NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: Alice Blangero

2022/07/20(水)Vol.450

モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
振付家マイヨー独特の美学を探る
2022/07/20(水)
2022年07月20日号
TOPニュース
バレエ

Photo: Alice Blangero

モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
振付家マイヨー独特の美学を探る

新型コロナウイルス感染症の影響による2020年の公演中止以来、2年越しに実現するモナコ公国モンテカルロ・バレエ団の日本公演は本邦初演となるジャン=クリストフ・マイヨーによる『じゃじゃ馬馴らし』。独特で洗練された舞台の魅力の原動力たる振付家マイヨーについて、舞踊評論家の立木燁子さんが紹介してくれました。

マイヨーの創る舞台は、モダンアートのように美しい

ベジャール亡き後、シュツットガルト・バレエ団の輩出した鬼才振付家達が現代バレエをリードしてきたなかで、異彩を放つ存在がモンテカルロ・バレエ団を率いるジャン=クリストフ・マイヨーであろう。洗練された美意識に基づく斬新な舞台。綿密な計算の光る空間構成で、舞台美術もダンスも舞台を構成する要素が渾然一体となって融けあい、隙のない美の世界を現出する。
身体を均一的な様式に収める古典の様式美とは一線を画し、クラシック・バレエの正統を尊重しつつ従来のバレエとは異なる美や身体イメージの創出を追求している。目指すのは総合芸術。マイヨーにとって舞台空間は新たなイメージを浮上させるタブローに他ならない。
トゥール出身の生粋のフランス人。敬愛する父は画家で、舞台美術も手がけた。ロゼラ・ハイタワーのバレエ学校などでバレエを学び、ハンブルク・バレエ団でソリストとして活躍した後、1993年よりモンテカルロ・バレエ団の芸術監督を務めている。歴史を踏まえたバレエ・リュス所縁の作品や現代バレエの紹介に力を入れてきたが、その後はマイヨーの創作作品をレパートリーの主軸に置きバレエ団の個性を築きあげてきた。
マイヨーの創る舞台は、モダンアートのように美しい。古典作品を手がけるにしても物語の世界を深く読み直し(多くは心理的に)、同時代と響きあう今日的な表現を模索するが、その舞台が視覚的な美しさと結びついているところに特徴がある。たとえば、『シンデレラ』では、ガラスの靴の代わりに金色に輝くバレエ・ダンサーの脚がシンデレラを象徴する〈証〉として呈示された。表現の妙と言えよう。
長くマイヨーの創作意欲を刺激してきたベルニス・コピエテルスがそうであったように、この振付家は長身のダンサーを求める傾向があるようだが、重要なのはダンサーの身体が空間に描くラインであり、描線である。超絶技巧の披露にしても、それはマイヨーの作品世界の具現でなければならない。総合芸術としての揺るぎない構図と存在感。バレエの技法によりながら、しなやかな肢体が生み出す新たな身体イメージと語彙が求められている。

Photo: Alice Blangero

ポスト・コロナの新時代、ダンスの中心にマイヨーがいる

本邦初演される『じゃじゃ馬馴らし』の場合も、シェイクスピアの戯曲を基にしてはいるが、ドラマに今日的な風を吹き込み、凛として自己主張をする現代の女性像を描こうとしている。男性の支配の下に女性を"調教(馴らす)"しようとする時代遅れの女性観から主人公を解放し、互いに求めあい尊敬しあう「結婚」へのプロセスをコミカルで見応えのあるバレエに仕立てた。ボリショイ・バレエでの初演(2014)から8年。このたび日本で紹介されるモンテカルロ・バレエ団の改訂上演版(2017)ではさらに群舞などの振付を充実させ、舞台の厚みが増しているというから楽しみだ。
2000年以来、マイヨーはモナコ公国の支援のもとにモナコ・ダンス・フォーラムの開催にも力を注いでいる。公演のみならず展示、ワークショップやセミナーなど新しい時代の文化を生み出すことに意欲を示し、フォーラムでは最先端のデジタル・アートや映像表現などを世界中の研究者を招いて紹介してきた。

リハーサル中のジャン=クリストフ・マイヨー
Photo: Alice Blangero

ポスト・コロナの時代。時間や距離を超えるサイバー・ネットワークを駆使した表現が重要性を増し、舞台芸術が変化を迫られる今、先見性の光る新たな芸術的ネットワークを生みだしつつある。新旧の世代をつなぎ、伝統と現代が出会う。21世紀のバレエ表現を考える場=フォーラムを提供し、その中心にマイヨーがいる。舞台芸術の明日をいかに導いてくれるか期待したい。

*本稿は「NBS NEWS ウェブマガジンvol.401」に掲載した記事を一部加筆変更して再掲載しております。

立木燁子:舞踊評論家

公式サイトへ チケット購入

モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
「じゃじゃ馬馴らし」

公演日

2022年
11月11日(金)19:00
11月12日(土)13:00
11月12日(土)17:00
11月13日(日)13:00

会場:東京文化会館(上野)

配役はモンテカルロ・バレエ団の方針により、
公演当日に発表。

入場料[税込]

S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000
C=¥10,000 D=¥7,000 E=¥5,000
U25シート=¥2,000
※特別ペア割引あり[S,A,B席]
※親子割引あり[S,A,B席]