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2022/06/15(水)Vol.448

上野水香インタビュー
バレリーナとして本格的な充実期を迎えて
2022/06/15(水)
2022年06月15日号
バレエ
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東京バレエ団

上野水香インタビュー
バレリーナとして本格的な充実期を迎えて

「こういうふうにバレエと生きている。自分が納得する形で、いい環境で、いい形で踊りたいと思っています」

2022年2月に上演されたブルメイステル版『白鳥の湖』では、このバレエの究極の演技ともいえる奇跡的なオデット/オディールを演じ、観客を魅了した上野水香。2022年は後半も出演が続き、6月には『ドン・キホーテ』(ウラジーミル・ワシーリエフ版)のキトリ、7月には〈ベジャール・ガラ〉と〈HOPE JAPAN 2022〉(全国ツアー)、10月には『ラ・バヤデール』(ナタリア・マカロワ版)のニキヤを踊る。バレリーナとして本格的な充実期に入った彼女に『ドン・キホーテ』の稽古の合間を縫ってインタビューを行った。

「キトリは2004年の東京バレエ団でのデビュー公演以来、2008年くらいまで毎年踊らせていただいた役です。『白鳥の湖』は内なるものの中に自分が入っていてくイメージですが、『ドン・キ』は発散、アウトプットという感じですね。体力的にはとにかく大変で......特にジャンプが得意なわけではないので、フィジカル面では完全に自分に合っている役ではないんです。『白鳥』のほうが入っていきやすい。キャラクター的には自分に近い役なのですが、自分を鼓舞しなければならないし、最初の頃はやり遂げるだけで精一杯だったんです。スカラ座でヌレエフ版をやらせていただいたこともあって、そこから「こういう粋な大人っぽい女性としての表現もあるんだ」と気づいて、キトリのイメージが広がってきました。お芝居もわりと自由なところがあるので、多少遊んでしまったり。その中でクラシック作品としてのきっちりとしたクリーンなところも見せていきたいですし、ヒロインの可愛らしさや優しさ、粋な感じも伝えたいと思っています」

『ドン・キホーテ』は2020年にも踊っているが、コロナ禍の影響で1度延期になった。その間に踊ることの意味も深く考えたと語る。
「コロナによってバレエ団が閉まってしまう、公演がなくなってしまうという中で、何も出来なくなってしまった。本当に無になってしまうと、何が本当に自分には必要なのか浮かび上がってくるんです。そうしたときに、自分は本当に踊りたいんだと思い、一人で毎日欠かさずトレーニングをしていました。東京バレエ団の稽古場は完全に閉まってしまったので、バレエスタジオを借りて、次に再開したときのためにさらに進化していたいと思っていました。久々にバレエ団の皆と集まって稽古をしたときは、とても嬉しかったですね」

『バクチⅢ』
Photo: Kiyonori Hasegawa

7月の〈ベジャール・ガラ〉では『バクチⅢ』と『ギリシャの踊り』を踊る。 「『バクチⅢ』はベジャールさんから一度だけ指導を受けました。ポーズが特徴的なのですが、インド的なポーズの一個一個をくっきり見せて欲しい、振りをなぞるのではなく、ポーズをクリアに見せてほしいと仰っていました。音楽もインドの民族音楽で、アダージオもメロディがないから、パートナーと息を合わせ、まるでヨガをしているような感じです。他の踊りにはない変わったポーズも多いし、スタイルはまったくバレエなのでトゥシューズでピルエットや綺麗なアラベスクも求められる。本当にベジャールさんの作品は個性的だと思います。『ギリシャの踊り』のパ・ド・ドゥ(ハサピコ)は実はかなりスピーディで、一瞬で次の動きに切り替えていかなければならないので、シャープさを要求されるという意味でもハードな作品です。男性も大変だと思いますね」

『ボレロ』(2021年ニューイヤー祝祭ガラ)
Photo: Shoko Matsuhashi

いっぽう〈ベジャール・ガラ〉の翌日から始まる〈HOPE JAPAN 2022〉で踊る『ボレロ』は子供の頃から大好きで、TVで見たパトリック・デュポンの振りを真似して、ずっと一人で踊っていたという。
「デュポンは実は一カ所間違えて踊っていたのですが、その部分も真似をして踊っていたんです(笑)。一人で踊って「これを世の中に出したいな」「どうせ無理だな」と諦めて、忘れかけていたときに踊る機会をいただいたから、イマジネーションは大事かもしれません。『ボレロ』はダンサーとしての器量を問われる作品なので、技術がどうというより、立っているだけで何かを伝えることが出来る存在感が必要なんです。舞台でどんなものを放つか、そのクオリティが低いと、ボレロはつまらない。最初に東京で踊ったときは、全然出来ていなかったのですが、皆さまに育てられて何とか形になってきたと思います」

『ラ・バヤデール』(シュツットガルト公演より)
Photo: Ulrich Beuttenmueller

『ラ・バヤデール』のニキヤを踊るのは2017年から5年ぶり。
「マカロワ版は音楽との関わり合いが優れていて、『この音でこれ』という振付がとても効果的に行われているんです。物語の進行もものすごく見やすくて、入っていきやすいバレエだと思います。シュツットガルトやオマーンでも踊らせていただきましたが、この作品も子供の頃から憧れていて、アスィルムラートワとムハメドフとダーシー・バッセルが踊っている英国ロイヤル・バレエ団のビデオを何度も何度も見ていました。しつこいくらい「踊りたい」と祈っていて、これも忘れた頃に夢がかなったパターンです」

子供の頃は森下洋子やシルヴィ・ギエムに憧れ、今は憧れられるバレリーナとして舞台に立ち続ける。
「いいサンプルになりたい。こういうふうにバレエと生きているんだと。永遠には踊れないですが、自分が納得する形で、いい環境で、いい形で踊りたいと思っています。まだまだ踊りたいし、どんなふうに生きていくのが自分らしいのか、模索中です」

取材・文 小田島久恵 フリーライター