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Photo: Alice Blangero

2022/07/06(水)Vol.449

モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
2022/07/06(水)
2022年07月06日号
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バレエ

Photo: Alice Blangero

モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演

新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年に中止となったモナコ公国モンテカルロ・バレエ団の日本公演。今年11月の公演は2年越しの実現となります。演目も、2年前に上演が叶わなかったジャン=クリストフ・マイヨーによる『じゃじゃ馬馴らし』。実際にマイヨーとの面識もあるバレエ史研究家の鈴木晶さんは「世界一現代的なコレオグラファーかもしれない」と、ほかのいくつもの作品からの印象とともに紹介してくれました。

2人の深い愛を描くのに暴力は必要ない

初めてモンテカルロまでバレエを観に行ったのは今から26年前、1994年のこと。現在のすばらしいグリマルディ・フォーラムはまだなくて、会場はカジノの中だった。バレエ・リュスが本拠にしていた劇場だ。すでにジャン=クリストフ・マイヨーが芸術監督に就任していたが、直接に会う機会はなかった。彼と初めて言葉を交わしたのはそれからちょうど20年後の2014年、場所はモスクワ。
そのとき私はボリショイ・バレエの取材で、ボリショイ関係者が泊まるホテルに滞在していたのだが、メインダイニングに朝食に行ったとき、マイヨーを見かけた。彼がボリショイのダンサーたちを使って『じゃじゃ馬馴らし』を振付けるという話は聞いていたので、どんな具合かを聞こうと思い、翌朝インタビューさせてもらうことになった。で、翌朝いっしょに朝食を食べたのだが、座るとすぐに彼は、同席していたバレエ・ミストレスのベルニス・コピエテルスに何かささやくと、あわてて席を立ってしまい、戻ってきたのは10分後だった。何が起きたのかと聞いたら、シャンプーが目に入って目が痛いので、洗ってきたという。ご存じの通り、マイヨーはスキンヘッドだ。「へえ、スキンヘッドでもシャンプーを使うんだ」と思って笑いを堪えていた自分を今でもよく覚えている(バレエと関係ない話ですみません)。

ジャン=クリストフ・マイヨー
Photo: Alice Blangero

マイヨーに作品を委嘱するというのは、当時のボリショイ・バレエの芸術監督セルゲイ・フィーリンの改革路線の一環だった。『じゃじゃ馬馴らし』はいうまでもなくシェイクスピアの初期作品である。ある富豪に美しい娘が二人いて、妹の方はしとやかで求婚者が絶えないが、父親は「姉の結婚相手が見つかるまでは妹の結婚も許さない」と宣言する。姉は絵に描いたようなお転婆=じゃじゃ馬なのだ。そこへ、姉に求婚する男があらわれ、うまく「調教」して結婚する、というお話だが、問題はその調教で、現代の言葉でいえばモラハラとDVを合わせたようなものだ。だからフェミニストたちから「時代遅れだ」だとボコボコに批判され、そのせいもあって現在では演出を工夫し、台詞を変えて上演されている。エリザベス・テイラーとリチャード・バートンが主演したフランコ・ゼフィレッリ監督の映画(1966)も批判に曝された。もっと時代を遡っても、20世紀前半の劇作家バーナード・ショー(『マイ・フェア・レディ』の原作者)がこの芝居を批判したことは有名だ。

私はマイヨーがそのあたりをどう処理するのだろうかと思い巡らし、どうしても初演(2014年7月、ボリショイ劇場)が見たかったのだが、学期中だったためにモスクワまで行くことができず、同年12月、同じキャストによるモンテカルロ初演を観に行った。そして深く感心した。でも、ここで詳細を明かしてしまうのは避けたいので、ヒントだけ書いておこう。ひとつは「調教」に関して、おそらく多くのバレエ・ファンがご存じのジョン・クランコ版とはまったく違う描き方をしているということ。もうひとつはマイヨーがそれによって深く優しい愛を描いているということだ。マイヨーは私に、「2人の深い愛を描くのに暴力は必要ない」と語った。ラストに、有名なミュージカル・ナンバー「ティー・フォー・トゥー」が流れるとき、誰もがきっと幸せな気分になれるはずだ。

Photo: Alice Blangero

コロナ禍が本格化する前、2020年の正月にモンテカルロで最新作『Coppél-i.A.(コッペリア)』を観たときも痛感したが、マイヨーはきわめて「現代的」だ。世界一現代的なコレオグラファーかもしれない。彼には『ロミオとジュリエット』『ラ・ベル(眠れる森の美女)』『LAC(白鳥の湖)』など、古典に新解釈を加えた作品が多いが、いずれも、どうしてこの古い作品をいま上演するのかという問いについて深く思索し、それにもとづいて振付けている。
モスクワで話したとき、マイヨーはボリショイのダンサーたちの素晴らしさを絶讃していた。そしてその超絶技巧を引き出すと同時に、彼らに新たな挑戦を課すようにして振付けていった。その意味では「ボリショイのダンサーたちのための振付」だった。

Photo: Alice Blangero

上に書いたようにこの作品は2014年にボリショイで、ついでモンテカルロで初演されたが、2019年に、みずから率いるモンテカルロ・バレエ団が同じ作品を上演することになり、彼は振付を改訂した。残念ながら私はまだ観ていないが、コール・ド・バレエのパートを大幅に拡充したと聞いている。みなさんもそうだろうが、私も来日が待ち遠しくて仕方がない。

*本稿は「NBS NEWS ウェブマガジンvol.400」に掲載した記事を一部加筆変更して再掲載しております。

鈴木 晶(バレエ史研究/法政大学名誉教授)

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モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
「じゃじゃ馬馴らし」

公演日

2022年
11月11日(金)19:00
11月12日(土)13:00
11月12日(土)17:00
11月13日(日)13:00

会場:東京文化会館(上野)

配役はモンテカルロ・バレエ団の方針により、
公演当日に発表。

入場料[税込]

S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000
C=¥10,000 D=¥7,000 E=¥5,000
U25シート=¥2,000
※特別ペア割引あり[S,A,B席]
※親子割引あり[S,A,B席]