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特別公演『白鳥の湖』カーテンコール <br>Curtain Call for Swan Lake - Special Performance for Ukraine, The Royal Ballet _2022 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

2022/06/01(水)Vol.447

英国ロイヤル・バレエ団
ウクライナ人道支援の特別公演を開催
2022/06/01(水)
2022年06月01日号
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バレエ

特別公演『白鳥の湖』カーテンコール
Curtain Call for Swan Lake - Special Performance for Ukraine, The Royal Ballet _2022 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

英国ロイヤル・バレエ団
ウクライナ人道支援の特別公演を開催

〈ロイヤル・バレエ・ガラ〉開催が待ち遠しいなか、ロンドン在住の舞踊ライター、實川絢子さんから、英国ロイヤル・バレエ団の現地情報が届きました。ウクライナ支援のための特別公演には、7月に来日するダンサーたちも出演。意義ある公演での活躍ぶりがうかがえます。

主要な役を幕ごとに別のダンサーが踊る
一夜限りの『白鳥の湖』

英国ロイヤル・バレエ団は5月5日、ロイヤル・オペラハウスにて一夜限りの『白鳥の湖』(リアム・スカーレット版)特別公演を行った。公演の純利益がDECウクライナ人道支援アピールに寄付されるという今回の公演。バレエ団を代表する4人のプリンシパルがオデット/オディール役で競演するということもあって、チケットは瞬く間に完売した。

この日はオデット/オディール役以外にも、王子、王子の友人ベンノ、王妃、王子の妹たち、ロットバルトなど主要な役を幕ごとに別のダンサーが踊るという、英国ロイヤル・バレエ団では珍しい配役。全幕を通しての王子の成長ぶりや白鳥と黒鳥の演じ分けを見られない分、個性豊かなダンサーたちを一晩で見比べられる貴重な機会となった。

特別公演『白鳥の湖』カーテンコールには4組の主役が並んだ
Curtain Call for Swan Lake - Special Performance for Ukraine, The Royal Ballet _2022 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

第1幕に登場したマシュー・ボールは、王子の苦悩の演技が秀逸。ハムレットの独白を彷彿とさせる第1幕最後のソロでは、乱気流に呑み込まれるようなドラマティックなランベルセが、その後展開する悲劇を暗示するようだった。スカーレット版の第1幕では王子よりも見せ場が多いベンノ役は、今季まだアーティストながら抜擢されたチョン・ジュンヒョク。パ・ド・トロワでは、伸びやかな跳躍でフレッシュな印象を放った。

第2幕の白鳥のグラン・アダージオを踊ったのは、ローレン・カスバートソンと、先日来季からのプリンシパル昇進が発表されたウィリアム・ブレイスウェル。カスバートソンのオデットは、大胆な肘づかいが白鳥の野生味を感じさせるアームスと、湖の水面を滑るようなコントロールの効いた足の動きが、人間と白鳥の狭間にあるこの難役を完璧に体現していた。一方オデットのソロを踊ったサラ・ラムは、人間離れした軽やかさとエレガンスを持ちあわせた踊りで、オデットの儚さを表現することにかけて彼女の右に出る者はいないだろう。ぴたりとシンクロした踊りで魅せたメリッサ・ハミルトンと佐々木万璃子による大きな白鳥も見事だった。

第3幕は、非の打ちどころのない踊りで観客を熱狂させたワディム・ムンタギロフとマリアネラ・ヌニェスによるグラン・パ・ド・ドゥが圧巻。ヌニェスは、オーケストラが奏でるどんな細かな音も掬い上げ、まるで音と戯れているかのような余裕たっぷりの踊りが、自信に満ちたオディールをさらに魅惑的に輝かせていた。

ドラマとして最も盛り上がりを見せたのは、おそらく第4幕だろう。オデット役のナターリヤ・オシポワは、完全に役に身を任せ、全身で泣いているかのよう。ここ数年彼女の相手役を務めることが増えたリース・クラークは、感情迸るダイナミックな踊りで圧倒するオシポワを中和するようで、2人の絶妙なバランスのパートナーシップが面白い。長身が目を引く華やかな存在感で物語のラストに向けてドラマに惹き込み、来季のプリンシパル昇進に相応しい演技を見せてくれた。

青と黄色に照らされたプロセニアムアーチのなかでのカーテンコール
写真提供: 實川絢子

開演前には、プロセニアムアーチが青と黄色に照らされ、劇場内一斉起立の中でウクライナ国歌が演奏された。図らずもかの国の大統領を彷彿とさせるロットバルトの造形や、パンデミックや戦争によって大きな打撃を受けた舞台芸術界を象徴するような悲劇的な結末によって、今やこの作品を混沌とする現実世界とリンクせずに観ることは難しい。そんな中で、一人一人が平和への祈りを込めて渾身の踊りを見せてくれた今回の公演は、数々の困難の中でも決してその灯を絶やすことのない、人々の舞台芸術への愛と情熱を肌で感じさせてくれるものだった。

實川 絢子(在ロンドン、舞踊ライター)

公式サイトへ チケット購入

ロイヤル・バレエ・ガラ

公演日

2022年
【Aプロ】
7/13(水) 18:30
7/14(木) 18:30
7/16(土) 13:30

【Bプロ】
7/17(日) 13:30
7/17(日) 18:00
7/18(月・祝)14:00

会場:Bunkamuraオーチャードホール(渋谷)

予定される出演者

アレクサンダー・キャンベル
セザール・コラレス
ローレン・カスバートソン
フランチェスカ・ヘイワード
平野 亮一
サラ・ラム
ヤスミン・ナグディ
マリアネラ・ヌニェス
マルセリーノ・サンベ
高田 茜
ウィリアム・ブレイスウェル
リース・クラーク
※表記の出演者は3月25日現在の予定です。

入場料[税込]

S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000
C=¥13,000 D=¥11,000
U25シート=¥4,000
*2演目セット券[S,A席]
*ペア割引あり[S,A席]
*親子割引あり[S,A席]