルトに渡っていました。

斎藤: 私は東京バレエ団の芸術監督に就いて7年目ですが、このバレエ団をどう導いていくべきか、その方向性は明確に見えています。ダンサーたちがまず最初に取り組むクランコ作品として『ロミオとジュリエット』をと考えていました。将来的には『オネーギン』の上演を視野に入れていて、ジュリエット役のダンサーがタチヤーナを、またロミオ役のダンサーがオネーギン、レンスキーを演じられるまでに成長させていきたいのです。

デートリッヒ: まるで私の人生を話しているようですね。ロミオを踊ることを夢見て、レンスキーを踊り、オネーギンでキャリアを終えました。完璧でした。私は満たされました。私は、マリシア(・ハイデ)やリチャード(・クラガン)をはじめとする素晴らしいアーティストたちから学んだことを若い世代に伝えたいと思うようになったんです。私は、『ロミオとジュリエット』、『じゃじゃ馬馴らし』、『オネーギン』をはじめとするクランコの傑作を信じていますし、『ロミオとジュリエット』は、若いダンサーたちを刺激してくれるはずです。

斎藤: クランコは、バレエの世界で大きな革命を起こしたアーティストの一人だと思っています。

デートリッヒ: ストーリーテリングという意味においてですね。その通り。観客の皆さんは、"理解"しようとする必要はありません。何かを読む必要もない。ただ劇場に行けばいい。幕が開けば、おのずとわかります。
『ロミオとジュリエット』の幕開きは市場のシーン。それはまさに生であり、コール・ド・バレエも、一人ひとりが生きた登場人物なのです。驚くべきことです。それは、私がこのバレエを通して、また当時の偉大なアーティストたちに学んだことです。

沖 香菜子、柄本 弾
Photo: Yumiko Inoue

「振付に何かを付け足す必要はなく、役を生きることが大切です」(デートリッヒ)

斎藤: クランコの『ロミオとジュリエット』を知り尽くしているあなたから、東京バレエ団のダンサーたちにアドバイスをいただけますか。

デートリッヒ: OK! はっきりと言えるのは、どの役柄においても、内側から、踊り手自身からアプローチをしていかなければならないということ。振付に何かを付け足す必要はなく、その役を生きるのです。「ティボルトの死」の場面一つにしても、今日と40年前とでは全然違う。重要なのは、生きているということと、新鮮であることであって、プリンシパルのダンサーのみならず、コール・ド・バレエ含め全員が感動を与えるのです。また、ステップをただ踏むのではなく、その時代を生きること。振付はずっと同じですが、そのエネルギー、生命はいつも違う。だからこそこのバレエは、現代においても新鮮さを保ち続けているのです。コピーではダメです。40年前の誰かのようにしようとしないでください。表現の自由がありつつ、枠組みもあるのですが。
私のカンパニーにも、当時のマリシア・ハイデやリチャード・クラガンを知らない、若い世代のダンサーがたくさんいます。たとえば、「マキューシオの死」の場面のリハーサルをする時、私が気になるのは、後ろにいるダンサーたちです。関与しようとする人もいるけれど、そうでない人もいる。中には、自分たちには何もやることがないと思っている人がいて、そんな時私はリハーサルを止めて、こう言います。「みんな、聞きなさい! これは現実なんだよ」と。一人ひとりが関わることが肝心なんです。後ろの人たちも、皆、一人ひとりが当事者でなければならない。こうすることで、初めてマキューシオを踊る若いダンサーを、大きく助けることになります。こうしたことはスタジオでやるより、舞台でやるほうが簡単にできるものです。ただし、稽古場でこのレベルにまで達していなければいけませんがね。
こうした経験こそが、ダンサーたちを育てると私は考えています。これは『ジゼル』ではありません。『ジゼル』では、ダンサーたちを揃えて美しく見せますよね。『ロミオとジュリエット』はそうではなく、自然発生的でなければならない。毎回同じパフォーマンスであってはならないのです。クランコ作品とはそういうものだと私は考えています。

足立 真里亜、秋元 康臣
Photo: Yumiko Inoue

斎藤: シュツットガルト・バレエ団は、何人もの偉大な振付家を輩出しているカンパニーでもありますね。

デートリッヒ: 私たちにはジョン・クランコ・バレエ学校があります。生徒たちは若いうちから創作の機会を与えられ、偉大な振付家の作品を観ることができます。私の時代はウィリアム・フォーサイス、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤーなどの振付家ですね。クランコは当時からたくさんの振付家を招いていた。それが私たちの伝統の一部でした。
クランコは作品数の少ない振付家ではあるけれど、彼は物語バレエに本当に長けていました。重要なのは、彼のバレエを通して、どのように動き、どのように触れ、どのように手に取るかを学ぶこと。人によって受け取るものは違うかもしれませんが、内側に触れるのです。たとえば笑いにあふれたバレエ『じゃじゃ馬馴らし』はとても難しい作品ですが、本当に素晴らしく、まさにいま、必要とされているものであるといえるでしょう。

秋山 瑛、池本 祥真
Photo: Yumiko Inoue

斎藤: 東京バレエ団による『ロミオとジュリエット』上演に寄せて、ひと言いただけると嬉しいです。

デートリッヒ: 旅、ラブストーリー、悲劇、そして泣いて笑って、鼓動を感じてください。皆さんがまだクランコの『ロミオとジュリエット』を上演していなかったとは驚きました。このバレエを皆さんが踊ることを本当に嬉しく思います。様々なキャラクターがたくさんのインスピレーションを与えてくれるはずです。これは一つの挑戦ですが、素敵なこと。皆さんの心に永遠に刻まれることでしょう。
シュツットガルト ・バレエ団にとって、東京バレエ団との関係性は特別なものです。未来を信じ、ベストを尽くしましょう。

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東京バレエ団初演
クランコ振付
「ロミオとジュリエット」

公演日

2022年
4月29日(金・祝)16:00
4月30日(土)14:00
5月1日(日)14:00

会場:東京文化会館

予定される演目&配役

ジュリエット: 沖香菜子(4/29)
足立真里亜(4/30)
秋山瑛(5/1)
ロミオ: 柄本弾(4/29)
秋元康臣(4/30)
池本祥真(5/1)

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ホリデイファミリーシート(S、A、B、C席)
※ペア割引あり(S、A、B席)